28 悲劇と喜劇は紙一重
デリヘル嬢はもちろんやっぱり天職なんかじゃなかった。
デビュー戦から延長に継ぐ延長で、3時間のフルコース。
くたくたになって車に戻ると、
「お疲れ様。急ぐよ!次のお客様、もう2時間待たせてるから!」
と言うドライバーの男の言葉に絶句した。
「いえ。あのもうくたくたで帰りたいんですけど…」
そうだ。最初はちょっと話しを聞くだけのつもりで電話をしたのだ。
それが、研修だと言われこの男とシテ、常連さんと超濃厚なのをシテ、もう歩くのはおろか座っているのですら辛かった。すぐに帰って横になりたい。でも、
「頼むわ!お願いします!」
と押しきられてしまった。
結局、そのまま今度は、新築のマンションに連れて行かれた。
インターホンを押しエントランスに入る。
エレベーターに乗り、通路を歩きドアの前に立つ。
またチャイムを押しドアが開くのを待つ。
この仕事はドアが開く瞬間までが一番緊張するなと思う。どんな人と、どんな所でどんな事をスル事になるのか…と思うと無性に喉が乾いて、ゴクリと唾を飲んだ。
ドアの向こうは、某引っ越しセンターのネコのマークの段ボールが山積みになった、ワンルーム。
そして次の相手は、なんと童貞の大学生だった。
ベッドの上に並んで座り、私が簡単な自己紹介をすると、学生さんは、
「僕は、この春、徳島から大学に通う為に引っ越して来たばかりで、大阪も初めてなら、実は女の子とこういう事をするのも初めてで緊張しています。どうかよろしくお願いします」
と言って頭を下げた。
童貞なんて…最初は冗談だと思った。
だけど確かに視線や話し方がぎこちなさ過ぎる。それにモテそうな雰囲気が1ミリも無い。
多分本当に童貞なのだろうなと悟って思わずため息が出そうになるのを堪えた。
何で14歳、今日が初仕事のほぼ素人の私が、年上の冴えない学生さんにセックスの手解きをしなくてはいけないのか…。ってか、出来るのか?
これが思いの外、大変だった。
まず、取り敢えずシャワーを浴びましょうと、バスルームに向かい、私はさっさと服を脱いだのに、学生さんはモタモタしてなかなか脱がない。
いや、よく見ると、緊張で手が震えてシャツのボタンが開けられず、脱げないようなのだ。
仕方なくシャツを脱がしてあげる。
まだ手が震えていたので、ついでにベルトを外し、チャックも下ろしてあげた。
すると…。
「あぁっ!」
と女の子みたいな声を上げ学生さんが慌てだした。
パンツにシミが広がっていく。
どうやら学生さんはパンツを脱ぐ前にチャックがあたる僅かな刺激でイッてしまったみたいなのだ。
「すみません。ごめんなさい」
と震えながら謝る学生さんに、
「こちらこそ、なんかすみません。ごめんなさい」
と素っ裸で謝る私…。
なんのこっちゃ訳が分からない。
このまま特に何の仕事もせずに帰るのは忍びないので、少しはサービスしてあげようと、
「シャワー浴びてさっぱりしましょうか」
と石鹸を泡立てて、体を丁寧に洗ってあげた。
でも、それすら不味かった。
ドライバーさんの言い付けを守り、ちゃんと念入りに局部を洗おうと手が触れた直後、学生さんはまたもや
「あぁっ!」
と情けない声を上げていた。
思えば、常連さんはあんなことやそんなことまでして、3時間程かけてようやくイッたのだ。
それがこの学生さんは、5分ほどの間に2回も!しかもまだ私に指1本触れてもいなければベッドにすら辿りついていない。
余りの滑稽さに笑いたくなるが、学生さんは真剣に落ち込んでいるようなので、笑えない。
これはこれである種の地獄だと思った。
「すみません。本当にごめんなさい」
と繰り返す学生さんをなだめて、バスルームを出て、ベッドに座らせた。
まあ、でも簡単に2回もイッてくれてラッキーだった。
ちょっとおしゃべりでもして、時間を潰して帰ればいいかとこっそり思っていたら、甘かった。
童貞の冴えない学生さんの性欲はそんなに簡単なものじゃないらしい。
さっさと服を着た私とは対照的に、ダサいゆるゆるのトランクス姿の学生さんと、ベッドの端にならんで座っていたら急に布団の真ん中に正座した瞬間、イヤな予感がした。
「あのぉ…、せっかくなんでもう一回だけ、おっぱいを見せて貰ってもいいですか」
と真面目に聞いてくる。
(はぁ?)
と思ったが、まあ仕方ない。
「いいですよ」
と笑って、向き合うように私も正座で座り直し、キャミソールをめくり、ブラをずらし見せてあげる。
「さ、触ってもいいですか?」
いちいちめんどくさい奴だ。
「いやです」
思わず本音がもれる。
「ご、ごめんなさい」
素直に謝られると許すしかない。
「うそです。いいですよ。どうぞ」
と軽く胸を付きだしてあげる。
学生さんがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
彼は、そぉっと人差し指を立て、私の乳首にツンと触れた。
と、その時…!
「ああぁ~!」
と学生さんが声を上げ、同時にダサいユルユルのトランクスの隙間から白い液体が飛んだ?!
驚いて思わず身を引いたが遅かった。
「フガッ!フンっ!!」
と学生さんとは対照的な色気の無い声が
出てしまう。
事もあろうにそれは私の鼻を直撃してしまったようだ!
悲劇と喜劇は紙一重ってヤツだと思った。
酒の席で他人事として聞いたら、コントみたいな展開で面白過ぎる、と爆笑するだろう。
だけど、現在進行形で自分の身に起きている事だと全く笑えなかった。
しかも3回目の射精だと言うのに学生さんのソレは濃厚で大量で、鼻だけでなく、目にも、前髪にもかかっていた。
最悪だ。
相変わらず、
「すみません。本当にごめんなさい」
を繰り返していた学生さんが伏し目がちに私の顔を確認し、
「顔射しちゃった…」
と僅かに口角を上げニヤッとした瞬間には思わず…。
(死ね)
と殺意を覚えてしまった。
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