第12話 模擬戦
あれからしばらくして、今日が
今日の放課後、
あの日、部屋に戻った時にはヘザーは既に自分の部屋に戻った後で、部屋には置手紙の返事が残されているだけだった。それ以降、ヘザーとはほとんど会話らしい会話をしていない。なんとなく気まずくなって、顔を合わせても、挨拶を交わす程度だった。
一応、今日グレーテとの模擬戦があることはメッセージで連絡しておいた。観に来てくれるかどうかはわからないし、彼女が観たいのかどうかもわからないが、俺としては、彼女には見に来てほしいと思っている。グレーテのような、家にも才能にも恵まれている相手をどう叩きのめすのか、見届けてほしかった。
時間になって、俺はトレーニングウェアに着替えて競技場内へ入る。普段は
それもそうか。彼女は一年生首席にして、アンジェリカさんの妹。誰もが注目している。彼女の実力を、上級生に対する彼女の鮮やかな勝利を。この中に、俺が勝つことを望んでいる者がどれだけいるか。それでも、俺は彼女に勝ちたい。
対するグレーテは、彼女に向けられる大歓声に大きく手を振って応えている。姉にそっくりだ。
アストさんはアンジェリカさんに負けた。だけど俺は、アストさんの弟子である俺は、アンジェリカさんの妹に勝つ。
「クロードさん、今日はよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
決められた開始位置に立つと、所定の時間になり、競技場内にブザーが鳴り響く。開始の合図だ。
合図があってすぐに、互いに武器を取り出した。俺は一般的によく使われる汎用型の刀剣デバイス・
向かいのグレーテが取り出したのは、少し長めの銀色に輝く棒状のもの。グレーテが
「……
「行きますよ~!」
槍の形態をとった
槍を用いた俺の間合いの外での高速戦闘。高速戦闘自体はアストさんとの稽古でそれなりに立ち回れるとは思うが、槍の間合いは厄介だな。
槍でもありながら切っ先は片刃剣のようになっており、斬ることにも長けている。グレーテは突くというより、長い間合いから振り下ろして俺の剣と打ち合っていた。
柄が長ければ、振り下ろす動作はそれだけロスも大きくなる。しかしその弱点を補うように、斬り込みに突きを混ぜて俺を近づけないよう牽制していた。巧い。
だが、
学園の試合で主に使われる銃火器は、実弾を込めずに
彼女の足元を狙って何発か撃ち込んでみるが、華麗なステップで難なく避けられてしまった。素の身体能力も高いのか。これはなかなか厄介だ。
それでも懲りずに撃ち込み続けても、彼女はまるで花園を舞う妖精のように、軽やかにそのすべてをかわしきった。だが突然、彼女の身体がびくっと跳ねるようにして、動きが硬直した。その隙に、俺は自分の間合いまで距離を詰める。
たったの数歩。それだけだったのに、詰めるのにここまでかかった。
俺が最初に放ったのは、
俺はすかさず、身体の痺れが抜けきっていない彼女へ短剣を振り下ろす。それでもさすがに一年生首席。意地で反応して、短剣の姿に形を変えた
「な、何ですか……これ」
「ちょっとした意地悪だよ」
さらにがら空きになった胴へ
だが、撃つばかりが銃ではない。撃たずにそのまま銃身を突き出して、彼女の
それを察していたのか、グレーテは一歩後ずさろうとしたが、身体の痺れからか上手く足を捌けずに、尻餅をついて転倒してしまった。
観衆の悲鳴のような声援が聞こえる。傍から見れば幼い女の子を虐めているみたいに見えるかもしれない。でも今は試合中だ。歳の差とか、男だとか女だとか、そんなものは関係ない。第一、そんなことで手を抜いたら対戦相手のグレーテにも失礼だ。
俺は畳みかけるように銃口から出した刃をしまい、今度こそ弾丸を射出しようとする。
しかし気が付いたら俺は——競技場の端まで思いっきり吹っ飛ばされていた。
予想もしていない一撃に、反応できなかった。
転んでしまったグレーテは、その勢いを利用して、両足で俺を蹴り飛ばしたのだ。それだけではこんなに吹っ飛ぶはずはない。思った通り、彼女は
俺のタッチカウンターが一つ点灯し、さっきまでの悲鳴が嘘のように大歓声に変わる。
ああ、みっともない。情けない。機転の利く下級生にいいようにやられているじゃないか。戦術をあれこれ練っても、結局上手くいかない。でも、ここでやけになっては自滅の素だ。冷静に、どうすれば勝ちの目を掬えるかを考えろ。
できればこれを使わずに勝ちたかったが……仕方ない、か。
「そろそろ……決めさせてもらいますっ!」
起き上がろうとする俺にトドメを刺そうと、グレーテが
それもそのはず、さっきの空砲はただの空砲ではない。瞳へ向けて
機動力のある相手は、こうして相手のペースを乱すことが何より有効。高速戦に長けている人は、平衡感覚とか空間認知能力とか五感とか、とにかく感覚に優れていて、戦術がそれに支えられているところがある。だから感覚を奪ったり制限してしまえば、自然と高速機動を封じることができるのだ。
正攻法は確かに王道でカッコいいかもしれない。だけど、こういう姑息な手を使えばどんな相手とだって渡り合える
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます