第7話 七人姉妹の正体
着替えて、気を取り直すようにリビングに戻ってくると、既にみんなは集合していた。まだ風呂に入っている静玖さんを除いて。
ソファには座りきれないので、
「
「そこはありがとうでいいでしょ。謝られると、逆に申し訳なくなっちゃうじゃない」
「ねぇ、シズ知らない? 部屋にいなかったんだけど」
「さっきお風呂行くって降りてったけど~? リンちゃん、知ってる?」
柊菜さんがオレに振ると、話していた絢乃さんの視線もこちらへ向く。何と答えたらいいだろう。正直に話すべきか? 知らないというのは無理があるだろうし……。
「ああ、入れ違いになりましたよ」
結局、真実は隠すことにした。静玖さんがみんなに話さなければバレることはないわけだし、静玖さんが自分から話すとも思えない。
「ふーん……じゃあ、もうちょっと待ってよっか」
絢乃さんはオレの答えに、意味深な間を置いた。いや、オレが勝手にそう感じただけかもしれない。後ろめたいことがあるから悪い方へと考えるんだ。
やがて静玖さんもリビングへやってきて、ようやく肝心の話を始められる。思った通り、静玖さんは風呂のことを特別話題にしなかった。彼女にとっても話して何か得があるわけではないし、他の姉妹に言い付けるような真似はしないと思っていた。
最初に口を開いたのは瑠璃子さん。こういう真面目な話でも、可淑さんよりも彼女がリーダーシップを発揮するらしい。それは少し意外だった。あくまで長女は彼女。他の姉妹もそれを弁えているということか。
「まずは何から話せばいいかな……そうねぇ、まずは凛太郎くんの話を聞こうかな。これまでどんな世界を見てきたのか。きっとたくさん思うことがあったと思うの。その疑問に、わたしたちで答えていくような形でどうかな?」
「わかりました」
しかし改めてそう言われると、何をどう話せばいいか……。少し考えて、話をまとめてから、オレは口を開いた。
「物心ついた時から、黒い影みたいなものが見えてました。はっきり見えるものとぼんやり見えるものがあって、最初はみんなも同じように見えてるんだろうなと思ってたんです。ですが話していると、どうやら他の人には見えてないらしいことがわかって。誰に聞いてもわかってくれる人はいなくて、見えてるのはオレだけなんだろうなって思ってたんです」
「はっきり見えるものとぼんやり見えるものっていうのは、影の濃さが違うのか? それとも形がぼやけて見えるのか?」
「どちらもありますね。オレの見た感じだと、影の色が濃ければ濃いほど、何か悪いことが起きやすい気がします。薄い影は、放っておいても大丈夫かなって感じです。形がぼやけている奴は、濃いのも薄いのもあります。はっきり人の形をしているのもありますし、その辺は何が関係してるのか、いまいちわかりません」
「そうか……口を挟んで悪かった。続けて」
「いえ、質問は歓迎です。今も言ったように、この黒い影には何か悪い作用があるんじゃないかと思っていたんです。それに気付いたのは、二年ほど前です。あ、オレの母さんは八年前に死んじゃったんですけど、母さんが死んだのにもこの黒い影が関係してたって気付いたのも、その時なんです」
すると、今度は瑠璃子さんが挙手をして質問する。
「なんでその影に悪い作用があるって気付けたの?」
「実は、その黒い影を追いかけてみたことがあるんです。その先で何が起きてたのか全部記録していったら、いじめが起きてたり、鳩が子どもに殺されてたり、暴力事件が起きてたり。後から知ったことだと、その場所で事件があったとか、その家は児童虐待が行われてたとか。行ってみたけど中に入るわけにもいかなくて、後でニュースで知ったパターンですね。そういうのを、今までこっそりまとめてきてたんです」
なるほどね、と一同は腑に落ちたらしく、うんうんと頷いていた。
「母さんが死んだとき、オレはその現場にいたんです。……事故だと思ってた。でもそこに、黒い影がいたんです。だから、母さんが死んだのは事故じゃないってわかった。あの黒い影のせいだって」
「そっか……。黒い影のことで、他にわかったことは何かある?」
今度は可淑さん。結構みんな真剣にオレの話を聞いてくれて嬉しい。今までこの影の話をこんなに熱心に聞いてくれた人はいなかったから。
「あの黒い影、たぶん……人から出てます。今日のデパートであったみたいに、あの黒い影に纏わりつかれると、すごい攻撃的になることが多くて。もしかしてなんですけど……あの黒い影って、人の悪意なんじゃないですか?」
オレの考察に、みんなは顔を見合わせて、その中でも何故か絢乃さんは拍手してくれた。
「お見事、って言うべきなんじゃない? ねぇルリ姉。今の話を受けて、わたしたちはどこまで話してあげていいの?」
「全部、話してあげていいんじゃない? それに、もうほとんど正解みたいなもんだもんね」
瑠璃子さんのその一言でオレの考察が大体合っていたのだとわかって、俄然嬉しくなる。オレがこの二年間集めてきたデータは無駄じゃなかったんだ。
「じゃあ
向かいに座る絢乃さんが、得意そうにしながら講釈を垂れてくれた。今のオレは好奇心で一杯で、どんな態度を取られても気にならなかった。
「リンの見た黒い影は、わたしたちは
オレが挙手すると、はいそこの君、とびしっと指を差された。
「
「いい質問だね。もちろんあるよ。
「たぶんだけど、わたしたちが認識していないだけで、人のどんな意識も心象虚像になるんだと思う。凛太郎の見た薄い影は、どちらでもない心象虚像に当たるんじゃないかしら」
絢乃さんの説明を、可淑さんが補足する。たしかに、人を幸福にしているような感じは受けなかったから、あれは正でも負でもないものと思っていいのかも。
「わたしたちも、正直に言うと心象虚像は見えないんだ。この状態だとね。わたしたちは特殊な力を持っていて、それを使っている時だけ心象虚像が見える。かすみんの仮説も
「その力で、心象虚像を消滅させたんですよね? オレにはその力、なさそうですか?」
「んー、たぶんないね」
あっさりと否定されて、少し悲しくなる。もしもオレにもどうにかできる力があれば、もっと救える命はあるかもしれないと思ったから。ただ見えるだけでは、何の役にも立たない。
見るからに落胆しているオレを見かねてか、瑠璃子さんが言いにくそうにしながらも、その力の正体を明かしてくれた。
「えっとね、自分で言うの恥ずかしいんだけど……わたしたち、魔法少女、なんだよね」
――え……?
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