第8話 これからの話
……今、魔法少女って言ったか? アニメとかである、あの魔法少女?
すると、話の主導権を再び
「まあそう呼ばれてるってだけで、厳密にはちょっと違うというか……。わたしたちは魔女の子孫。だから魔法少女。でもいつでも自由に魔法が使い放題なわけじゃないし、使える魔法も限られてる。だから、ファンタジーの世界ほど万能な力じゃないんだ」
「誤解のないように言っておくと、力を使ってもフリフリの服になったりしないからな?」
魔法少女と聞いて変な想像をしたんじゃないかと、
とにかく、その魔法の力で
「つまり、オレが怪しい心象虚像の反応を見つけたら、事件が起こる前に対処できるようになるかもしれないってことですか?」
「察しがいいね、その通りだよ。お母さんがここまでわかっていて、リンに引き合わせるためにわたしたちをここに連れてきたのか、それとも単なる偶然かはわからないけど、わたしたちとリンは、ちょうどいい運命ってわけなんだ」
……ちょっと待て。彼女たちを連れてきたのは、彼女たちのお母さん……? つまり父さんに接触して彼女たちをうちに寄越したのは、彼女たちのお母さんの企みだって言うのか? そもそも父さんは、彼女たちのお母さんとどうやって関わったのだろう。それに父さんはこのこと――心象虚像や魔法少女のことを知っているのだろうか。いや、知らないだろう。オレが見えている影のことすらロクに信じてないんだ。魔法少女なんて信じるわけがない。
「そういえば、みなさんのお母さんは?」
「君のお父さんと一緒だよ。どこかにはいるだろうけど、どこにいるかはわからない」
なるほど、言い得て妙だ。それ以上的確な表現はない。それだけ聞くと、本当に人間か疑わしくはあるが。
「そういうわけで、ここからはビジネスのお話になるんだけど、その前に……」
絢乃さんは彼女の姉たちの方へ向き直って、再び口を開く。
「これはわたしたちの総意ってことでいいんだよね? 一応聞いておくけど、反対の人いる?」
内容を言わなくても、姉妹なら通じるらしい。血の繋がりが濃くなくても、互いの考えていることはわかるのだろう。絢乃さんの質問には、誰も首を振らなかった。
「じゃあ、ここからは一番のお姉ちゃんであるわたしが進行するよ」
瑠璃子さんはわざわざソファから降りて、オレと同じく床に座った。そこまでしなくても、と思ったが、彼女なりの誠意の表し方なのだろう。
「お家に住まわせてもらってるだけじゃなく、こんなことまでお願いするのは申し訳ないんだけど、わたしたちには貴方の力が必要なの。わたしたちに協力してほしい。どうか、お願いします」
「ルリちゃん、それ必死過ぎじゃない? それ言われたら、断れないよ」
「あ、ご、ごめんっ! 押し付けるつもりはないの! 嫌だったら全然断ってくれていい、もちろん。ただわたしは、手遅れになってから現場に着くことも多い現状をどうにかしなきゃってずっと思ってきた。力があっても、間に合わない。助けられない。こんなの、何の意味もないでしょ? だからわたし個人としては、君が力を貸してくれると嬉しいなって、思います!」
「ルリちゃんさ……あんまり変わってないよ?」
「えぇ……、そんなぁ……」
何のコントをやってるんだか知らないけれど、そんな風にお願いされなくても、オレの気持ちはとうに決まっている。
オレも、この力があったって何の意味もない。見えるだけじゃ、救えなきゃ意味ない。今日それをはっきりと実感した。だから、オレと彼女らが合わさって、ようやく意味を成すんだ。
「ぜひ、協力させてください。オレのこの力が役に立つなら、存分に役立ててください」
「ありがとう……!」
瑠璃子さんは心底嬉しそうにオレの手を取った。今にも泣き出してしまいそうなくらい、溢れんばかりの喜びが表情に表れている。これが演技ではなく本心からのものだということは、まだ知り合ってわずかしか経っていないけれど何となくわかる。
「というわけで、協力するためにオレから条件があります」
ここぞとばかりにオレがそう言うと、途端に瑠璃子さんが固まった。いや、彼女だけじゃない。他のみんなも、何を提示されるのかと少し身構えているように感じた。
「みなさんで、家事の分担をすること。それから、この家で暮らすためのルール作りに協力すること、です」
「それくらい、当然だよ。住まわせてもらって、何でもかんでも任せっきりってわけにはいかないもん。ね、みんな?」
