15 ヤクザの娘

「お前、俺の娘になるか?」

 ヤクザの、それもどうやら親分さんにそんなことを言われるなんて人生って本当に分からない。


 分からなさ過ぎて絶句するしかない。構わずヤクザ屋さんは話を続けた。


「お前、片親なんか?虐待でもされてるんか?どうしても家に帰りたくない事情があるなら引き取ったる。話も俺がつけたる。俺の娘になるか?

 店にマナミっておるやろ。

(知ってるも何も押しも押されぬNo.1キャストだ。)

 あれも訳あって俺が引き取った。勉強したい言うから大学も行かせたってる。お前もまだ未成年やしどこでも好きな学校行きながら家事手伝いでもしたらええ。どうする?」

 

 どうする?ってどおしよ?

 

 全ての展開が早すぎて訳が分からなかったが取り敢えず、ウチは両親揃っていて、虐待なんてされていない。


 彼らは簡単に親権を他人に、しかもヤクザに渡しはしないだろうと考えた。


 そして私の両親は恐ろしく外面が良い。

 こんなに、良い親で、何が不満なんだと、皆に説教されて終わるのが目に見える気がした。

 

 それにヤクザの娘って!!

 私の知っているヤクザは、映画の中ドラマの中ニュースの中で、拳で刀で銃で血が流れ、痛々しく人が倒れ、時には死人が出る。


 スーパーデンジャラスな印象だ。

 

 死ぬのは怖くない。だけど痛いのも面倒なのもごめんだ。


 私はとっさに逃げようと、立ち上がり玄関に走った。が…直ぐにボーイに腕を捕まれ羽交い締めにされた。


 そこでヤクザ屋さんは冷たい目になった。

「わかった。警察に連れて行け」

 そういうと立ち上がり奥の部屋に行ってしまった。

 

 2度目の失踪が終わった。

 

 私はそのまま警察に連れていかれ、親が呼ばれた。


 そこで産まれて初めて父に思い切り頬を叩かれた。

 この人がこんなに感情的になることがあるなんて…とその時は驚いた。が、あれは警察への良い親アピールか何か意図があったのかもしれないと思った。

 

 事情を聞かれ、調書を取り、写真をとったら、すぐに解放され、私は家に連れ戻され、自室に籠った。

 

 私自身も、おそらく家族も、もう私の未来に何も光が見えなくなっていた。


 3日程して、私はまた家を出た。

 

 そこからは、もう本当にどん底へまっしぐらだった。

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