27 天職

 常連さんはスゴく上手かった。


 202号室に入ると、

「えぇ!こんな可愛い子が、来てくれるなんて嬉しいな」

 と顔はもちろん、スタイルに髪、服装に、しゃべり方まで褒めてくれた。

 

 この感覚、久しぶりだなと思う。

 

 キャバクラで働いた時や、シブちゃんやユカリちゃんに出会ってすぐの頃。

 そしてうんと小さかった幼少期は、毎日のように沢山褒められた。

 

 褒められると素直に嬉しい。


 でも、いつの間にか誰も褒めてくれなくなる。


 変わりにダメ出しだけはしっかりされて、私は、この人にとって褒められるような良い所が何一つ無く、注意され、罵倒されるような悪い子なのかと思えて寂しかった。


 愛ゆえ。


 それは本当にあなたを思うからこその思いやりで、言いにくい事も言ってくれているんだよ。と言う人もいるだろう。

 

 だけどそれは別の話しだ。


 ただ愛ゆえ、思いやりゆえの言葉ならちゃんと分かる。

 

 でもそこは、人間だから。

 あるいは舐めきった関係だから。

 もしくは、どうでも良いからなのか…。


 思いやりだけではなく、その人の苛立ちや日頃の不満が混ざることがあると感じる。

 

 それは日増しに増え、気付けば、愛ゆえ、思いやりゆえ、とは決して思えない酷い暴言や言い掛かりだけになる。

 

 私ではなく、おそらく本人のせいなのに、お前のせいで、お前がこんなだからと、ため息を吐かれたり、罵られたり…。


 だから、と言えば…。


 それもまた別の話しかも知れない。


 だけど、私は嬉しかったのだ。多分すごく。

 

 常連さんが、私を立て、敬い、まるで、初恋の処女の少女にするように、優しく、思いやりを持って、シテくれた事が。


「こんなおじさんでごめんね」

 と言われると、常連さんがハゲでデブでブサイクな事も全然許容範囲に思えた。

 

「むしろ、若くてイケメンの自信マンマンな人より、なんか落ち着けて良いです」

 と自分からキスをねだっていた。


 本心だ。


 胸に顔を埋めた時、頬に感じる本質的な物。

 

 若くてパンッと張った肌、跳ね返されそうな固い筋肉よりも、しっとりと優しく受け止めてくれるようなたるんだ皮膚に、ほっとした。


 そう。私もやっぱりどスケベの変態のスキモノのようだ。

 

 1時間程かけて全身を見て、触って、愛でられて、堪らなくなっていた。


 おしりの割れ目から、首すじにかけて。

 背筋をすぅっと舐められた時、思わず自分でもびっくりするような大声で喘ぎ、果ててしまった。


 それは、震えるような、ものすごく深い快感だった。


 私は深い海だったんだと気付く。

 過去も未來も、誰も彼も、私の中にある。


 永遠とも一瞬とも思える時間に一人取り残されていた。

 でもすこしも寂しくは無い。

 

 私は全てなのだから。


 しばらく身体に力が入らず余韻に浸るしかなかった。


 それほどまでに、ソレはすごかった。


 それでもまだ、常連さんは満足しなかった。


 今度は仰向けで大きく足を開かされ、ソコに30分ほども常連さんは顔を埋めた。

 

 見て「キレイだ」と褒めてくれる。

 触って「可愛い」と欲情してくれる。

 舐めて「美味しい」 と溢れるモノを受け止めてくれる。


 もう無理。出来ないよ。と呟いていた口から、また自然と快楽の吐息が漏れる。


 もう無理じゃない。

 まだ出来る。

 もっともっと私はエロくなる。貴方にも最高の快楽をあげられる。


 今まで感じたことの無い、絶対的に自分を信じる強い思いと、みなぎるような強い性欲を感じた。


 私は自ら69の姿勢になった。


 シブちゃんに強要された時は恥ずかしいだけで、コレの何が良いのか全く分からず苦痛でしかなかった。


 だけどその時…。

 自ら常連さんのを咥え、腰を振り、キツく抱きしめ合い…。


 一緒に果てた。


  


「すごいよ。すごいよ君。こんなの初めてだ」と常連さんは呟いた。


 私はやっぱりセックスをする為に産まれてきたのだと確信した。


 天職を見付けた。

 その時は愚かにも本気でそう思った。

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