優しさの形は人それぞれ。

 ミミカが向かったのは彼氏のバイト先である居酒屋だった。


(あれ、いない……?)


 今日はバイトだから深夜は遊べないといっていたのに、居酒屋に彼氏の姿がない。まさかと思ってアパートまで行ってみると、いた。しかも、知らない女を家に上げている。


 テーブルには缶チューハイが転がっていて、テレビではお笑い芸人たちの笑い声が飛び交っている。そんななか、二人はベッドの上で愛を育んでいた。


(そんなことだろうとは思ってたけど……むかつく)


 どうにも最近女の影があるとは睨んでいた。だがまぁ、こうも目の前でイチャイチャされていると流石に腹が立ってくる。彼氏もそうだが、女も女だ。人の男に手を出しやがって、ただじゃおかない、とミミカは虚空から鎌を取り出して、目標を見据える。


 女が嬌声きょうせいを上げる。大きくのけ反った体に、鎌がぷすりと突き刺さった。


 途端、まるで糸が切れた操り人形のように女は動かなくなった。彼はどこか恍惚とした表情で女を見ていたが、すぐに異変に気付いたようだった。


「え? ゆみちゃん? あれ?」


 下半身丸出しで慌てふためく彼氏が情けなくて、ミミカは思わずドン引きした。


(こんなやつの、どこが良かったんだろ……)


 ベッドの上には、人魂が浮かんでいる。それも、さっきみたお爺さんの人魂よりも勢いがある。まだまだ新鮮ですとでもいいたいのか、それすらもミミカに苛立ちを覚えさせた。


「えいっ」


 人魂に向かって、鎌を振った。しかし勢いあまって鎌は彼氏までも貫いてしまった。もう一つ人魂がぶわっと噴き出してきて、折角だから一緒に葬って上げた。ミミカは優しい人間――死神なのだ。


「はー、すごいサッパリ。自分の腕切るのとはわけが違うわ……」


 死神に言われたとおりに、人魂狩りをしようと思い立ってミミカは外へ飛び出す。だが、見える範囲に人魂はない。探そうと思ったけれど、なんだかまどろっこしい。別にないなら、取り出してあげればいいのだ。


 ミミカはもう難しいことは考えずに、目につく限りの人間から魂を引っこ抜いていった。

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