第9話 俺の知らない小野宮*神野斗真*


*神野斗真*


ガラッ



「先生、風邪薬ちょーだい」

「あ、神野くん! 小野宮さん知らない?.......って小野宮さん! 帰ってきたのねぇ! もう、どこ行ってたの〜!?」

「先生、ちょっと静かにできねぇ.......?」



ちっせー小野宮の体を、空いているベッドに降ろす。幸い保健室の先生がいてくれたから助かった。「ちょっと抜けてる保健室の先生」という噂が無ければ、もっと安心出来たろーがな。



「スー、スー.......」

「(ほっ)」



小野宮は移動中に寝たらしい。浅い呼吸を何度も繰り返している。熱のせいか、息がかなりあったけぇ。



「小野宮さん、薬飲んでないの? ここに置いておいたんだけど」

「飲んでねーつってたぞ」


「それはいけないわねぇ。でも、わざわざ起こすのも可哀想だし.......」

「.......それより、小野宮さっき抜け出してたぞ。先生どこ行ってたんだよ」



聞くと、先生は「そうそう!」と手をパンっと叩く。病人が寝てるってのに、結構なボリュームだ。察するに、この先生がうるさくて抜けて来たんじゃねーのか?小野宮。



「あまりに熱が高いからね、ご家族に迎えに来てもらうように電話してたのよ」

「来んの? 親」



すると先生は、困ったように頬に手を当てた。



「ご両親の携帯に電話したんだけど繋がらなくて。幸い、家に電話すると繋がったんだけど、おばあちゃんのみご在宅らしいの。でも、足が悪くておばあちゃん一人ではどうにも出来ないらしいのよ」



へぇ、ばーちゃんいんのか小野宮。ってか会社は? 会社に直接電話すりゃ繋がるだろ?――そう聞くと「ダメ」だったらしい。



「どちらも会社を出られて仕事をされているらしくて、会社用の携帯も持ってないらしいのよ。今頃、ご両親の携帯に会社からも電話が入ってると思うんだけど、気づいてくれないかしら.......おばあちゃんも心配されてたわ」



先生も小野宮が心配なのか、氷枕を用意したり体温計を持って小野宮に近づいた。そして何の断りもなく、服を脱がし始めた。



「は?」



いやいや、ちょっと待てよ、おい。

俺がいんだろ、ここに。

小野宮の事を好きな俺が!!



「先生、俺ここにいるけど、そんな堂々と脱がせていーのかよ」

「あ、そうね! ごめんね神野くん、カーテン閉めるわね〜!」



シャッ


閉まったカーテンの奥で、しばらくしてピピッと高い音が鳴る。同時に「やっぱり高いわねぇ」と項垂れる先生の声。



「.......」



許可が降りるかは分かんねーけど、一応、言ってみるか。



「なぁ先生、提案があんだけど」

「なぁに?」

「俺が小野宮を送るってのはどう?」



すると、小野宮に服を着せた先生が、勢いよくカーテンを開けた。そして「それいいわねぇ!」とバカでけー声で賛成する。



「小野宮さん家、結構近いのよ。最悪私が行こうかなって思ってたけど、色々手続きがね.......面倒なのよ.......」



一瞬暗くなった先生だが、「でも神野くんが代わりに行ってくれるなら大助かり!」と笑顔で拍手をした。



「じゃあご両親に電話して、あ、不在ならまた会社かしら。“ 小野宮さんは家に帰る事になりました”って伝えてくるから、神野くんはここで待っててくれる?」

「おー」

「ついでに小野宮さんの荷物と、小野宮さん家までの地図もコピーしてくるから、神野くん、ここ宜しくね!」



大声で全ての連絡事項を告げた後、先生は居なくなる。嵐みてぇな奴だな.......。小野宮に静かに近づくと、一連の騒動では起きなかったのか、まだ寝ている。



「あ、薬ここにあんのか」



ベッドの横に置いてある、小さな棚を見る。そこには水の入ったコップと薬が、お行儀よく並んで置かれていた。



「.......仕方ねーな」



冗談で言ったつもりだったよ。「口移しで薬を飲ませてやる」なんて。でも仕方ないだろ。咳き込んだり苦しそうな顔で寝られると、助けてやりたくなんだろ――


少しの背徳感に言い聞かせるように、小野宮の頭を、角度をつけて持ち上げる。そして俺の指で、小野宮の口を少しだけ開けた。その時、熱で血色の良くなった小野宮の唇をなぞる。



