第6話 反省文




 翌日、うなだれたクリスが部屋にやってきた。

 悪役令嬢の巻き添えで死ぬより、こっちで心を病みそう。


「お嬢様、口をきいて下さい」

「つーん」

「あれは、誤解なんです」


 せっかく見直しかけてたのに、あんな自作自演されたら、好きになるのも好きになれないじゃない。


 クリスは乙女心が分かってない。


 押しつけるだけの愛情なんて、相手にとっては迷惑なの!


 拗ねた私が口を聞かないでいると、クリスは体調を確認しようと私のおでこに手をあてた。


「熱は下がったようですね。ぶり返した時はどうなる事かと思いましたが。良かった」


 はぁーっ、これでも真剣に心配してくれてるのよね。


 それくらいは分かる。


 平民の彼は、お金を稼ぐために使用人になった。

 貴族の生活を知って、新しい生活に適応するのに随分と苦労したはず。

 今まで精一杯働いてきたんだから、悪い人間ではないのだろう。


 でも、だからこそ残念でならない。


 だからとりあえず、反省を促すんだけど。


「クリス、反省文」

「分かりました、百枚書きます」


 真剣な顔をしたクリスは、看病につかってタオルやら水の入ったおけやら、薬やらをもって部屋を出ていく。


「一時間で書き上げてみせますね」


 そして、一秒もせずに退出。


 その愛情の重さに、また引いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る