第8話「知恵の戦場での奮闘」
カイルの回答が終わり、審査員たちが評価の準備を進める間、俺は自分に課されるであろう問題について考えを巡らせていた。彼の解決策は現実的で抜け目がなく、さらに領民や近隣領地との信頼関係を築く要素も含まれていた。正直なところ、あれを超える案を出すのは難しい。
「次の挑戦者は…亮様です」
執事の声が響くと、会場の視線が一斉に俺に集中した。足元に重さを感じながら立ち上がり、ゆっくりと審査員たちの前に進む。
「どうぞこちらへ」
促されるままに中央の壇に立つと、執事が俺に向けて問題を提示した。
亮の問題:「飢饉対策」
執事が朗読を始めた。
「問題です。ある貴族領で、大規模な飢饉が発生しました。この影響により、領民たちは食糧不足に苦しみ、暴動の危険性も高まっています。一方、領地内の備蓄は限られており、近隣領地からの支援も期待できない状況です。領主として、あなたはこの問題をどのように解決しますか?」
問題が提示されると、会場内がざわつき始めた。これは明らかに難易度の高い課題だ。領内での資源が不足し、外部からの支援も見込めない中で、飢饉という深刻な問題を解決する手段を考えなければならない。
アリアの言葉を思い出す。「落ち着いて、考えれば必ず答えがある」。俺は深呼吸をし、頭の中で計画を練り始めた。
亮の回答
5分の準備時間が終わると同時に、執事が壇上に進むよう促してきた。俺はゆっくりと立ち上がり、壇上に向かう。視線が一斉に集まり、会場の空気が張り詰める。
「亮様、それでは回答をお願いいたします」
俺は深く息を吸い込み、しっかりとした声で話し始めた。
「まず、飢饉という問題が発生している以上、短期的な対応と長期的な対応を分けて考える必要があります」
視線が審査員たちに集まる中、俺は続けた。
「短期的には、領地内の資源を最大限に活用するため、次の3つの方針を実施します。第一に、限られた備蓄を公平に分配するため、緊急の配給制度を導入します。暴動が起こる要因は、領民の不安と不満が高まることです。それを未然に防ぐため、早い段階で透明性のある分配方法を提示する必要があります」
審査員たちが熱心にメモを取っているのが見えた。さらに、手元の資料を確認しながら続ける。
「第二に、労働力を集め、急速に収穫可能な作物を育てる方法を採用します。領地内の空き地や非農業地を一時的に農地として利用し、成長の早い作物を選定します。これにより、数週間から数ヶ月のうちに最低限の食糧を確保できる見込みがあります」
会場が少しざわつき始めた。俺の提案に対する関心が高まっているのを感じた。
「第三に、外部支援が見込めない状況でも、近隣の商人との交渉を行います。金銭ではなく、労働力や工芸品との交換を提案することで、商人側にも利益を提供する形を取り、物資を得る可能性を広げます」
ここまでで短期的な解決策を示したところで、一度間を取り、次の長期的な視点に話を移した。
「そして長期的には、飢饉の根本的な原因を取り除くための対策が必要です。洪水や干ばつといった自然災害のリスクを軽減するため、治水工事を優先的に実施します。また、災害に強い作物を導入することで、同様の問題が再発しないように備えるべきです」
俺は一礼し、会場を見渡しながら言葉を締めくくった。
「領民の生活を守ることは領主の責任です。短期的な問題解決だけでなく、将来を見据えた対策を講じることで、領地全体の安定を図ることができると考えます」
会場の反応
俺の回答が終わると、会場が静まり返った。その静けさが次第に小さなざわめきに変わり、審査員たちが熱心にメモを取り始める。
「素晴らしい…短期的な対応と長期的な視点を分けて考えているとは」
「実現可能性も高く、実際の統治に適した提案だ」
俺は一息つきながら席に戻る。アリアが小さな声で囁いた。
「亮君、よくやったわ。今の提案なら、きっと良い評価が得られると思う」
彼女の言葉に、俺は少しだけ緊張を解くことができた。
他の参加者の回答
その後も試練は続き、他の参加者たちがそれぞれの回答を発表した。中には非常に現実的な提案もあれば、革新的だが実現可能性に疑問が残る案もあった。
特に印象的だったのはイザベラの提案だった。彼女は「飢饉による領民の反乱を避けるために、一部の貴族領を売却し、資金を捻出して物資を購入する」という大胆な策を提示した。その発想力に審査員たちが感嘆しているのがわかった。
試練の結果発表
すべての回答が終わると、審査員たちが集まり、得点を集計し始めた。数分後、執事が壇上に立ち、結果を発表する。
「第一の試練、結果発表を行います。3位は…クラウス・ローゼン様。2位は…亮様。そして、第一の試練の勝者は…カイル・ヴェインブルク様です!」
会場が拍手に包まれる中、俺は悔しさと安堵の入り混じった気持ちで席に戻った。2位という結果に、まだ改善の余地があることを痛感する。
「2位だなんて素晴らしいわ、亮君。十分に健闘したと思う」
アリアの微笑みに、俺は次の試練ではもっと上を目指そうと決意を新たにした。
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