『斗真』



途端に思い出しちまう。小野宮に名前を呼ばれたことも、小野宮のこの唇にキスをしたことも。



「悪ぃな、小野宮」



お前の知らねぇとこで、もう一回キスするからな。ちゃんと飲めよ――


パキッ


フィルムから薬を出して、小野宮の口に入れる。コップに入った水は俺が口に含み、間髪入れずに小野宮の口へ流し込んだ。



「ック、ックン、ックン.......」

「.......はっ」



何とか飲んでくれたな。にしても、やっぱすげー熱だ。唇も口の中も、熱すぎんだろ。



「あ」



無事に薬を飲んだらしい小野宮の口から、飲み込めきれなかった水が、今にも垂れそうになっている。その水をキスで受け止めた時、小野宮はくすぐったかったのか、情けない顔でふにゃっと笑った。試しに頭を撫でると、手に頭をグリグリ擦り付けてくる。なんだコイツ、猫みてぇ。



「俺に移して、早く良くなれ」



もう一度キスをする。小野宮の反応がない、静かなキスだ。つまんねーな、小野宮。顔を真っ赤にしろよ。今にも泣きそうな目で俺を見ろっての。



「これ以上は“ オアズケ”だな」



ただ唇に当たるだけのキスじゃ、風邪だって俺に移れねーよなと思いつつも、いや、でも、これ以上はな.......と思いとどまる。さっきは薬を喉に押し込むために、ちょっと舌を使っただけだしな.......ノーカンだろ。


ギリギリの所で踏みとどまった時に、先生が戻ってくる。「おまたせー!」という声量は相変わらず大きく、小野宮はついに、その声で起きることとなる。





「こ、こ.......」

「おー。チャイム押せるか?」

「うん.......」



あれから小野宮をおんぶして、小野宮の家まで移動した。学校から家までは歩いて十分と聞いたけど、小野宮と話しながらだと体感三分くらいだ。


ピンポーン



「おば、ちゃ.......りこ.......だ、よ」



小野宮がそう言うと、中からバタバタと音が聞こえる。確か、ばーちゃん足が悪いっつってたな――そんな事を思い出していると、背中から「重いよね、ごめんね」と途切れ途切れ聞こえる。



