第5話 一人目の奴隷【周東アイラ】
運命の5日目
俺は朝のカフェで周東アイラをブラッドベア討伐パーティに勧誘し、迷いの森の巨木の広場を目指して歩いていた
周東アイラは、平行世界の日本出身で《マギ》と呼ばれる魔法使いだった。彼女の世界は異次元から《ザイラス》という化け物に侵略されていて、それに対抗する魔法使い専門の学園が作られたらしい。彼女はそこの学生だったが《ザイラス》との戦いで死んでしまったようだ。享年17歳
自分の世界を守るために戦ったこんないい子を俺はこれから奴隷にする。なんて罪深いんだと思うと同時に心の中でドス黒い欲望がムクムクと湧きあがっていた
奴隷になることをムリヤリ同意させたときの顔は、どんな表情なのだろう。怒りか、悲しみか、どうやら俺は同級生が言っていた通り根っからの『悪徳商人』――いや【奴隷商人】だったらしい
「あの? 大きなキノコのモンスターが前から来てますけど」
「あいつらはここの雑魚モンスターなんで、どうぞやっちゃってください」
キノコマンとドクキノコマンのコンビが走って近づいてくる。やはり周東アイラは迷いの森について詳しい情報を持っていないようだ
「まあ、いいでしょう」
そう言ってアイラは、メカメカしい大剣を構えた
この大剣は元の世界からの持ち込みアイテムで、魔法科学の粋を集めた《マギアームズ》と呼ばれる魔法の杖の進化系とか言っていた
「タケタケ!」
「ドクタケ!」
キノコマンたちが突っ込んでくる
アイラはあせった様子はなく、大剣を水平に構えた
(ん? 大剣で斬り込むんじゃないのか?)
アイラの大剣がガチャンと変形した。
これは大砲か?
「シュート!」
アイラの大剣砲から青い光の砲弾が連続で放たれる
「タケー!」
キノコマンたちは粉砕され、光の粒となって消えた
(俺が4、5回攻撃しないと倒せないキノコマンを一撃か、桁が違う)
俺は再び絶望感を感じそうになるのを抑えて、アイラを褒める
「流石戦闘レート65ですね……これならブラッドベアも倒せますよ!」
「お世辞はいいです」
アイラの顔は得意そうに見えた
「じゃあ、作戦を確認します。俺がブラッドベアを起こすので、あとは先生お願いします」
「先生ってガラでもないですが、まかされましょう」
「戦いが始まったら、俺はこの広場から一旦退避します。巻き込まれて死にたくないので」
「その方が賢明でしょうね」
これからネームドモンスターと戦いを始めようというのにアイラに緊張した様子はなかった
この子は自分が勝つことを疑っていない。それと同時に俺に何かされるとは露程も思ってない
安全なチュートリアル期間だからこそ、俺の怪しい勧誘を受ける気になったのだろう
「行ってきます」
俺はうろに潜り、爆睡中のブラッドベアを槍で一突きする
「グワァァァー‼」
巨大な熊が、飛び起きて俺を追って来る
俺は猛ダッシュで広場のアイラのとこに戻る
「思ったより小さいですわね」
俺は振り返って、ブラッドベアの全身を初めて見る
3メートルはありそうな巨体で、黒い毛の中にいくつか赤い毛で紋様が刻まれていた
(この熊を見て小さいって、《ザイラス》はどんだけデカかったんだ?)
