第2話 今までの苦労



 小学生では、いるかいないか分からない扱いされていた普通の私が、救世主扱いだなんて。


 一体何の冗談なんでしょうね。


 あ、ちなみに中学生でも普通でしたよ。


 いなくてもいても、どっちでも同じだよね。


 みたいな扱いでした。


 なんだか喋ってる間に悲しくなってしまった。


 まあ、そういうわけなので、私にはふさわしくないと思いましたね。


 だって、百人に聞いたら、百人が普通の人間だと答えるような私。


 この世界でも、そんなに美人じゃないはずです。


 でも女性がいなかったから、分からないんでしょうね。


 異世界召喚なんてまっぴらごめん。

 かなり嫌ですけど。


 私に言い寄ってきた男性たちも、ある意味可哀想なんです。


「一生幸せにする」

「何でも願いをかなえる」

「心地よい思いをさせてやろう」

「決して裏切らない」

「子供さえ残してくれれば、ただそこにいてくれればよい」


 なんて言われても重いんですよ。





 おや、おばあさん。

 眠いんですか。

 どうしてそんなに目を細めてるんですか?

 お婆さんになると、ついよく眠るように?

 そうなんですか?


 私は若者ですが、おばあちゃん子だったので、色々と苦労があって大変でしょう?

 もう眠ってしまいますか?


 おや夕方じゃないですか。


 じゃあ、この話は後にします?

 あっ、まだ聞きますか。


 それなら分かりました、続きをお話します。






 色々とテンパっていた召喚直後の私ですが、


 でも、このような普通の人間にも、その世界の人達は優しくしてくれました。


 危ない目に遭わないように、常に守ってもらいましたし、分からない事があれば丁寧に説明してくれました。


 気分転換に外に出たときに襲ってきた魔物? とかいうのもぜんぜん大丈夫でしたし。

 女性男を駄目にする究極の悪だと決めつける謎の組織からの襲撃? にもかばってもらいました。


 彼らはいつも甘い言葉をささやいてくれましたしね。

 

 退屈な時はただただ話し相手にもなってくれましたよ。


 なぜかイケメンばかりでしたけど。


 しかし、その親切には裏がありました。


 ひょんなことから手に入れた鏡。

 真実を知るアイテムで理解してしまったのです。


「聖女の心なんて関係ない。ただこの世界のために」

「俺は自分の力になればそれでいい」

「そうだ。与えるものさえ与えていればいいんだから、こんなに都合のいい存在は他にはいない」

「周囲の男たちからも、羨望の目で見られるしな」

「女! 女がいれば俺はそれでいい!


 一人変なのがいますが、まあうん。気にしない方向でお願いします。

 彼等は私の事を便利な道具としか思ていなかった。その事をしってしまいました。


 最初は世界を救う為だったかもしれないけど、欲張ってしまったんでしょうね。


 自分の優秀な血を残すための道具。

 出世のための道具。

 聖女という権力を利用して好き放題するための道具。


 だから、私は彼等とは生きていけないと決断したんです。





 召喚されてから一か月後。

 私は彼等の庇護から離れました。

 そこで、迷える私を拾ってくださったのが、あなたです。おばあさん。


 おばあさんは、こんな普通だらけの、やっかいごとを背負った異世界人な私にも、本当の孫の様に接してくれました。


 救世主の役目なんて知った事ではありません。

 これから私は、家族であるおばあさんのために、頑張っていこうと思います。


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