「お前もっと食え。軽すぎなんだよ」

「ご、ごめ.......ん」

「薬、効いたかよ?」



少し弾んだ声で「うん」と聞こえた。さっきより声色も良くなってるし、本当に効いたみてぇだな。安心した、その時だった。


バタンッ



「莉子ぉ〜!!」



すごい迫力のばーちゃんが、ドアをぶち破らんとする勢いで出てきた。



「こんなになって可哀想に〜! 早く中へお入り!」

「へ.....き、だよ.....」

「こんなに顔を真っ赤にして平気なわけあるもんか! 今から医者に来てもらおうかね!」



未だ小野宮を背負ったまま、スマホを確認する。昼の12時が近いな。



「病院閉まんじゃね? 昼休憩入んだろ」

「そ、だよ……ばあちゃ.......」



小野宮に言ったつもりだったが、ばーちゃんの気に障ったか? 眉を顰めて「そういやこの人は?」と俺を見た。



「あ.......え、と」

「いや、いい。俺から言う」



しんどそうな小野宮に言ってもらわなくても自分で言う。小野宮を降ろして、ばーちゃんに向き合う。足が悪いのは本当らしく、杖をついてひこずっているようだった。



「初めまして。小野宮さんと同じクラスメイトの神野斗真と言います。同じ交通委員をしています。今日はいきなりお邪魔してすみません」



小野宮は、驚いた顔で俺を見ている。なんだよ、自己紹介が変だったかよ。ばーちゃんは「そうか」と言って、スリッパを出した。どうやら俺の分らしい。



「莉子が世話になったね。良ければ莉子の部屋に連れて行ってあげておくれ。階段から落ちでもしたら大変だ」

「わかりました」

「ワタシの足が悪くなけりゃねぇ.......」



ばーちゃんの小さな声は、小野宮の耳にも届いたらしい。小野宮は何故だか申し訳なさそうな顔して、俺のシャツをキュッと握った。



「……じゃあ、お邪魔します」

「頼んだよ、1階で待ってるからね」

「? はい」



「待ってる」という言い方が少し引っかかったものの、小野宮と一緒に靴を脱ぎ、階段を上がる。小野宮のイメージにピッタリの、優しい雰囲気の家だな。白を基調とした壁や床が、小野宮の存在を引き立てている。



「(改めて見ると……小野宮って、やっぱ可愛いんだよな)」



今は小野宮の顔が赤いからか、白い家にいると余計に目立って見えた。



「こ、こ……わた、の……へや」

「おー」



可愛いプレートで「りこ」と書いてある。取っ手を握ったら、小野宮が自分の熱い手を、俺に重ねてきた。



「は、はい……るの?」

「あ? 入るに決まってんだろ」



好きな女の部屋に入らねー男がどこにいんだよ。いや、変な意味じゃねーよ。風邪でフラフラしてる小野宮がベッドで横になるのを見たら安心出来る気がするから、絶対見届けてぇ。けどこの女、何を勘違いしてんのか頑なに拒否する。



「い、いい……」

「はぁ、うぜぇ」



瞬間、小野宮を抱き上げて部屋を開ける。そして部屋着らしい物を見つけると、それと小野宮とをベッドに投げ込んだ。



「いいか、着替えてベッドに入ったら俺を呼べよ。廊下で待ってっから」

「え、あ……の、」


「それとも、脱がすの手伝ってほしーのかよ?」

「で……出て、って……っ」



パタンッ


顔を真っ赤にして「出ていって」と言った小野宮が面白くて、静かに笑う。中では素直に着替えているのか、服の擦れる音が聞こえた。



「(アイツ、全く警戒してねーな……)」



小野宮が男慣れしてないのは一目瞭然だが、扉一枚隔てているだけで普通に着替えてると思うと、少し凹む……。



「(俺の事、全く意識してねぇってことかよ……)」



はぁ、とため息をついたところで「神野くん」と、途切れ途切れで聞こえる。着替えは終わったらしい。


ガチャ



「終わったか……は?」

「ご、め……」



目の前には、脱ぎ掛けの制服が頭の途中で止まり、下着のシャツが露わになっている小野宮の姿。幸いスカートはもう履き替えたようで、きちんとズボンを履いている。いや、でもお前……本当なにやってんだよ……。



「まさか、絡まったのかよ」

「と、れな、くて……。う、で、をあげ……る、のも……つかれ……て」

「勘弁しろよな……」



俺はなるべく小野宮を見ないまま、制服を上に引っ張る。幸いすぐに脱ぐことが出来、小野宮はいそいそと部屋着を着た。



「いくらちっせーモンだからって見せびらかすんじゃねーよ。元気になったら覚えとけよ」

「ちっせ……? モン……?」

「……気にすんな。早く寝ろ」



すると小野宮は制服をきちんとハンガーに掛けて、ベッドに横になる。足元にあったタオルケットを掛けてやると、小野宮が「ふふ」と笑った。



「なんだよ」

「やさ、し……あり、と……」


「掛けただけだろ」

「ふふ……」



小野宮はやっと落ち着いたのか、瞼が重くなって、今にも寝そうだった。俺は小野宮のおでこに軽くキスをした後、「また学校で待ってるからな」と部屋を出た。長居は無用だ。俺の理性が保てている間に、退出するに限る。


1階に降りると、さっきの言葉通りばーちゃんが待っていた。リビングに一人だけで、テレビを見ているようだった。



「小野宮さん寝ました。お邪魔しました、失礼します」

「神野くん、だったけな? こっち来なさい。茶でもいれようかね」

「いえ、お構いなく……」



本当、構わなくていいからさっさと学校に戻してくれ。けどばーちゃんは予め準備していた湯のみに茶を注ぎ、俺に座るように促した。一部だけ畳になっているコーナーに入り、正座をする。テレビは既に消されて静かだ。


