清楚系あざとかわいい女子の次のターゲットはどうやら俺らしい

田中又雄

第1話

 あざとい...一般的には「あくどい」「小利口である」という意味があり、否定的な印象で使われる言葉。


 最近では自分の可愛さをふんだんに使う女子にも使われる言葉である。


 そして、我が校にも例に漏れずそんなあざとい女子が存在する。

それもかなり飛び切りのあざとさと、かなり飛び切りの可愛さを持った女の子。


 名前は秋宮あきみや 花音かのん

瓦山かわらやま高校の2年3組で出席番号16番。

身長は148cm、体重不明(やせ型)、カップ数:Fカップ(推定)。

自称清楚系女子であり、黒髪ロングで初見では確かに清楚系を思わせるが、仕草のあざとさ、口調、雰囲気なども含めてそこに一切の清楚さを感じない。

だが、圧倒的にかわいく、圧倒的にあざとい。


 頭はあまり良くなく、性格はもっと良くない。

ターゲットの男子を見つけては自分に惚れされ、ベタ惚れしたところでぽいと捨てるごみ捨て系女子である。

だが、どんな悪いうわさが流れようと彼女の人気には何の影響もなかった。


 そんな容姿SSで男子が好きそうな女子である彼女と、1年と2年で同じクラスなのが俺であった。


 ちなみに俺のスペックはすべてにおいて中の下くらいだった。

当然、彼女のターゲットになるような何か特別な才能、例えば超勉強ができたり、家がお金持ちだったり、スポーツ万能だったりするわけでもない俺とは無縁の存在のはずだった。


 そう思っていたある、少しいいことをした翌日の6月9日の出来事であった。


 ◇2024年6月10日(月)


 いつも通り、特に何の日でもないただの憂鬱な月曜日。


 いつもの時間に家を出て、いつもの時間に学校に到着し、いつものように靴を履き替え、いつものように教室に入った時のことだった。


 時刻は8時00分ジャスト。

いつもであれば俺が一番最初に到着しているはずの教室に、いつもはいない彼女が窓際の一番後ろの席、つまりは俺の席に座って、いつものようにあざとい笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「おはよう、安久谷あくやくん♡」と、1年と2か月ほど一緒にいて初めて名前を呼ばれた。


 相変わらず男子殺しの可愛さを発しているが、俺に走ったのはむしろ悪寒だ。

別に彼女のことが嫌いなのではない。あざとい女子も普通に好きだ。


 それでも悪寒が走ったのは恐らく理由がわからないからだ。

だってそうだろう?友達も、人気も、男子も、青春も、すべてを持った人間がすべてを持たない俺にいったい何の用があるというのだ。


 怪しい...というか、むしろ怖い。だからこその悪寒だったのだ。


 そのまま、コンマ何秒か立ち止まってからそのまま歩き始め、自分の席に向かう。


 そうして、我が領地と言わんばかりに席に座って、笑っている彼女に恐る恐る声をかける。


「...あの...そこ...俺の席なんですけど...」


「わかってるよぉ?わかってて座ってるの!えへへ♡」と、俺の机に突っ伏する。

もちろん、胸を机に押し付ける形で、それを俺に見せつけるように...。


「...あの...えっと...俺...お金とかないですよ?」

「えーwなにそれw別に私もお金には困ってないよぉー?w」


 お金の要求ではなかったことに一安心する。

もし、そんなことを要求されれば多分有り金のすべてをあげちゃっていたから。

あげちゃうのかよ、俺。


「...じゃあ...なんの...?」

「友達になりたくて!」と、予想外なことを言ってくる。


 友達...って...その...友に達と書く、友達?なんで俺と?と余計に理解ができなくなる。

だって、彼女には既に何友達かわからない男友達がいっぱいいるのだから。


「...え?いや...その...え?」

「でも、あくまで友達だからね?好きになっちゃだめだぞ?♡」と、言いながら立ち上がりこちらに手を出してくる。


 握手を求めているのかと思い、よく分からないがその手を握ろうとすると、シュッと手を引いて、「違うよぉw携帯出して!連絡先交換しよ!」と言われる。


「...あぁ...連絡先...」と、少し恥ずかしい気持ちに耐えながら、急いで携帯をとりだす。


「そんなに慌てなくていいよwじゃあ、私がQR出すねー」と、QRコードをこちらに見せながら待機する秋宮さん。


「...えっと...」と、困惑していると、「もしかして知らない!?友達追加のやり方!」と、驚かれる。


 ネッ友と交換したときはID交換だったし、それ以外の交換方法があることすら知らなかった。


「ちょっと携帯貸して!」と、半ば強引に奪われると手慣れた様子で友達交換をする。


「はい、できた!てか、トプ画初期アイコンなんだw」と、クスクスとかわいく笑う。


「あっ...うん...」と、いじり慣れてない俺はつまらない反応をしてしまう。


「じゃあ、これからよろしくね!安久谷あくやくん♡」というと、彼女はスタスタと自分の席に走っていった。


 結局、なんで俺と連絡先交換をしようと思ったのか、聞くのを忘れてしまっていた。


 まぁ、でもきっと聞いても理解することなんてできないだろう。

友達100人を作るとかきっとそういう何かなのだろう。


 しかし、これが俺の青春の1ページになるとはこの時思いもしていなかった。


 

 ◇


「...やった」と、RINEに映る初期アイコンを見つめながら彼女は一人微笑んだ。

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清楚系あざとかわいい女子の次のターゲットはどうやら俺らしい 田中又雄 @tanakamatao01

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