第3話

「取引って何を」

「お前の体だ。しめ縄を介してお前の心は読み取れる。お前、希死観念があるだろう?」

「キシカンネン?」

「『死にたい』と思うことだ」

 そんなことなら毎日、毎分、毎秒考えている。なんせ明日死のうとして、その前にせめて最後に楽しもうと祭りの雰囲気を味わいに来たのだった。

「肉体的にお前は十三歳だろう。まだ体は健康そのものだ。死ぬのはもったいない」

「死神が死ぬことを引き留めるなんてことあるんだ。性欲のままに子どもを産んだくせにろくに責任もって育てない親くらい矛盾してない?」

「妙な例えを思いつくくらいお前は頭が良い。取引相手としてさらに気に入った」

「ゲロ吐いてうんこ漏らしたやつのどこが頭いいんだよ。どうせ命でしょ? あげるよ。最期の日が、今日か明日かだけの違いでしょ」

 いつのまにかしめ縄で縛られていることが苦ではなくなっていた。このまま絞殺されるのか。死ぬのは問題ないが、痛いのは止めてほしいな。しかし、縛り付けられる力はこれ以上強くならなかった。とはいえ、緩まることもない。

「別に逃げるつもりなんかないよ。絞殺さないならしめ縄解いてよ」

「念のため、だ。人生、油断していると何が起こるかわからない。試験前日まで合格判定が出ていたのに、体調不良で不合格になるくらいには、な」

「なんで知ってんの?」

「後頭部が俺の肌に当たっている。そこから思考や記憶を読み解くことができるんだ」

 晃は頭を持ち上げた。

「それに、俺が欲しいのはお前の命ではない。お前の体だ」

「体?」

「俺がお前の体の中に入る。お前は命を失うわけではない。自我も維持できる。つまりお前の体の中にお前と俺が共存するわけだ。アパートをイメージするとわかりやすいだろう」

「代わりに、僕は何を手に入れられるの?」

「それはお前の望むものだ。体と対等なものなら取引しよう」

 晃は目の前に広がる住宅地を見た。屋台が並ぶ道路の裏には最近できた新興住宅がひしめいていた。晃はもともとここが田んぼだった景色が好きだった。もうあの田んぼは見ることもない。

意外にも死神が体の中に入ることに抵抗はなかった。死神はうまいこと言って自分の体を支配するのかもしれない。ただどのみち、明日死ぬことを決めていたのだからそんなに大差ないだろうと思っていた。

「じゃあ、超能力がほしい」

 晃はあることを想像した。それは久しぶりに胸が躍る心地にさせてくれるものだった。

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