いや……

なんだよ、この雰囲気……。



「単刀直入に聞くがね。神野くんは莉子のなにかね?」

「なに……とは?」


「ただのクラスメイトかね、と聞いている」

「……」



あぁ、なるほどな。ばーちゃん、小野宮の事がすっげー可愛いんだろうな。俺が危険なやつかどうか、リサーチしてんだ。まぁこんな強面のやつが小野宮の周りにいたら、虐められてんのか?って疑うわな。



「ただのクラスメイトです」

「嘘つけ。お前、莉子のことが好きだろう?」


「……」

「見てりゃ分かる。それに、なんでもないクラスメイトをわざわざおぶって、家まで届けるものか」


「なんだ――」



分かってんじゃねーか、ばーちゃん。



「正解だ、ばーちゃん。昨日……と今日、小野宮に告白したんだ。けど、本人は聞く気なしだぜ」

「けっ、見込みなしかい」



意地悪そうにクククと笑うばーちゃん。くそ、なんか腹たってきた。



「で、俺が小野宮を好きなら、何だよ」

「……莉子が喋ないのは知ってるね? では、なんで喋れないのかは聞いたかい?」



ばーちゃんの目の奥が、キラリと光る。なるほどな、本題はそこかよ。



「聞いてねーよ。昔からそーなんじゃねーの?」



すると、ばーちゃんは首を横に振る。そして「中学2年生までは普通に喋れてたさ」と、俺にスマホを見せてきた。



「これ、ばーちゃんのかよ」

「いいだろう。小さい頃からの莉子がたくさん入っとる」

「後で見せてくれ」



「そう急かすな」とばーちゃんがスマホを差し出す。画面に写っていたのは動画で、小野宮がセーラー服を着て笑っている場面で止まっている。躊躇なく再生ボタンを押すと、



『おばあちゃん〜どう? 似合う?』



まるで見せびらかすようにクルクル回っている小野宮が、そこにいた。



「……」

「可愛くて声もでんか、青二才」

「……うっせーな」



正直な感想、この時の小野宮が高校に来ていたら、すげーことになってたんじゃねーか?いつも男子が周りにいて、誰もあいつを離さねーだろ。こんなに可愛くて、天真爛漫そうな小野宮だぞ?


こいつなら、新入生代表の挨拶を断らずに引き受けただろーな――なんて考えながら、スマホを操作する。



「中学校に入学した日の莉子だ。それはもう可愛くて、」

「俺のSNS登録しといたから、そこに送ってくれ」



するとばーちゃんは「余計な事を」と怒って俺からスマホを取り返した。



「で?」



本題に切り込む。



「どうして小野宮は喋れなくなったんだ?さっきばーちゃんがボヤいた“ 足が悪ぃ事”と関係あんのか?」

「……なに?」


「小野宮が申し訳なさそうな顔してたぞ。いたたまれないよーな、そんな感じだったからな」

「そうか……」



ばーちゃんは茶をコクリと飲んで、「実はな」と話し始めた。



「中二の時にワタシが莉子の目の前で倒れてしもーてな……。その時に両親は不在で、意識のないワタシを、莉子が一人でどうにかしないといかんかった」



その時、ばーちゃんは小さな仏壇に置かれていた写真に目をやる。男の人……小野宮のじーちゃんか。



「莉子の祖父は莉子がまだ小さい時に亡くなってな。中二まで莉子は人の“ 死”を身近に感じたことがなかった。が、いつも元気なワタシがいきなり目の前で倒れてしまう――それはそれは、莉子にとって衝撃的なものだっただろうよ」

「何とか出来たのかよ?」

「一生懸命119にかけたらしい。けど、震えて上手く喋れなくてな。何度も聞き返されて、何度も喋ろうとして……。結局、救急車を呼ぶことは出来たが、ワタシは倒れた後遺症で足が悪くなってな。よく言う脳梗塞ってヤツだの」



