第5話 社交界に渦巻く陰謀と新たな出会い
エドワード公爵家での生活も次第に落ち着き、俺はアリアの婚約者としての立場を少しずつ実感していた。だが、彼女が抱える破滅の運命は依然として影を落としている。少しでも彼女を守るために、俺はできる限りのことをしようと決意を新たにしていた。
そんなある日、エドワード公爵邸に急な知らせが届いた。
「今度の夜会には、新たな招待客が参加するとのことです。亮様もご同行いただき、彼らにご挨拶をお願いします」
執事の言葉に、俺は少し緊張を感じた。どうやらまた社交界での夜会に出席する必要があるらしい。前回の夜会ではアリアを守るために何とか立ち回ったが、今回も一筋縄ではいかない予感がした。
「新しい招待客って、誰が来るんだ?」
俺が尋ねると、執事は意味深な表情を浮かべながら答えた。
「今回は特別な方々がお越しになるとのことです。特に王都からお越しになる大貴族のご子息方がいらっしゃるようで、アリアお嬢様とも古い関係があるそうです」
大貴族のご子息──それはアリアにとっても重要な関係者であることが想像できる。俺は自然と眉間にしわが寄ってしまった。彼らがアリアに対してどのような意図を持って接してくるのかが気になるところだ。
その夜、俺はアリアとともに夜会の会場に向かった。豪華な馬車に揺られながら、俺は少し緊張した面持ちでアリアに声をかけた。
「アリア、今回の夜会でどんな人たちが来るか知ってるか?」
アリアは窓の外を見ながら静かに答えた。
「おそらく、ヴェインブルク侯爵家のご子息や、フォン・ライヒェン伯爵家の令嬢が来るでしょう。彼らとは幼い頃からの知り合いで、家族ぐるみの付き合いもありますから」
ヴェインブルク侯爵家のご子息──それは「夜明けのラプソディー」のゲームにおいても、重要な役割を果たすキャラクターである「カイル・ヴェインブルク」だ。彼は貴族の誇りと責任を背負った実力者であり、アリアに対して強い関心を寄せる人物でもある。ゲームのシナリオでも、彼はアリアの破滅フラグに関与する存在だ。
「カイル…か」
その名前を口にした瞬間、俺は不安な感情が込み上げてくるのを感じた。カイルはアリアに対してどのような態度で接してくるのか、俺の存在をどう受け止めるのか──そのすべてが未知数だ。
夜会の会場に到着すると、そこには既に多くの貴族たちが集まり、華やかな装飾に囲まれた大広間で談笑していた。アリアと共に会場に入ると、周囲の視線が一斉にこちらに向けられる。
「おや、あちらがアリア嬢とその婚約者か」
「エドワード家の令嬢に婚約者がいるなんて…しかも見慣れぬ方だ」
周囲から聞こえる囁き声に、俺は少し肩をこわばらせた。貴族たちの冷たい視線が刺さる中で、アリアは何事もないかのように堂々と歩いている。その姿を見て、俺も心を落ち着けることができた。
「アリア、亮君、久しぶりだね」
突如として聞こえてきた声に振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。黒髪をなびかせ、鋭い眼差しで俺たちを見つめている。その目には明らかに自信と気品が宿っていた。彼がカイル・ヴェインブルクだとすぐにわかった。
「カイル、ご無沙汰しております」
アリアが冷静に挨拶を返すと、カイルは微笑んだ。
「君がアリアの婚約者か。初めまして、私はカイル・ヴェインブルクだ。エドワード家とは長い付き合いがあるんだよ」
俺は軽く頭を下げて挨拶したが、その視線には何か冷たさが感じられた。カイルはじっと俺を見つめて、微妙な笑みを浮かべる。
「正直言って驚いたよ、アリアに婚約者がいるなんて聞いてなかったからね。だが、君が彼女を守れるのか、興味がある」
カイルの挑戦的な言葉に、俺は少し戸惑いながらも、しっかりと彼の目を見て答えた。
「俺はアリアを守るためにここにいます。彼女の婚約者としての責任を果たすつもりです」
その言葉にカイルは少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべて肩をすくめた。
「いいだろう。君が本当にアリアを守れるのか、見させてもらうよ」
カイルはそう言い残し、アリアに向けて優雅に頭を下げた。その瞬間、アリアは一瞬だけ動揺したように見えたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。
「カイル、それではまた後ほど」
カイルが去った後、俺はアリアに視線を向けた。彼女は少しだけ肩の力を抜き、深呼吸をするようにして気を落ち着けていた。
「カイル…彼は幼い頃から私に対して何かしらの特別な感情を持っているようだけれど、あまり深入りしない方がいいわ」
彼女の言葉には警戒心が感じられた。カイルがアリアにとってどのような存在なのか、俺にはまだわからないが、少なくとも彼がアリアに対して特別な感情を抱いていることは確かなようだ。
「分かった。君がそう言うなら、俺も気をつけるよ」
俺がそう返すと、アリアは少しだけ微笑んだように見えた。そして、その瞬間、新たな人物が俺たちの前に現れた。
「アリアお嬢様、お久しぶりですわ。あなたがこちらにいらっしゃると聞いて、私もぜひお会いしたいと思っておりましたの」
その声は柔らかく、優雅で、どこか冷たさを感じさせるものだった。彼女はフォン・ライヒェン伯爵家の令嬢、イザベラ・フォン・ライヒェン。カイルと同じく、アリアに深く関わるキャラクターであり、ゲームではアリアの破滅フラグを引き起こすもう一人の重要人物だ。
「イザベラ、こちらこそご無沙汰しております」
アリアは冷静に挨拶を返したが、イザベラの微笑みには何かしらの含みが感じられた。彼女はアリアに対してライバル心を抱いているようで、表面上の礼儀正しさとは裏腹に、アリアに挑戦的な視線を向けていた。
「アリアお嬢様には婚約者がいらっしゃると伺いましたが…噂以上に驚きましたわ」
イザベラの視線が俺に向けられる。その瞳には明らかに軽蔑の色が混じっていた。
「ええ、亮君は私の婚約者よ。彼がいてくれるおかげで、私はとても心強く感じているの」
アリアが俺の腕を取り、はっきりとした口調で言い切る。その言葉にイザベラは少しだけ動揺したが、すぐに冷静を装って微笑んだ。
「そう…それは素晴らしいことですわね。ですが、アリアお嬢様のお相手としては少々頼りないようにも見えますが」
その挑発的な言葉に、俺は思わず眉をひそめたが、アリアは毅然とした態度で答えた。
「彼がどれほど信頼に足る人物か、あなたには分からないでしょうね。私は彼を信じているわ」
その一言がイザベラを少し驚かせたようだ。彼女は何か言い返そうとしたが、言葉を飲み込んで微笑みを浮かべ、踵を返して去っていった。
カイルとイザベラという、アリアの破滅フラグに関わる二人の人物が再び彼女の周囲に現れ、社交界には新たな緊張が生まれ始めた。俺は彼らの視線や態度から、彼らがただの友人や知り合いではないことを感じ取った。
この夜会を通じて、俺はアリアを守る覚悟をさらに強くした。彼女が抱える破滅フラグをどうにかして回避するために、俺は彼女を支えるための新たな試練に向き合う覚悟を決めたのだ──。
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