駄目と言われれば、やりたくなる。

 ミミカは鎌を横に構える。隣にいる死神が、こくりと頷いた気がした。


「そのまま、稲刈りのように横にすっと狩るだけです」


「わかった」


 稲刈りなんてしたことはないが、要領はわかる。


 青っぽい炎はゆらゆらと揺らめいて、お爺さんの死体の上を浮遊している。


「なんでお爺さんは、わたしみたいに人の姿の魂じゃないの?」


「魂にも質があります。ミミカさんは、膝辺りまで人の姿を保っていたので、とても優秀だったのです」


 そういわれると、何だか自分が特別みたいでミミカは心地よかった。


「さぁ、魂が散る前に。この方の魂を導いてあげてください」


「狩ると、どうなるの?」


「この世との繋がりを絶ち、三途の川へと運ばれていきます。その後のことは、わたくしたちの知るところではありません」


「ふぅん……」


「さぁ、ミミカさん。ノルマは一日に二十以上の魂を送るんですよ。サクサク行きましょう」


「そんなに?」


「これでも、少ないほうです」


 ミミカは思いっきり、鎌を振った。思ったよりも手ごたえなく、人魂は一瞬大きく光ったかと思うと煙のようにその場から消え去った。


「おめでとうございます。ミミカさん、人魂は狩れば狩るほど己の鎌が磨かれるといいます。エリート死神目指して、頑張ってくださいね」


「さっきみたいに、どこかで死んだ人を見つけて狩ればいいの?」


「はい。オススメは交通量の多い道路や、病院、自殺の名所なんかもいいですよ」


「そんなに穴場を教えていいの? 他の死神と取り合いになったりとかするんじゃない?」


「この辺りの地域はわたくしの担当ですので、問題ありません。それに、わたくし一人では捌ききれないのです。そういうわけですからミミカさん、遠慮せずにどんどん狩ってくださいね。幸運を祈ります」


 立ち去ろうとする死神に、ミミカは疑問をぶつけてみた。


「生きてる人間には、鎌は効かないの?」


「……それは禁忌です。不必要な魂狩りは、この世の生のバランスを崩しかねません。魂とは、人間世界でいうタバコのようなものです。吸っているあいだは周りに害を及ぼす。そして、吸い終わったら捨てる。分かりますか?」


「でも、鎌が効くには効くんだ。ふぅん」


 ミミカは死神の言葉には耳を傾けずに、外へと飛び出す。引きとめる声は、もう闇に紛れて聞こえなかった。

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