38 恋

 ホストクラブは商店街の地べたと同じだった。

 

 なぜかほっとして、心が解放されて行く。

 ユウジが作ってくれた、キレイな青色のカクテルを呑みながら思う。

 

 あ…違う。

 場所じゃなくてユウジだ…と気付く。ユウジの隣にいると、私は私に戻れる。そんな気がした。

 

 約束通り、1時間で私達は店を出た。ユウジは早上りさせて貰ったらしい。

 

「どこ行く?どこでする?行っとくけど、オレは金出さんよ。お前払えや」

 とダメ男丸出しの発言に、また1つ肩の力が抜け、笑えて来た。

 

 私は、コイツに別にどう思われてもいい。きっと嫌われることは無い。同じ底辺に生きる同士だから。

 

「私も、ユウジとヤルためにお金を払う気はないよ。ここでしよ…」


 店のエレベーターの中で、抱きつきキスをし、そのまま、ベルトを外しソレに口づけしようとすると、ユウジが焦ってそれを制した、

「イヤ!ココはマズいって!」

 私だってそんな事分かってる。

 でも…、

「1時間も我慢したんだよ。もう我慢出来ない!」

 と酔いも手伝いどうにも止まらなくなってしまった。

「ちょっと待って!せめて、ココにしよ!」とユウジが5階のボタンを押す。

 

 5階のエレベーターホールは真っ暗だった。

 すぐ手前に高そうな鉄板焼きの看板があるが店は閉まっていた。


「たまにココでサボんねん…けど、まさかココでヤル事になるなんてな…」

 と言いながらも、ユウジはもう動じることなくサッサと私のスカートに手を入れて来た。


 立ったまま、お尻を触り、そのままパンツを…と思ったらユウジは手を止めて、

「ほら、早くして!」

 と命令してきた。

 

 そのまま脱がして触って欲しかった。が、逆にお前がヤレよと言うことらしい。

 仕方なく、誠心誠意ご奉仕してあげる。

 

 直ぐにユウジは堪らなくなり、

「ちょっ、早く脱いでケツだせや」

 と言われ、私は急いで自分でパンツを脱いで、お高そうな冷たい石の壁に手をついて入れやすいようにお尻を上げてあげた。

 

 前戯なんて一切してくれない。

 自分だけさせることさせといて、ヒドイやつだと思った。

 

 だけど、そのヒドイ扱いが心地良い…。

 

 私みたいな、軽薄で空っぽなバカに、中途半端に、お金や時間や気持ちを使うやつは、私よりももっと軽薄で空っぽなバカだと思う事があった。

 

 ユウジはそうじゃない。

 

「キスもしてくれないの?」

 と訪ねると、

「して欲しかったら、明日も店においで」

 と素っ気なく答えると、サッサと私を置いて帰って行った。

 

 私は冷たいエレベーターホールの石のフロアに座り込んだ。

 

 ユウジは皆みたいにバカじゃない。

 

 私みたいに愚かじゃない。

 

 でも、愚かな私の存在を否定しないで認めてくれる。なぜかそんな風に思えた。

 

 そのまま横たわり丸まると、そこで朝まで眠った。

 

 その後、何度も何度も、私はココでユウジのを咥え、1人で眠る事になる。

 

 自分でも、バカだと分かっている。だけどやめられなかった。

 

 こういう愚かな状態を、人は『恋』というのだろうか…分かっている。私はバカだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る