44 私の価値

 破格の給料であろう、北新地の高級キャバクラはどの店も、雇ってはくれなかった。


 私はまだ17歳の未成年だもの…当然だ。


 高級キャバクラは無理だったが、オカマのママがやっている、スナックでは歳を誤魔化して働く事が出来た。

 

 ゲイのボーイと、レズのホステスが働くハチャメチャな店だった。

 興味深く楽しかったが、なにかしっくりこない。


 居心地の悪さを感じて、一週間程で辞めた。

 

 次は、ビルの高層階のカジュアルなガールズバー。

 

 その次は、ママではなくマスターが営む落ち着いた隠れ家的スナック…。


 と北新地の色々な夜の店を短期間で転々とした。

 

 平行して、空いた時間でデリヘルやホテヘル、イメクラなど風俗でも働いた。


 お金をたくさん稼ぐ事でなんとか自尊心を保っていてのだと思う…。


 そして晴れて18歳になった秋からは、梅田の有名老舗キャバクラ店で本腰を入れて働く様になる。

 

 100人程のホステスが在籍し、近くに同じような系列店が2店舗もある超大型店だった。

 

 私はそこで本気でナンバー1を目指す。


 同伴、アフター、休日出勤、枕営業…。何でもした。

 でもどんなに努力しても最高6位が限界。


 全く歯が立たなかった。

 世の中には、異次元の美人がいる。

 彼女達は、立ち居振舞いはもちろん、話す内容、選ぶ言葉の一つ一つまで別格のイイ女だ。

 

 何をしても絶対に勝てない。

 女としての魅力が圧倒的に劣っている。

 

 うすうすは分かっていた。

 だが自分はその程度の人間だということを、私はこの店で決定的に痛感した。


 そう、どうやら私はそこまで『イイ女』ではないらしい。  

 実は18歳になって直ぐ、高級キャバクラにリベンジしている。

 だけどやっぱりあっさりと面接で落とされていた。


 破格の大金を払ってまで逢いたくなるような魅力は、私には無い。


 それにそういえば、

「お前とヤッても浮気にならない」

 と彼女や奥さんがいる男達に何度か言われた事があった。  


 その時はどういう意味か分からなかったが、今なら分かる。  


 多分、本気で付き合う必要のないお手軽な女という事だろう。  


 確かに私は男に貴金属やバック等の物をねだったこともなければ、食事や旅行なども、もちろん行きたがらなかった。  


 逆に誘われれば、好き嫌いなく何でも美味しく食べたし、どんなプレーも楽しくお付き合いする。  


 好きや愛してるの言葉も言わないし、欲しもしない。


 ただ、ヤるだけで良かった。

 たくさんのお付き合いがあったが、きっと私はモテているわけではなく、お手軽に付き合える、気楽なだけが取り柄の女なんだろう…。  


 手がかからない、本気で付き合う必要のない、手軽で気楽でやりたい放題の若いだけの女…。


 きっと私なんて本当の本気では、誰も好きになってくれない。


 まして誰も私を愛してなんてくれないだろう…。


 そう思うと寂しかった。


 しかし、そんなに落ち込む事もなく、割りと毎日楽しく働く事が出来たのは、有り余るほどにお金が稼げていたのと、めちゃくちゃ可愛い相棒が出来たからだと思う。


 エリは私にとって男なんかより、よっぽど大事で愛しいヤツだった。 

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