第7話「試練その1:知識と判断力の戦場」

会場が静まり返る中、カイルが立ち上がり、第一の試練の開始を宣言した。


「では、第一の試練を始めよう。この試練は、貴族に必要な知識と判断力を問うものだ。単なる力ではなく、知恵と計画性こそが求められる試練だと心得てほしい」


その言葉に、周囲の貴族たちが息を呑むように注目する中、俺は緊張と期待の入り混じった感覚に包まれていた。アリアが静かに俺の肩を叩き、小声で励ます。


「落ち着いて。どんな試練でも、しっかり考えれば必ず解決策があるわ」


その言葉に勇気をもらい、俺は深呼吸をして円卓に向かう。他の参加者と共に席に着くと、司会役の執事が立ち上がり、試練のルールを説明し始めた。


試練のルール説明


執事が朗々とした声で、試練の詳細なルールを説明していく。


「第一の試練は、各参加者の知識と判断力を試す内容となります。皆様には、貴族社会や国家運営に関連する架空の問題が提示されます。その問題に対して、最も適切な解決策を提示し、審査員によって評価を受けていただきます」


執事は会場を見渡しながら、さらに細かいルールを付け加える。


試練の進行ルール


1. 問題提示

各参加者に個別の問題が提示される。その内容は、貴族として実際に直面しうる課題を基にした架空のシナリオである。

2. 回答時間

1つの問題に対して、回答の準備時間は5分。その後、参加者は1分間のプレゼンテーション形式で解決策を発表する。

3. 審査基準

解決策は以下の3つの観点で評価される:

• 合理性(50点):解決策が現実的であり、提示された問題に適切であるか。

• 創造性(30点):独自のアイデアや、新しい視点が含まれているか。

• 影響力(20点):解決策が問題の根本的な解決に寄与し、長期的な影響を与えるか。

4. 評価方法

審査員による合計100点満点の採点。最も高得点を獲得した参加者が第一の試練の勝者とされる。


カイルの問題と回答


最初の参加者はカイルだった。彼が立ち上がり、場の注目を一身に集める中、執事が問題を読み上げる。


「問題です。ある貴族領で、周辺の盗賊団が頻繁に襲撃を行い、領民の生活が脅かされています。治安維持のために必要な軍備を整える資金も十分ではありません。この状況下で、領主としてどのように問題を解決しますか?」


問題が提示されると同時に、会場がざわついた。この問題は、軍事力と経済のバランスを問う非常に難しい内容だ。カイルはわずかに目を閉じ、深く考え込む素振りを見せた。


5分の準備時間が過ぎ、彼が再び立ち上がると、会場が静まり返る。カイルは自信に満ちた声で語り始めた。


カイルの回答:盗賊問題の解決策


「まず、盗賊団の襲撃が続いている原因を考えるべきだ。このような問題が発生する背景には、多くの場合、領主側の統治が及んでいない空白地帯の存在がある。領地の全域を直接監視することは現実的ではないが、その空白を埋めるための戦略的な手段が必要だ」


彼は一度間を置き、視線を審査員に向けながら続ける。


「私が提案する解決策は、三段階に分けて実施するものだ。第一に、領内の商人や農民から、盗賊団に関する情報を収集することだ。彼らの活動地域、人数、装備状況などを把握するため、報奨金を設けて情報を募る。これにより、盗賊団の全体像を把握する」


審査員たちが小さく頷きながらメモを取っている。


「第二に、軍備が整わない現状を補うため、近隣の領地との協力を求める。盗賊団の活動は一つの領地だけの問題ではなく、地域全体の治安に関わる問題だ。隣接する領地と協力して、合同での討伐隊を編成することで、コストを抑えながらも効果的な軍事行動を実施する」


審査員たちの表情が変わり、彼の提案に引き込まれているのが分かる。


「最後に、盗賊団の討伐後、彼らが活動していた地域に新たな拠点を設置する。この拠点には小規模な駐屯地と市場を併設し、周辺の領民たちが安心して利用できる施設を整備する。これにより、領民たちの信頼を取り戻すとともに、経済的な活性化も期待できる」


カイルは話を終えると、会場を見渡しながら一礼をした。


会場の反応


カイルの提案が終わると、審査員たちが熱心にメモを取りながら小声で議論を始めた。その様子に、周囲の貴族たちも感嘆の声を漏らしている。


「さすがだな…実に論理的で洗練されている」


「彼の考え方は実に実用的だ。討伐だけでなく、その後の再発防止策まで考えているとは」


俺もカイルの提案に感心していた。たしかに、盗賊問題への解決策として非常に現実的で、なおかつ周囲の協力を得る戦略は見事と言える。


だが、これはまだ始まりに過ぎない。次に求められるのは、俺自身の提案だ。


次回への期待


俺はアリアの隣に腰を下ろしながら、次に提示される問題に備えた。アリアが小声で呟く。


「カイルはたしかに素晴らしい提案をしたわ。でも、あなたにもきっとできる。自分を信じて」


その言葉に、俺は小さく頷いた。次の問題が何であろうと、最善を尽くすつもりだ。

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