19 ユカリちゃん

 ユカリちゃんに会うと変わらない笑顔にホッとした。


 だいぶ久しぶりだと思ったが最後に店で会ってからまだ4ヶ月ほどしか経っていなかった。

 

 待ち合わせは京橋駅だった。

 

 京橋はヤクザなキャバクラがある場所だ。


「京橋は無理だよ。私は行けない」

 とユカリちゃんに言ったが、

「店は駅からけっこう離れてるし、客引きで外に出ることがない店やから大丈夫やって」

 と言われた。


 不安は残るが仕方がない。

 そこで働くことにした。


 京橋らしい砕けた感じの店だった。


 客も女の子もスタッフもみんな、気さくでやさしい。何よりほとんどの席がユカリちゃんと一緒で楽しかった。

 

 ユカリちゃんはお世辞にも美人とは言えない。

 顔が大きく鼻がぺちゃんこ。スタイルも決して良くない。背は低いのに、身体がガッシリしていて胸が無い。

 女としての魅力は他の子に劣る。

 

 でも、愛嬌のあるキレイな目をしていたし、力持ちそうな健康的な身体も、ボサボサの金髪もカッコいいと思った。

 


 そして何より話がすごく面白い。

 上手に同席の女の子を立てて、客をノセる。ユカリちゃんがいるだけで、皆すごくリラックスして場を楽しんでいる感じがした。

 

 私や他の女の子のように、可愛さや色気、女を武器に戦うんじゃない。


 その飾らない物言いで、客本人すらも気付いていない不満や願望を難なく聞き出して打ち解け、客とホステスではなく、昔からの友達のようになってしまう。

 

 こんな接客があるんだ、こんな関係を女に望む男もいるんだと改めて驚いた。

 

 私もこうしてそばで働いていたら、いつかユカリちゃんのように、女としてではなく、人として大事に想って貰えるようになれるかもしれない。


 この店でまたユカリちゃんと一緒に働けることが本当に嬉しかった。

 

 だけど…。

 店が満席になった23時過ぎ、ユカリちゃんと共に店長に控え室に呼ばれ、悪いけど雇えない。と言われてしまう。


「君、捜索願が出てるよ。ちょっと前に駅の近くでビラが撒かれていたらしい。

 今日の分はあげるから、すぐに出て行って」

 と言われてしまった。


 どこでどう話が伝わったかは分からなかったが、夜の世界は横の繋がりが強い事を思い知らされた。


 また仕事が出来なくなってしまった事と、私を見捨てたと思っていた親が、私を探していたことに動揺した。


 しかしアレコレ考える余裕はなかった。

 終電が迫っていた。


 取り敢えず、私とユカリちゃんは言われた通りすぐに店を出た。


「ヤバいなあ…どうしょっか…。

 まあとにかくバンドのメンバーの家に行こう。

 皆にサヨちゃんのこと、紹介する約束してるし、シブちゃんってめっちゃ賢い人がいてるから、相談してみよう。

 大丈夫!なんとかなるって!」

 と励まされ、私はユカリちゃんと2人、終電に飛び乗った。

 

 向かった先はなんばの外れ、島之内しまのうちにある、汚くて古いアパートだった。

 

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