瑠璃子さんがみんなに目線を送ると、みんなは一様に頷いている。オレが言わなくても、手伝ってくれる気でいた人もいるようだけど、あえてこの場で言ったのは、不公平が出ないためだ。やりたい人だけがやるのでは、どうにも納得がいかないと思う人も出てくるだろう。
あとルール決めは早急にやりたい。マジで。今夜のような悲劇を繰り返してはならないと、オレは心底思った。ある意味、
「あ、じゃあ、わたしからも提案。リンちゃんは、出かけるときはわたしたちの誰かと一緒に行くこと。そうすれば、何かあってもすぐ対応できるよ~?」
「あ、それいいね。すぐ動ける人を一人連れてるだけでも違うよね。それに、リンはいつもデート気分を味わえるじゃん。ウィン・ウィンってやつだね」
絢乃さんの補足はともかく、柊菜さんの提案はみんな合理的だと判断したらしく、嫌がる者は出なかったので、彼女らの方ではあっさり可決したようだ。後はオレが了承さえすれば、その提案が通るらしい。
「……わかりました。そうしましょう」
とりあえず話し合い自体はこれでお開きになったが、瑠璃子さんがくいくいとオレの服の袖を引いた。何やら話したいことがあるらしく、どうしたのかと聞けば、彼女は何を恥ずかしそうにしているのか、いじらしく身を捩らせる。
「早速でごめんね。あのさ、
「いや、特にないです」
明日は土曜日で、学校も休み。週末はいつも部屋の掃除をしていたが、今回は彼女らが来るということで予定を前倒してやってしまったから、本当にやることは何もなかった。
そういえば、来週の月曜日は市民の日で市内の小中学校は休みで、今週は三連休なんだった。聞けば、
色々あり過ぎて、気付いたら休みが終わっているパターンだな、これは。何だかもったいない。
「じゃあ、買い物に付き合ってくれない? わたしたちが使うものを買い揃えておきたいの。それにせっかくだから、早速一緒に外出してみようと思って。説明するより、実際に見てもらった方が早いこともあると思うし」
「あ、それならわたしもご一緒していいかな」
いつから聞いていたのか、瑠璃子さんの提案に
「ええ、お願いします」
どこから回ればいいかな、とスマホで調べ物をする瑠璃子さんと、何が必要か書き出しておこう、とスマホにメモを書いていく可淑さん。これ買いたいからここも寄って、とか、これここで買えるんじゃない? とか、互いにスマホを見せ合って話し合っている。この二人は意外と仲は悪くなさそうだ。
「凛太郎、良かったら、自分でまとめてたっていう資料を見せてもらえる?」
そう言ってきたのは調子さん。人に見せるのは少し恥ずかしいが、彼女らのような
「いいですよ。後で持っていきますね」
「あの、
少し迷ったように、口にするのを躊躇っている様子だった
「いいよ」
調子さんが快諾すると、絢乃さんが残った二人に声を掛ける。
「じゃあわたしたちは、明日のご飯当番ってことで。ヒイ姉もシズもいいよね?」
二人もうんうんと頷いて、それぞれ明日の予定が決まったようだった。
ひとまず今夜は明日に備えて、改めてこれで解散となった。
調子さんには残ってもらって、オレがこれまで記録を取ってきたノートを手渡した。それを受け取ると、調子さんはその場で適当にページを開き、中を確認し始める。
「へぇ、思ったよりしっかりまとめられてるじゃん。ありがとう。読み終わったら返すから」
いきなり中を見られたのはちょっと恥ずかしかったけど、褒められたのは嬉しかった。これまで誰にも見せる機会などないにも関わらず、まとめ続けてきたのが報われた気がした。
部屋に戻り、ようやく一人、落ち着くことができた。これまで何年も一人で生活する日が多かった。父さんがいても、それでも二人だ。それがまさか、急に八人になるなんて。
一人の静けさも好きだが、これからは大勢の賑やかさもいいと思えるのだろうか。それに、彼女たちのことはまだまだわからないことが多い。仲良くはできなくてもいい。ただせめて、一緒に暮らす以上は上手くやっていきたい。
だけどまぁ、仲良くできるなら、それに越したことはないとも思う。下心をもって接するのは良くないと思うけど、どうしても、今日の風呂場の光景が脳裏に焼き付いて離れない。あんなに美人な人の裸を見てしまったのは、ちょっとした罪悪感と、貴重な体験をしたという興奮を湧き起こす。こんな気持ちになりたくなかったから、必死に避けようとしていたのに。
……今夜は寝られるだろうか。
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