20 青春☆鍋パ
そこは10代の家出少女にとって、とても魅力的な場所だった。
古くて汚いアパートに3人の女の子が一緒に暮らしていた。
2人は共に21歳でキャバクラで働いていて、1人は28歳で風俗で働いているそうだ。
キャバクラで働いているウチの1人がカズミちゃんと言ってバンドのメンバーでベースを担当。
アダ名はドテチンだそうで、たしかに某アニメのゴリラみたいなキャラを思い出させる。でもすごく気さくでステキな人だった。
2LDKの狭い方の和室に、もう1人のキャバ嬢、広い方の和室に風俗嬢のお姉さん、そしてその部屋の押し入れがカズミちゃんの部屋だった。
押し入れの下段に荷物を収納して、上段に布団が敷いてある。
そう、未来から来た猫型ロボットと同じ子供の憧れがそこにあった!
そして、なんと!しばらく下段の荷物を退けて、そこに寝泊まりしても良いよと言って貰えたのだ!!
ちなみにトイレとお風呂は別で、トイレは何故か青い電球が入っていて落ち着いたし、お風呂は赤い電球が入っていて無駄にエロくてカッコ良かった。
こんな部屋に住めるなんて!と思うとワクワクした。
でも、今日あったばかりの他人と同居なんてお互いにとって本当にいいのかな…。と思っていると、
「まあ、取り敢えずご飯にしよ!お鍋用意したよ」
とカズミちゃんが言い、皆で鍋を囲んだ。
そこで、ドラムのシブちゃんとギターのカワちゃんも来て紹介してもらった。
2人は共に23歳で、中学からの幼なじみだそうだ。
シブちゃんは、他のバンドとも掛け持ちしていた。インディーズでCDも作って、プロを目指しているらしい。
ちょっと前まで、私も働いていたミナミの地下のキャバクラでボーイをしていた時に、ユカリちゃんと知り合ったそうだ。
金髪で肩までかかるくらいのロン毛に、180を越える長身、細いのに筋肉質でスタイルも良く、とてもカッコ良い人だった。
鋭い目をしていて、近寄りがたい感じがしたが、笑うと目尻がぐっと下がり急にやさしい顔になる。
「カッコいいから、皆シブちゃんを狙ってんねん」
と電車でゆかりちゃんが言っていたのも頷ける。
もう一人のメンバーであるカワちゃんは、
「ウチの内緒の彼氏やから、手ぇ出さんといてな!」
と釘を刺されていた。
一応バンド内は恋愛禁止らしい。
シブちゃんとは対称的で黒髪の短髪、一見ごく普通の青年だと思ったが、よくよく見て話してみると何か陰を感じる、怖い雰囲気のある人だった。
私たちは食べて呑んで、色んな話をした。
こんなに楽しい食事は産まれて初めてだった。
親でも先生でも、親戚でもない。ちょっとだけ年上で大人の彼らは、上から目線で注意したり、諭したりしようとはしなかった。
誰も私を子供扱いせず、対等に話してくれるのが嬉しかった。
同い年の友達とは絶対に出来ない刺激的な話しも興味深く面白かった。
バンドの方向性とこれからのスケジュール。(なんと私はユカリちゃんとツインボーカルをすることに決まった)
何鍋が一番好きか。
風俗嬢さんの恋愛遍歴。
痴漢撃退法。(格闘技をやっていたというカワちゃんの実演付き)
ユカリちゃんの不幸な生立ち…等々…。
そして私の今までとこれからについて…。
すると急に、
「ちょっと待って!14歳で家出中、無職でしかも捜索願出てんの?!聞いてないって!!
それはちょっとヤバいんちゃう?悪いけど、私もいろいろと訳アリで、めんどうに巻き込まれたくないねん。
ウチで寝泊まりするんはちょっと勘弁して欲しいかも…」
と風俗嬢さんが慌てだし、私はやっぱりダメかと落胆した。
でも風俗嬢さんの話しは続いた。
「ってか、シブちゃんこの子のこと気に入ってるやろ?泊めたげたら?」
と驚きの提案!
そしてシブちゃんは苦笑いで答えた、
「バレてた?いや気に入ってるとか関係なく…。
ここは皆、夜の仕事してて、まともな生活出来ひんやろうから、ちょっと心配やってん。…うん。ウチで預かるわ。サヨ、それでいいか?」
「えっっっ?!」
またもや本当に急過ぎる突拍子もない展開に私は取り敢えず絶句した。
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