18 救いの手
「サヨちゃん可愛いし、14歳ってだけでキャラ立ちして面白いし、ウチとバンド組まん?」
ユカリちゃんの提案は驚いたけど、すごく嬉しかった。
私なんかを覚えていてくれただけでなく、一緒に何かをしたいと誘ってくれて、しかもそれが私には無縁だと思っていたバンド活動だなんて青春ワードまで飛び出し、少し胸が高鳴った。
でもその話しには乗れないと思った。
バンドを組みたいなんて、全く思ったことがなかったし、楽器も出来ない。歌も下手だ。
そして何より、私はこんな仕事をしている。
人前に出るのはおろか、爽やかに青春を謳歌している人たちに会うのすら気が引ける。
適当に誤魔化して断ろうと思った。
だけど…。
ふと、いつもみたいに自分の気持ちを誤魔化さず、本音を話してみたいと思った。
だってもうこれが最後のチャンスかもしれない。
私は既にドン底にいるのだ。今さら誰に嫌われても変わらない。
それにユカリちゃんなら受け入れてくれる気がした。
恐る恐る正直に全てを伝えてみた。
ユカリちゃんと出会った店を辞めてから、どこで何をしてきたか、何を考えていたか、そして今の仕事の話し…。
「なんでサヨちゃんそんなことしてん
の…」
ユカリちゃんは泣いているようで声が震えていた。
「なんで私、こうなっちゃったんですかね…」
私の声も震えていた。
沈黙が続いた。
面倒な話をして困らせていると気付いて焦った。
「じゃあ」
と電話を切ろうとすると、
「ちょっと待って…」
と止められ、ユカリちゃんの深いため息が聞こえた。
「このままじゃあかんよ。面倒みたるわ。
たまにヘルプで行く店で、みてこが多いとこがあるねん。
おさわりとか無しの普通のキャバクラやしそこやったら雇ってくれると思う。
住むとこもいくつかアテがあるからあたってみるわ。
取り敢えず、今すぐ荷物まとめてこっちおいで」
と言ってくれた。
有りがたくてうれしくて、また涙があふれる。
しかし、こんなに優しい人に私なんかがお世話になるのが申し訳なくて、
「でも…」
と言うと、
「その代わりバンドの件よろしくね」
とお願いされ、断り切れなくなってしまった。
早速、電話を切るとすぐに荷物をまとめ、寮を出た。
やはりまだ誰かの視線を感じる。
だけどそれを振り切るように、私はユカリちゃんのもとに走った。
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