第5話昭和の恋仲

昭和16年

桜並木の坂道には右手を添えられた背中の温もりが優しいと感じた曲がり角勇二(まがりかどゆうじ)と、看護婦の須崎八代(すざきやしろ)が並び坂の上の白熊病院を目指して歩いていた。


 高知県須崎市の茗荷農場の跡取り娘は八代という名前を気に入っていたから嫁入りの時まで何が有っても改名はしない覚悟で・・・、生きて居た。


「左踵を先に着して右足を振り出すながですき膝を曲げないとイカンき、そうそう。」

膝軟骨の摩耗を気にする余り多くの啓発を残した八代は、眼を輝かせて勇二を見上げる。

「こうか?」八代を振り向き、右手には倒れまいと杖をしっかり右半身の全体重を掛けながら聞く。

「ハイ、そうなが!こじゃんと出来たきねえ勇二さん!?」優しさの眼差しはキラキラと輝きうんうんと無言で頷いていた。

 瞳が潤んでいた。

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