11 私には生きる意味があるのか?

 7月の力強過ちからづよすぎる朝日の眩しさで目が覚めた。


 階段の踊り場、冷たいコンクリートの上でも確かに私は眠れる。

 

 だけどもう、こりごりだった。

 清潔でふんわりと柔らかい布団で、ただただゆっくりと眠りたかった。

 

 家出から2週間ちょっと。

 私は帰宅することにした。

 

 早朝、今から帰ると連絡して家に向かうと、玄関の前にはおばあちゃんが立っていて、私を見つけるとすぐに抱きつき、

「よかった。帰ってきてよかった」

 と泣いた。


 私も少し泣いた。


 家に入るといつも通り父、母、兄、弟、祖父がいた。

 皆、何も言わなかった。

「疲れたので寝ます」

 と言って自室に籠り、眠った。

 

 何も考えられなかった。

 2日ほど、ただ食べて寝るだけの生活をした。

 

 家族とはほとんど話さなかった。

 もともと何でも話す仲良し家族ではない。だからと言って家庭環境が最悪だったわけでもない。


 普通ではないかと思う。

 いや、普通よりちょっとばかり良いからタチが悪い。普通よりちょっとお金があり、普通よりちょっと、出来が良さげな家族達。


「サヨちゃんはいいよね。ウチなんか…」

 とよく言われた。


 そう言われると何も言えなくなる。だけど私にはどうしてもそんなに良い家族だとは思えなかった。

 人として家族として必要最低限の声かけや思いやりはある。だけど、それ以上は無い。

 その程度の家族。


 一緒に住んでいるのに、気が許せない。気を遣い、本音で話せない。

 

 家族だけじゃない。友人もそうだ。

 

「私達、親友だよね」

 なんて言う子は特に注意が必要だった。


 ちょっと気を許し、つい本音を漏らすと話が噛み合わなくなってくる。そこで気付けばまだセーフ。


 友達だからと安心して気を抜き続ければ不振がられ、嫌われ、はじかれる。


 誰にも気を抜けない。誰とも話が合わない。

 

 大人になった今でもよく思う。

 どうやら私は誰とも本当には話が合わない。


 だけどそんなものはそれで良い。違うから面白いと思うようになった。


 理解出来なくても良い。分かり合えなくても問題ない。そもそも他人に同意を求める必要はない。


 大人になれば自分で居場所は選べるから、それでも楽しく生きて行ける。


 でも子供の頃は違った。

 ほとんど全ての決定に親か先生、あるいは友人の同意が必要で、自分の気持ちや意思を大切になんて出来なかった。

 

 言いなりで流されて、何も選べなくて。でも選ばないと今度は向上心や自主性がないと怒られ、どちらにしろ肩身が狭く居心地が悪い。どこにいても常に苦痛だった。

 

 引っ越しが多いのもその思いを増長させたように思う。


 産まれてから14才までに私は6回も家が変わった。信号もないド田舎に、砂漠が広がるアラブの小国、そして大阪ミナミの都会まで様々だった。


 引っ越す度に友達が変わり、居場所が変わり、常識が変わった。それでも最初はもちろん戸惑うが、すぐに慣れて、馴染める私がいた。

 

 ここじゃなくてもいい。どこでもいい。誰でもいい。私じゃなくてもいい。

 

 私が私として、ここで生きる意味が分からなくなっていた。

 

 改めて考えてしまう。

 私に生きる意味は有るのか………。


 無いと思った。

 将来に夢も希望も何も抱けなかった。やりたい事も、好きな物も人も、何もない。いつも何かも、何でも良かった。

 

 用意された物を食べた。

 何が食べたいかと聞かれたら、聞いてくれた人が食べたそうな物を答えた。


 与えられた、おもちゃで遊び。あてがわれた友達と仲良くした。

 平和ボケと言われてしまうだろうか。特に悩みが無いのが悩みだった。

 

 こんな窮屈で手応えの無い、つまらない人生は早く終わらせたかった。

 大人になるまでに死んで消えてしまいと思っていた。

 

 でも…。

 そう!私はついに見付けたのだ!!

 私が産まれた意味!生きる希望!!夢を!!!


 そう…セックス。

 

 最高に気持ち良いセックスをする。その為に私は生きる。

 

 何その夢?と笑う人も要るだろう。

 私自身も本当にソレ?と半信半疑ではある。


 多分何でも良い。意味が欲しかっただけ。それでもそれは最高な夢だと思う。



 その後、大人になった今ではたくさんの最高のセックスを体験済みだ。

 だけどこの夢に終わりはないから本当に素敵だと思う。


 もしかしたら、いつかもう互いにイクということにも執着しなくなれたら…。


 考えられないほどのすごぉいセックスが出来てしまうんじゃないか…。

 それこそセックスの概念が覆るほどのすごい体験が出来るかもしれないと夢見て、私は、今でも日々色々と鍛練している。


 そんな壮大な夢を若干14歳で見付けた私は、少しずつだが前向きな気持ちで将来の進路を考えだした。


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