第二話 共同生活開始
隼はエレベーターに乗り込む咲苗の姿を見届けると、陽菜子と正対。
「今日から三ヶ月間、私が隼君のお姉ちゃんだよ」
陽菜子のやさしい笑顔が自然と隼を笑顔で頷かせる。
応えるように笑顔で頷いた陽菜子はドアノブを右手で握る。
「どうぞ」
陽菜子はドアを開けると、隼を先に通すように立つ。
隼は陽菜子を見つめ、頭を下げる。
「お邪魔します。そして、お世話になります」
隼はゆっくりと室内へ。目の前にはおしゃれなインテリアで彩られた空間。
何か珍しいものを見たかのように、視線を右から左へ移す隼。
「外国に来たみたい…」
隼が驚くように言葉を漏らすと同時に、ドアがゆっくりと閉まる。
それからすぐ、隼の背後からやさしい声が。
「ここが、今日から隼君と私が一緒に生活する部屋。散らかってて恥ずかしいけど」
「そんなことないです…!」
隼の言葉に微笑む陽菜子。
「優しいね、隼君。こんなに優しい男の子は初めて見たな。さすが、咲苗の弟だな」
陽菜子は天井を見つめながらそう応えると、靴を脱ぐ。
「どうぞ、上がって」
そして、隼と正対し、そう言葉を掛ける。
隼は陽菜子の目を見つめ、頷く。
「改めて、お邪魔します。そして、お世話になります」
そして、ゆっくりと靴を脱いだ。
「トイレはここ。寝室はこの部屋を使ってね。布団は押し入れに入ってるから。後は…」
陽菜子は隼に室内を案内する。隼は時折頷きながら陽菜子の説明に耳を傾ける。
「こんな感じ。分からないことがあったら何でも聞いてね。そして、遠慮しないで頼ってね」
「はい」
笑顔の二人。
陽菜子は小さく頷くと、室内の時計へ視線を向ける。
「そろそろ買い物行こうかな…」
その言葉からすぐ、陽菜子の視線は再び隼へ。
「一緒に行こう、隼君」
彼女の言葉に隼は笑顔で「はい」と応えた。
二人はマンションから歩いて五分ほどの場所にある、スーパーマーケットへ。店内に入ると、陽菜子はカートにかごを乗せる。
そして、二人は自動ドアをくぐり、売り場を歩く。向かった先は精肉売り場。
「咲苗ちゃんから聞いてね。隼君、ハンバーグが好きってこと。だから、今日はハンバーグしようと思って」
陽菜子の言葉に隼は嬉しそうに口元を緩める。
陽菜子はしばらく品定めをし、ひき肉のパックを右手に取り、かごへ。そして、微笑みながら一瞬だけ隼へ視線を向けると、カートを押し始める。
野菜売り場へ向かう二人。その途中、陽菜子が隼にこう話す。
「私と咲苗がどういう関係なのか気になるよね」
隼が少し遅れて「はい」と応えると、口元を緩める陽菜子。同時に野菜売り場が二人の目の前に映る。
「私と咲苗は…。何て言えばいいのかな…。適した言葉が出てこないけど、一番近いのは友達かな…」
その言葉からすぐ、陽菜子は足を止め、袋詰めで販売されている人参を見つめる。
「咲苗とは同じ会社に勤めていてね。部署は違うけど、たまに現場で会うの。同い年ってこともあって、凄く気が合うんだ。でも、お互い連絡先は知らないの。なかなか休みが合わないから、遊びにも行けないしね」
どこか寂しげな表情を浮かべ、陽菜子は人参が詰められた袋を右手に取り、かごへ。
人参の値札を見つめ、陽菜子は続ける。
「遊びに行く相手も、デートする相手もいなくて、寂しい日々を送ってた。仕事終わりや休日に一緒にいてくれる人が欲しいな、なんて思っていた時に現れたのが隼君。しかも、咲苗の弟」
陽菜子はカートを押し、袋詰めて販売されているジャガイモの前へ。そして品定め。
しばらくして、陽菜子は小さく頷き、袋に詰められたジャガイモをかごへ。同時に、従業員によるセール告知のアナウンスが店内に流れる。
アナウンスの間、陽菜子は隼に背中を見せる。
隼は何も言わず、彼女の背中を見つめる。
まるで、本当の姉の背中を。
一分後にアナウンスが終了。すると、陽菜子は隼と正対。
「偶然とは思えないの。隼君と出会ったこと。大袈裟かも入れないけど、これは運命なのかな、なんて思ってね」
陽菜子の言葉に思わず、頬を僅かに赤らめる隼。陽菜子はどのような意味で話したのかは隼には分からない。しかし、反射的に隼の頬は赤くなった。
陽菜子は笑みを浮かべ、視線を僅かに下へ。
「まあ、でも、隼君にとってはただの年上の女性。お姉ちゃんの知り合い。そういう認識だってのは分かってる。さっきの言葉は忘れていいからね」
それからすぐ、再びカートを押す陽菜子。
隼はその場に立ち尽くすように陽菜子の背中を見つめる。
実際、隼も陽菜子との出会いは運命だと感じていた。
しかし。
「陽菜子さんにとっては年下の男の子。知り合いの弟…。そんな感じだよな、きっと…」
勝手に抱いていた期待があっという間に崩れ、落ち込むような表情を浮かべる隼。
それからすぐ。
「隼君」
落ち込むような表情を一気に晴らすように陽菜子の声が。
隼の表情には自然と笑みが浮かぶ。
「はい」
そして、陽菜子の隣へ。
時折、彼女の横顔を見つめる隼。
しばらくし、隼の口が自然と開く。
「陽菜子さんって…」
その先の言葉をかき消すように、店内には明るいBGMが流れ始めた。
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