第6話 キャンプファイヤーの夜と近づく距離
「やっぱりみんな、少しはやるじゃない」
ドレイクの巣穴からの帰り道。険しい山道を進みながら、サラがぽつりとつぶやいた。強がりに見せかけて、実は俺たちへの信頼を少しずつ感じ始めている様子が、その口調からも伝わってくる。
「サラちゃんがいてくれたおかげだよ。さっきの戦いなんて、ほんとに頼りにさせてもらったんだから」
俺がにこっと微笑んで感謝を伝えると、サラはほんの少し顔を赤らめて視線をそらした。
「べ、別に……みんなが足を引っ張らなかったから、協力できただけよ。そうじゃなきゃ、私一人でも十分だったんだから」
「ふふっ、サラも素直じゃないんだから~」
リーナが楽しげに笑うと、サラはむっとした表情でリーナを睨み返す。
「何よ、リーナ!あんたこそそんなに余裕ぶって、さっきは私のフォローがなかったらやられてたでしょ?」
「うふふ、でもちゃんとサラがいてくれたもんね!」
リーナが明るく答え、サラが言い返せずに沈黙する。その様子に俺も思わず笑ってしまうが、夕方になり、陽が傾いてきたことに気づいて、そろそろキャンプを張るために平らな場所を探すことにした。
日が沈み、山道には冷たい夜風が吹き始めた。俺たちは小さな焚き火を囲むようにして座り、それぞれがリラックスできるよう準備を整えていた。リーナが持ってきた食材を火にかけ、アリサは周囲に気を配りながら見張りをしている。サラも少し離れた場所で大剣の手入れをしながら、静かに俺たちの輪に加わっていた。
「今日のクエスト、お疲れ様。みんな無事に帰れて本当によかった」
アリサが焚き火を見つめながら穏やかに言う。リーナが勢いよく頷きながら、火にかけた鍋をかき混ぜている。
「そうだよね!でも、サラが一緒にいてくれたからこそ、こんな難しいクエストでも無事に終われたんだと思うな~」
リーナの言葉に、サラはちょっと照れくさそうにしてから、少しだけ肩をすくめた。
「もう……あんたたち、褒めすぎじゃない?これくらいで浮かれてると、次の戦いで痛い目見るんだからね」
いつも通りツンとした態度のサラだったが、焚き火の炎に照らされた顔がほんのり赤く見えた。俺たちはその微笑ましいツンデレぶりに、思わず笑顔を交わし合った。
やがてリーナが鍋を火から下ろし、スープが香りを立てて温かい湯気を放ち始めた。俺はその匂いに、戦いの疲れが少しずつ癒されていくのを感じる。
「それじゃ、みんなで乾杯!」
リーナが声を上げ、俺たちは即席の飲み物で乾杯した。湯気が立つスープが体に染み渡り、みんなの顔にも少しずつ安堵の表情が浮かんでいく。
夕食が終わり、俺たちは焚き火の周りでそれぞれ思い思いの時間を過ごし始めた。アリサは炎をじっと見つめているし、リーナもふと真剣な表情で何かを考え込んでいる様子だ。サラは一見そっけない態度を保っているが、少しずつ俺たちに心を開きつつあるのがわかる。
ふと、リーナが俺の方を向いて柔らかく話しかけてきた。
「ねえ、レイちゃん。こうしてみんなで一緒にいると、本当に家族みたいだよね。今まで一人で冒険してきたけど、こうして仲間と過ごすのって、すごく幸せなことなんだなって思うの」
リーナの真剣な笑顔に、俺も自然と頷いてしまった。
「うん、そうだね。こうやって支え合える仲間がいるって、本当にありがたいことだよ」
お互いにうなずき合いながら、俺たちは焚き火を囲んで静かに語り合った。その時、サラがふとため息をつき、こっちを見た。
「……あんたたち、家族とか仲間とか、そんなのばっかりで……」
トゲのある言い方に少し驚きながらも、俺たちはじっとサラを見つめた。彼女は少し目をそらしながら、小さな声で続けた。
「……まあ、たまにはこうして一緒にいるのも、悪くないかもね」
その言葉に、俺は不思議と胸が温かくなるのを感じた。サラもまた、俺たちと過ごす一夜に、ささやかな喜びを感じているのだろう。俺たちは心が通じ合ったように微笑み、夜の静寂の中でその場を楽しんでいた。
その夜、見張りを交代で行うことになった。まずは俺とアリサが担当し、リーナとサラは少し離れた場所で先に眠ることにする。
「レイちゃん、今日は本当にお疲れさま。サラもリーナも、レイちゃんをすごく信頼してるみたいだね」
アリサが優しい口調で話しかけてくる。焚き火の炎に照らされた彼女の表情は穏やかで、その顔を見ていると今日の戦いの疲れも少し和らぐような気がした。
「ありがとう、アリサ。アリサがリーダーでいてくれるから、私も安心して戦えるんだよ」
アリサは微笑みながら、そっと俺の肩に手を置いた。その手の温かさに、少し胸が高鳴る。
「レイちゃん、これからも私たちを頼っていいからね。仲間として、どんな時でも支えるから」
その言葉に、改めて俺もこの仲間たちとの絆を感じた。俺たちは互いに微笑み合いながら、夜の静けさに包まれた山道を見張り続けた。
やがて見張りが交代となり、俺とアリサは眠ることにした。次はリーナとサラが見張りを担当する番だ。俺たちは軽く声をかけて、二人に任せることにした。
「リーナちゃん、サラちゃん、お願いね」
リーナはにこやかに「任せて!」と応じ、サラも少し緊張しつつ「ちゃんと見てるから、あんたたちは休んでなさいよ」と答えてくれた。そのそっけない態度の裏に、俺たちを守ってくれている優しさを感じながら、俺は安心して眠りについた。
翌朝、山の稜線から昇る朝日が、俺たちに新しい一日を告げてくれた。昨日の戦いの疲れも癒え、みんながリフレッシュした表情を浮かべている。サラも目元に少しクマはあるが、無事に朝を迎えられたことに安堵している様子だ。
「よし、今日も気を引き締めていくわよ」
サラがいつものように指示を飛ばし、俺たちは次の目的地に向けて歩き出した。険しい山道を歩きながら昨日の戦いを思い出していると、サラがふいに振り返り、俺をじっと見つめてきた。
「……あんたさ、昨日はありがとう。別に……あんたが役に立ったって認めるわけじゃないけど、少しは悪くなかったってだけ」
その不器用な感謝の言葉に、俺はちょっと驚きながらも嬉しさを感じ、軽く微笑んだ。
「うん、こちらこそサラちゃんがいてくれて本当に助かったよ。これからもよろしくね」
俺がそう言うと、サラは照れたように頬を赤くしながら視線を逸らした。
「……べ、別に。私だって、あんたに頼られたって困るだけだから」
ツンとした態度を見せるサラだったが、その表情にはどこか安心したような柔らかさが漂っていた。こうして俺たちは、新たな冒険に向けて再び歩みを進めていく。
新たな仲間を迎え、次の冒険に向かう俺たちの絆は、さらに強く結ばれている。
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