39 オーバドーズ
ユウジに出会ったその日からほぼ毎日…。
週2~5日程のペースで、私はホストに通いつめた。
当然、お金が必要になる。
小規模の店で、シャンパンタワーなんてバブリーな物も無く、金額的にはそんなに破格というわけでは無かった。
それでもほぼ毎日のように入り浸っていればなかなかの額になってくる。
私はまだ高校に入学したばかりの学生だ。
まともに大金を稼げるはずは無い。
真っ当に青春を謳歌する人々が集う学校には殆ど行かず、デリへルに、テレクラ、出会い系カフェ、それに立ちんぼまで、精力的に売春しまくり、昼間から夕方の内にホスト代を稼いだ。
そして夜になると、ユウジの店に行った。
その後、深夜から朝方…。
店が閉まるころには、あのエレベーターホールや非常階段の踊り場で、ユウジのを咥える。
そのまま崩れるように酔い潰れては冷たい床で眠った。
それは気付くとユウジじゃなくて、他のホストの時もあったようだ。
でもそんなことはどうでも良い。もう誰でも良かった。何でも良かった。
ホストに通うようになり、今で言うオーバードーズにハマッた。
鎮痛剤を過剰に服用するようになったのは、毎日ひどい二日酔いで、頭痛を押さえる為だった。
それは夏休みに入ってすぐの朝だった。
せっかくの休みなのに、薬を飲んでも収まらないひどい痛みにたまらず、残っていた20錠ほどを一気に飲み込んだ。
強い睡魔に襲われ、私は昼間に自室で1人ひっそりと気を失い倒れた。
気付くと夜中で…。
家族はもう皆、寝静まっていた。
鍵のかかった自室ではあったが、ご飯も食べず床に倒れていた私を彼らは誰も気にもしなかったようだ。
当たり前だ。
好き勝手やってきたんだもの。
でも、やはりそれはさみしいなと思った。
1つ屋根の下で一緒に暮らす家族なのに…。
彼らは私がホストに通っていることも、売春をしていることも、さっきまで気を失って倒れていたことさえも気付いていない。
いや、気付こうとしない。
もっと言ってしまえば気付かないフリをしているのではないかと思えてきた。
言っても高校生の子どもがすることだ。
こちらが隠そうとしても、あちこちにボロは出ていたはずだ。
でも面倒で気付かないフリをしている?
いや本当に気付いていない?
どちらにしてもひどい親だ。
やっぱり早くお金を貯めて、また出ていこう。と思った所でなぜだか…笑えて来た。
そう言えば何だかふわふわして気持ちイイ。
お酒を呑んで酔いが回りだした時の感じに似ていた。
全部どうでも良い。
なんか楽しい…フフフ…。
無性に何か書きたくなり、ノートに詩や絵を描いた。
ノートなんかじゃ満足できなくて、壁にも描いた。
こんなところに描いたら親に怒られるだろうか?と一瞬は思うが止められなかった。
大丈夫。彼らは気付かない。
気付いても気付かないフリをする。
私はノートに壁に、最後には自分の手に足に、たくさんの言葉と絵を描いた。
『愛が欲しい』
『愛を下さい』
『私の値段は本当はいくらですか?
場末の売春婦なら安くて…。
現役女子高生なら高いの?
ホストにとったらマイナスで、お金を貰ってもごめんなの?
私に値段なんてない…誰か…誰か愛して』
最後に、
『愛のありかはココよ
あったかいをあげるわ』
天井にそう書きなぐり、
自分の血でハートを書き足すと
力尽き…。
また眠った。
夕方だった。
ひどい吐き気と頭の痛みで目覚めた。
たまらず薬を飲もうとするが、残っていなかった。
この苦痛から逃れたかった。あのフワフワした心地良さは、なんだったのか試したかった。
私はフラフラしながら着替え、ドラッグストアに向かった。
そして、持っていたお金の全てで買えるだけの頭痛薬と風邪薬。それに水を買った。
数日前、テレビで観た、風邪薬でアナフィラキシーショックを起こし死亡した人のニュースを思いだしていた。
もしかして、あのフワフワとした心地よさは死への前触れだったのかも知れない。
頭痛薬だけじゃなく風邪薬も一緒にたくさんたくさん飲めば…。
あわよくば…。
フワフワと心地良さに包まれて死ねるかも知れない。
私は、夜が更け始めたミナミの町を彷徨い歩きながら、無心で薬を呑み続けた。
そして気付けば、グリコの看板の下。
ひっかけ橋の端に、うずくまるように座り込んでいた。
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