37 ミナミのホスト
中学から高校に上がる春休み、ホストに通う様になった。
それは中学の悪友ミッちゃんと遊んだ帰り道だった。
カラオケでオールしようと誘ったのはミッちゃんだった。なのに、
「彼氏に呼び出されちゃった…どうしよう」
と可愛い顔で聞かれたら、
「いいよ。行きなよ」
と言うしかなかった。
「私も誰か男のトコ行くしいいよぉ」
とは言ったものの、あては全て外れ、遊んでくれる男はいなかった。
親にはミッちゃんの家に泊まると言っていた。深夜2時。こんな時間じゃ、実家にも帰れない。
どうしたもんかと、1人フラフラとシャッターの閉まった心斎橋筋商店街を歩いていると、
「ねえ、鏡もってない?」
と不意に話しかけて来たのがユウジだった。
見るからに客引き中のホストである、金髪のキレイな顔をした少年に胡散臭さを感じ、思わず聞こえなかったふりをして立ち去ろうとしたが、
「ねぇ!ねぇってば!!コンタクトずれてヤバイんだって。お願い、鏡貸して」
と頼み込まれた。
私もコンタクトがずれてヤバイ事はたまにあるから気持ちはわかる。しょうがなくバッグから鏡を取り出し貸してあげる。
ユウジは鏡を手に取ると座り込み、涙目になりながらコンタクトと格闘しだした…ように見えた。
けど思い返すとこの時点で既に、ホストの罠にかかっていたように思う。
2002年、当時グリコの看板の下のひっかけ橋や心斎橋筋商店街には、夜中を過ぎると沢山のホストが並び、客引きをしていた。
私は男に金を払って遊んで貰う意味が分からなかった。
そもそもそんなお金はない。
とっとと鏡を返して貰い終わり。のはずだった…が、ユウジはなかなか鏡を返してはくれず、おまけにホストのクセにろくにしゃべりもしない。
「ねぇ、まだ?」
と聞いても聞いても、
「もうちょい」
を繰り返すだけ。最後には、
「うるさいな、ちょっと黙ってて」
となぜか怒られる始末。
仕方なく私もユウジの隣に座り、気長に待つことにした。
そして地べたにお尻をおろした瞬間だった…。なぜかほっとして心が解放されたような気がした。
子供の頃こんなところに座り込もうものなら親に怒られたことだろう。
商店街の汚い地べたに座り込み、この変なホストの横で只ぼっーと、時折通りすぎる人達を下から見上げるのは心地よかった。
底辺に居るのを実感出来るからだと思う。
無理して立ち上がらなくたっていい。だって横には私と同じように底辺に座り込む人が居るんだから…と。
15分くらいたったと思う。
「はい。サンキュー」
と突然鏡が返された。そこで初めて、
「どこ行くの?行くトコないなら、ちょっと呑みにこない?初回は500円で1時間飲み放題だし」
と急にホストらしいことを言うのでちょっとイラッときて、
「ホストに行く、時間もお金も無いよ。エッチだったらしてあげてもいいけど」
と挑発してみたら、
「何それ?!お前バカ?」
と笑われた。その笑顔が、何だかすごく可愛くて、キュンとしてしまった。
唐突にものすごく、この子とエッチしてみたいと思った。
「バカだよ。ねぇ、いいじゃん。しよ!」
と言うと、
「じゃ、本当に1時間でいいから店来てくれたら良いよ。しよ」
と言うので、
「本当に500円しか払わないからね」
と念を押し、産まれて初めてホストクラブに行った。
その店は、いかにも“ホスト”なビルの地下1階。青を基調とした、小さいけれどスタイリッシュでとてもカッコいい空間だった。
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