17 悪夢

 変な夢を観るようになった。

 

 寮のベットで眠っていると、玄関のドアを叩く音がするのだ。


 その音は次第に大きくなる。

 

 そして父の声が聞こえてくる。

 

「サヨ。そこに居るんやろ。ドアを開けなさい。家に帰るぞ。ドアを開けなさい」

 とドアを叩き続ける凄い音と振動で私が目を覚ますと、部屋は静まり返っている。

 

 しばらくは怖くて動けない。

 いつまでたっても物音ひとつしない。


 だけど人の気配を感じる。

 恐る恐る布団を抜け出し、玄関の覗き穴を覗く…。


 父と目が合ったらどうしよう…。

 そこには誰もいない。


 カーテン越しに窓の外もそっと確認する。やはり誰も覗いてなんかいない。

 

 でも、視線を感じる。誰かに見張られている気がして落ち着かない。

 

 現実ではなく、夢だと理解するのに時間がかかるほどリアルだった。

 

 夢はどんどんおかしく、そして体感出来るほどになっていった。

 

 ある日父はとうとうドアを開け中に入って来た。


 そして、私を犯すのだ。


 嫌だ。やめて!と最初は抵抗する。


 だけど、日に日に慣れて、

「あぁまたか…」

 と思うだけになる。


 兄も弟も、従兄弟のお兄ちゃんに近所のおじさん、先生も、色んな人とセックスする夢を観るようになってしまった。


 もはや人でもない怪物まで…。

 

 起きると身体は熱く火照り、疼いている。汗と涙と膣分泌液で全身はグチョグチョ。


 ヤった後のような違和感、下半身の重だるさを感じる…。


 これは本当に夢ではなくて…。

 もしかシテ、寝ているあいだに誰か忍び込んでいるのカモ…。


 忘レテイタダケデ…。私ハ、過去二本当二彼ラトセックスシテイタノカモ…???

 

 日に日に自分の頭がおかしくなっていくのが自分でも分かっていた。


 でも、もうどうにも出来ない気がしたし、もうどうでもでも良かった。

 

 その日も私は犯されていた。

 黒くて熱い泥沼のような液体だった。


 全身を舐められ、足を無理矢理広げられ中に入って来る。


 泥沼は首を這い、口も目も塞ごうとする。


 気持ち悪い。苦しい。嫌だ!嫌だ!!


 …だけど震えるほど気持ち良い。


 我ながら驚くほどの大きな喘ぎ声が思わず出る。


 自分の声で目が覚めた。

 こんな酷い夢を連日観るなんて、末期だ。私はもう終わってるんだ。

 

 きっと誰ももう私を愛してくれない。誰も私を受け入れてくれない。誰も理解してくれない。誰にも会いたくない。


 でも…。誰か助けて、ダレカ…。




 

 不意に携帯が鳴った。

 ユカリちゃんだった。


 初めて働いたあの地下のキャバクラで、ホストの客に買って貰ったこのプリペイド式の携帯の番号を知っている人は、わずか数人だった。

 連絡をしてくる人もいたけど、お互いにがっかりするような気がして怖くて、無視し続けていた。

 

 だけど、液晶画面にユカリちゃんの名前を見た瞬間、無性に彼女に会いたいと思った。

 

 電話に出ると、懐かしいユカリちゃんの声がした。


「サヨちゃん!急やけど、ウチとバンドやらん?」

 本当に急過ぎる提案に、私は取り敢えず絶句した。

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