7 少女は傷付きながらも強かに生きて行く
キャバクラデビュー2日目にして、出勤すると私をご指名のお客様がお待ちだった。
昨日、初仕事にして初指名を頂いたホストのお兄さん達だった。
「コイツがどうしてもサヨちゃんに会いたいって言うから、また来ちゃったよ」
同じくホストの先輩だと言う男が笑う。お兄さんも私を見て照れたように笑った。
「いつでも連絡が取れるように。これプレゼント」
と言ってプリペイド式の携帯電話をくれた。
隣でそれを聞いていた店長が、
「新人やのにすごいなぁ」
と褒めてくれた。
自分で言うのもなんだが、私はほんの小さな子供の頃からモテたし、モテる努力はずっと惜しまなかった。
めちゃくちゃ可愛い訳でもスタイルが抜群に良い訳でもない。多分すごく普通の見た目だ。でもだからこそソコだけは努力した。
モテ技が載った本を見付けたら必ず立ち読みし、毎日鏡を覗き、一番可愛く見える角度や仕草を研究した。
男がキュンとするらしい言葉を会話に挟み、いつでも誰にでも愛想良く常に笑顔を心掛けていた。
小2の頃、淡すぎる初恋はやんわりとあったが、その後誰か1人を特別に好きだと思えることは無かった。
だから私のモテる事への強い執着は誰かの為では無い。
堪えきれない寂しさと不安、孤独。自信の無さから誰かに認められ、好意を持たれる事を欲していたからだと思う。
私は愛されてみたかったのだ。
いつもクラスのベスト1にはなれない。でも2番か3番目くらいにはモテていた。
だから少しは自信がある。でもさすがに大人にもここまで通用するとは思っていなかった。
どうやら男はいくつになっても子供騙しが通じるらしい。
隣に座ると男の求める言葉が、仕草がなんとなく分かる気がする。私はすぐに仕事に慣れ、ぐんぐん指名を伸ばした。
しかし子供騙しが通じないのは、いつだって女だ。
小さな頃からブリッ子だと私のあざとさに気付いた女の子によく陰口を叩かれたり、直接いじられることも多かった。
ここでもそうだった。
入店から10日程たったある日、レオナさんのお客さんがレオナさんの休みの日にわざわざ来て、私を指名した。
その日から他の女の子達から私への風当たりが変わる。必要以上に話して貰えなくなった。話しかけても無視されるか、軽くかわされる。
また私の居場所がなくなってしまったようだ。
レオナさんはとても細くて綺麗でサバサバした人で、大人の女という感じでカッコよくて私は密かに憧れていた。
だからレオナさんと席に着くときは、お客様よりレオナさんに気に入って貰えるよう、密かに気遣っていたくらいだ。それなのに、どうやらあっさり私は嫌われたようだった。
頼みの綱のユカリちゃんは、ちょっと前から実家の手伝いでしばらく来れないと、休みが続いていて、今度いつ会えるか分からない状態だった。
手を差し伸べてくれたのはボーイのサカイ君だ。
調理師学校に通う生真面目でちょっと地味な23歳の彼は私に、
「大丈夫?もしかして店の子達と上手くいってない?」
とこっそり声をかけてくれた。
当時はまだ客引き行為は違法ではなく、私も毎日のように客引きに出されていた。
その日もサカイ君と客引きに出ていたのだが、平日の深夜で人通りがほとんどなく、
なかなか客が捕まらず、立ち疲れた私達はいつものようにサカイ君の秘密のサボり場だと言う、雑居ビルの非常階段で缶コーヒーをおごって貰い一息付いていた。
サカイ君は控え目で聞き上手だった。そして多分、私の事が好きだ。上手くやれば、色々と助けてくれるんじゃないかとふと思った。
私は、レオナさんの事、おさわりの激しいお客さんの事、家の事、実は14歳で家出中であること等を全部話し、ついでに涙を流して、
「もう、疲れた。死にたい…」
と呟いてみた。
案の定、サカイ君は私をそっと抱きしめた。
それは、もう1人で生きるのは限界で、助けを獲るための演技のはずだった。
だけど自分で自分の演技に酔ったのか、それともサカイ君の腕が思いの外、力強く暖かかったからか、涙が止まらず震えながら泣き続けてしまった。
すると、
「もう店辞めなよ。そんなに辛いなら、辞めたらいいよ。ウチにおいで。しばらく何も考えずに休めばいいよ」
と思いがけない提案をしてくれた。
確かにしばらくは何も考えずに休みたい…。私はサカイ君の提案に乗る事にした。
閉店後、こっそり荷物をまとめ、店を飛んだ。そして今度はサカイ君の家に逃げ込んだ。
大人になり、たまに考える。
サカイ君は本当にお人好しの良い人だったのか、それとも実は私なんかよりよっぽど演技派で、ずる賢いひどい奴だったのか…。
本当の所は分からない。でもとにかく私はサカイ君に『初めて』をあげた。
そして自分の産まれてきた意味を知ったのだ。
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