俺の疑問をよそに、アイラは大剣砲から魔法の砲弾を放った
大熊の頭に直撃する
「グラアァァァ!」
ブラッドベアは唸り声を上げ、アイラをにらみつける。俺からターゲットが移ったようだ
「後は頼みます」
アイラは俺に軽く手を振ると、大剣を構えてブラッドベアに向かっていく
大熊も威嚇のように腕を振り上げている
(よし! 作戦開始だ‼)
俺は広場から離れた
「うおぉぉぉー」
俺は全力で迷いの森を走っていた
その理由はもちろん――
「タケタケ!」
「ドクタケ!」
「シビタケ!」
俺の後ろについてくる10体以上のキノコマンたちに殺されないためだ
俺の奴隷契約作戦はこうだ
強そうなプレイヤーをブラッドベア討伐をエサに誘いだす
しかし、いくらネームドモンスターが強いと言っても、それだけじゃプレイヤーを追い込むことは不可能だろう。戦いがいい感じに進んだころ、俺がキノコマン軍団を引き連れてぶつけるのだ
MMORPGにおけるMPKに近い
もちろん既にアイラがブラッドベアを倒している可能性もあるし、俺がキノコマン軍団に追いつかれ死んでしまう可能性もあったが、これしか方法を思いつかなかった
広場に入ると、まだ戦闘は続いていた
HPの残りは、アイラが7割でブラッドベアが3割ほどだ
アイラは回復薬を使いながら、大熊を着実に削っているようだ
俺は必死な感じで大声を上げ、アイラの方に突っ込んでいく
「先生助けてー! キノコの群れに捕まりそうだ‼」
アイラは驚いた様子で振り向き、瞬時に状況を把握すると、熊の隙を突いて、俺の方向に青の魔弾を2発放つ
(かかった!)
魔弾はキノコマンを2体吹き飛ばした
「タケー!」
仲間を攻撃されて怒ったのか残りのキノコマンたちは、俺からアイラにターゲットを変更した。俺の横を通り過ぎて、アイラに向かっていく
「え⁉」
アイラが困惑の表情を見せる
俺は何も言わずにアイラとモンスターの戦いを眺める
アイラはキノコマンをさらに大剣砲で削ろうとするが、ブラッドベアの鋭い爪が迫り、後ろにステップする
キノコマンたちは、その隙に距離を詰めると、傘を揺らして胞子の雨を降らせた
「くっ!」
アイラは初見の攻撃の胞子弾に2発当たってしまった
アイラの【HPバー】の上に【麻痺1】【毒1】と表示される
(成功だ!)
アイラは表情をこわばらせながらも、大剣を振るってキノコマンたちに斬り込む。数匹屠って、一度距離を取ろうとするが、ブラッドベアの猛攻でその場から動けなくなった
明らかに動きが悪くなったアイラは回復アイテムを使ってHPは回復するものの、状態異常を回復することはなかった
というか出来ないのだ
アイラは状態異常回復アイテムを持ってない
俺もキノコマンの亜種が状態異常を使ってくるという情報は教えなかった
このデスゲームでの状態異常は、スキルやアイテムを使うか、安全地帯に戻らない限り回復しない
アイラの毒と麻痺は蓄積し続ける
その後、アイラは毒で減ったHPは回復するものの、麻痺のせいでモンスターから逃げることも出来ず、ブラッドベアとキノコマン軍団と必死に戦い。からくも全て倒した
リザルトは、【HP】残り1割、【毒2】、【麻痺3】、左足欠損だった
アイラは大剣を抱えて地面に座っている。ゲームなので、血は出ていないが、アイラの左足のすねから先が無くなっていた
俺はアイラに近づいていく
「あなたを信じた私が愚かでした。何のためにこんなことを」
「アイラ。俺には君の状態を回復するアイテム、エリクサーがある。今から言う条件を飲めば、回復してやる」
俺はエリクサーの小瓶を1本実体化させ、見せる
「最初からそれが狙いでしたのね。条件とは?」
「俺の奴隷になることだ」
「奴隷⁉ なるわけないでしょ‼」
「じゃあ、ここでお別れだ」
俺は小瓶を地面に叩きつけた。ガラスが割れて、エリクサーが消滅した
アイラに背を向けて歩き出す
「ああ‼ ちょっと⁉」
アイラが悲壮な声を出す
俺は気にせず歩みを進める
「毒でHPが削れていく! 動けない! 助けて‼」
俺は無視する
「分かりました! 分かりましたから……何でも言うことを聞きます……奴隷にでも何でもなるから助けて」
懇願するようなアイラの言葉を聞いた俺は、メニューを開いて【奴隷商人】スキルを初めて使った
【周東アイラが奴隷になることに同意しました。奴隷にしますか?】
俺は【はい】を選ぶ
【周東アイラが奴隷になりました】
俺はその文字を見て笑みを隠せないままアイラの方に向かう。2本目のエリクサーを実体化して、アイラを完全回復させた
アレンバルツに戻った後は、アイラを連れて俺のマイルームにワープした
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