8 私が産まれてきた意味

 初めてセックスをしたその日、ついに長年探し求めた答えを悟った気がした。


 どうやら私はセックスをする為に産まれて来たようだ。


 それはそれは素晴らしい体験だった…訳では決して無い。

 




 サカイ君は店から地下鉄で4駅離れた昭和町しょうわちょうのキレイなワンルームで、1人暮らしをしていた。


 物がほとんどなく質素で、でもベランダの洗濯物やシングルベットの青いシーツの皺なんかに人が暮らす暖かみを感じ、落ち着ける部屋だった。


 私は多分することになるんだと覚悟の上でサカイ君の家に来ていた。

 

 サカイ君は最初、

「オレ、床で適当に寝るからベット使ってくれていいよ」

と言ってくれたがそれは申し訳ないから、もしサカイ君が嫌じゃなければ一緒にベットで寝て欲しいと頼んでみた。


 サカイ君は多少戸惑っているように見えたが直ぐに了承し、一緒に寝ることになり、そうなると割りとすんなり、当たり前のようにセックスが始まった。

 

 でもサカイ君は下手クソだった。

 

 全く初めてで、ほとんど知識もない中学生の私でも分かるほどに、彼はぎこちなく、アレも小さくて、早かった。

 

 ほぼ性的快感なんて感じ無かった。


 私はその後400人位の人とヤりまくるのだが、その中でもダントツと言ってもイイほどに下手クソで、今思うと、もしかしたら彼も初めてだったのかも知れない。


 それでも私は感動したのだ。

 

 裸を見せ合う高揚感に、肌と肌が触れあう暖かさに、そして私の存在が全肯定されているような安心感に、私は思わず涙が流れるほどに感動した。

 

 イッた直後、汗ばむ身体でそっと私に覆い被さり、

「ありがとう。なんかすごい良かった。ありがとう」

と彼はしきりに感謝の言葉を呟いた。

 

 サカイ君はあまり感情を出さない人だった。やさしいけど、いつもほぼ無表情で、自分のことはあまり話してくれない。


 でもその彼が、イクその時とそのあと少しだけの間は、グッとその顔に体に言葉に感情がこもり、そして強く私を求めた。

 

 私なんかが、これだけ誰かに感謝されるほどの快楽をあげられるんだと思うとすごく嬉しかった。

 

 裸で肌を併せて眠るのもすごく良い。

 こんなこと初めてなのに、ほっとして落ち着けた。


 私は物心付いた頃から眠るのが苦手で、家族皆が眠るまで、なかなか眠れなかった。


 ようやく眠れれば今度は痛かったり、怖かったりする酷い夢にうなされて最悪の気分で目覚めなければならず、眠る事が苦痛だった。

 

 それに眠ると明日が来てしまう。

 

 私は毎晩布団の中で1人、明日から逃げるように妄想し、いつもすんなり眠れぬ夜を過ごして来た。

 

 でも初めてセックスをしたその日、私は夢も見ずにすんなり熟睡出来たのだ!

 

 私はサカイ君に恋愛感情は特に抱けなかった。この状況から助けてくれるなら誰でも良かった。


 その程度の相手でも、これだけすごく込み上げるものがある…。


 もしかしてコレがすごくすごく好きな相手なら…。


 それはもう、すごくすごく…すっごいんじゃないだろうか!!!


 何もなくて、ただただ空っぽだった私に、

 夢が、希望が、生きる意味が、すぅっと降りて来たように感じた。

 

 14歳にして私は、

『私が産まれてきた意味』を悟ったのだ。

 

 私はセックスをする為に産まれて来た。

 

 もっと、もっと、最高なセックスをする為に、誠心誠意、頑張って生きて行かなくてはいけない。

 

 初体験はそれほどまでに、衝撃的だった。


 しかし余韻に浸る間もなく、早々に次の人とセックスをすることになる。

 

 次の日、サカイ君は仕事に出かけ、私はサカイ君の家でカレーを作っていた。すると、

「昨日2人で電車に乗る所を店の誰かが見ていたらしい。店長に逃がした事がバレて今から連れ戻しに行くって言ってる…。

 ヤバいから、直ぐに部屋を出て行ったほうがいい」

とサカイ君から電話があったのだ。

 

 どうしよう。どこに行こう?

 

 悩んでいる暇は無かった。

 無断で辞めた店の店長になんて絶対に会いたくない。

 私は直ぐに荷物をまとめ、サカイ君の家を出た。

 

 また私の居場所があっさりなくなってしまった。


 携帯の電話帳を開いて考える。

 誰か私を助けてくれそうな人はいないか…。


 すがる思いでユカリちゃんに連絡してみるが、何度かけても繋がらない。

 

 すでに夜中の1時を過ぎていた。

 もう終電も無いだろう。

 私は途方にくれ、宛もなく夜の道を1人彷徨い歩いた。

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