ばーちゃんは勢いよく足をパシッと叩く。話している内容とは違って、元気なばーちゃんだ。



「で、その時に医者が言ったらしい。“ もう少し早く病院に来ていれば違ったかもしれない”とな」

「なんでそう言いきれるんだよ」


「倒れてから病院で処置を受けるスピードが早いほど、後遺症が残る可能性は低いらしいぞ」

「でも確率の問題だろ?」


「そうだ、ワタシは全く当てに出来ん話と思うとる。けど、莉子は違った」



ばーちゃんの顔は暗くなる。



「あの真面目な子は、その話を真に受けての。足は悪くなったものの多少は動くんじゃから気にせんでええと言ったが、莉子はあの時もっと早く救急車を呼べていたら……とショックを受けてな」

「そっからかよ。今の話し方になったのは」


「そうだのぅ……。ワタシが退院してから、というより、ワタシの足を見る度に、徐々に話せなくなった……という感じかの」

「……そーかよ」



小野宮にとって相当ショッキングだったんだろーな。でも、小野宮が悪ぃってわけじゃねーだろ。



「別に責めてるわけじゃねーんだろ? 孫を」

「当たり前だ!」



ドンッと机を叩く。ばーちゃんは菓子を手に取り「そもそも」と食べながら続ける。



「莉子がおらんったら、ワタシは命がなかったところだ。可愛い孫で命の恩人と言える莉子を、憎んで恨むわけないだろうに」

「でも小野宮は後悔してんだな」


「悪いのはワタシだ。あの時、莉子の目の前で倒れさえしなければな……」

「……」



仏壇の前で辛気臭いオーラを放つばーちゃん。この調子だと、今の小野宮のこと知らねーのか?


その時、俺のスマホがブブッと振動する。見ると、兄貴からメールが入っていた。



『さっき職員室に行ったんだけど、斗真の担任の先生が話があるみたいだよ。探してたから、職員室に行ってあげてね』



担任?

何の話なんだか。

公共の面前でキスをしたから何かの罰か? いや、さすがにそこまではねーか。


足が痺れてないのを確認し、茶を全部飲む。「ごちそうさま」と言って、仏壇の前に座った。チーンと鳴らして、手を合わせる。


そして――



「心配すんなよ、ばーちゃん。小野宮、今すげー頑張ってんだ」

「……というと?」


「喋る特訓を俺としてるんだよ。小野宮が、今のままじゃ嫌だって、変わりてーって、そう自分から言ったんだ」

「!」



振り向くと、ばーちゃんの目が揺れ動いていた。少し泣きそうになってる。



「こんな話をお前にしたのはな……今の莉子を好きになってくれたお前だからこそ、頼もうと思ってたんだ。莉子が、前の莉子のように喋れるようにしてくれと」

「そうかよ」



ズズ……と泣くばーちゃんに、その辺にあったティッシュを一枚取って渡す。呼び出しかかったし、昼休みが終わらねーうちに戻らねーとな――ドアの方へ向かった。



「けどばーちゃん、俺思うんだけど」

「なんじゃ」

「小野宮にはもちろん喋れるよーになってほしいけどな……まぁ、そのままでもいいかなとも思うぜ俺は。

だって小野宮――今のままでも充分かわいーだろ? どんな小野宮だって俺はもらい受けたいからさ、早く孫離れしとけよな、ばーちゃん」



それだけ残して、小野宮家を後にする。残ったばーちゃんが泣いてたとか、実は起きてた小野宮が部屋を出て話をこっそり聞いてたとか、そんなことは一切知らないまま学校へ戻る。



「あ、ばーちゃんに“ 俺の連絡先を小野宮に送っといて”ってメールしとかねーとな」



職員室に呼び出されてるってのは気に食わねーけど、小野宮とメールできる期待の方が大きい。とはいっても……職員室で聞かされた話はやっぱり面倒くさくて、



「は!? なんで俺が!?」

「頼むよ〜神野〜! もうお母さんには許可を取ってあるんだ!」

「(あのくそババア……!)」



その後ばーちゃんにメールするのを、すっかり忘れてしまっていた。




*神野 斗真*end


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