25 春を売るドライブへ

 中学2年の終わりだった。

 

 3年に上がる前の春休みの2週間。

 2人暮らしで、皆のたまり場になっていたはずの家には、誰も来なかった。

 

 一人でずっと家でお酒を呑んでいた。

 映画をレンタルして沢山見た。

 

 コンビニのレジで「温めますか」と聞かれ「はい」と答えた時、もうずっと誰とも話していないことに気が付いた。

 

 

 ダメだ。寂しい。寂し過ぎると思った。

 新学期が始まる前日の夕方だった。すでに酔いで頭がクラクラしていた。

 

 誰か…誰でもいい。

 誰か…シテ。


 ポストにいつも大量に入れられるピンクチラシをふと思い出した。


 セクシー過ぎるお姉さんの姿と一緒に、60分でいくら、90分でいくら…等とセックスの値段が書かれていた。


 そしてその裏には〖女性スタッフ募集〗

 高収入、厚待遇、即日体験出来ます。

とあった。

 

 デリバリーヘルス。通称デリヘルと呼ばれるサービスで、電話をかけると、女の子が部屋まで届けられセックスが出来るらしいと、いつかユカリちゃんが教えてくれた。

 

 性欲や寂しさだけじゃなく、高収入と言う言葉にも後押しされる。

 毎日大量のお酒を買うからお金にも困っていた。


 ちょうどいい…。

 

 ドキドキしながら電話をかける。


 普通に優しく親切そうなお兄さんの声にほっとした。

 

 取り敢えずちょっと質問するだけのつもりが…。

「ちょうど近くに居るので、30分後に迎えに行きますね」

とスムーズに話しが決まってしまい、慌てて、シャワーを浴びて、軽く化粧をして、家を出た。


 私は今から、知らない男の車に乗り、お金を貰ってセックスをするのかもしれない。

 

 連れ去られ、酷いことをされ、もしかして最悪…事件に巻き込まれる可能性も充分にある。


 でも、それでも良い。

 

 その夜、私はどうしても誰かに抱きしめて欲しかった。

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