2-21 遺跡と謎の先生
「うわぁ!?むりむり無理無理めっちゃでかいムリ!!」
「ちょっ、アキラひっつきすぎっんっちからつよっ……」
「ごめっうひゃあ!??こっこっち来ないで!キモっムリっ!」
「クフッ……ねぇアキラ、ちょい落ちつ着こ?ほら、こんなの怖くないですから、ね?ちっちゃいし、大丈夫ですから」
アキラが腰回りをぎゅっとするものだから、腹筋のほとんどない腹を押された反動で呼気が漏れる。
「怖いとか怖くないとかじゃないの、無理なのっ!」
暗いところからこちらの光魔法の方に向かって飛んできた虫の羽音がする。アキラは相当に虫が苦手なようで……私をヒシッと抱え込みながら目尻に零れそうな涙を湛えて体を強ばらせている。この様子では、当分離してくれそうにない。
アキラがこうして私に抱きついてくるのはなんか嬉しい。いつも手を握られて保護者をされているので、いつもと逆にこっちが保護者になった感覚。
せっかくイケメンなのに、泣きそうになってしがみついてくるのがまた可愛いなと思ってしまっている。
後ろから抱きつくように腰に手が回されていて、少し俯き気味にカタカタ震えている。そのままだと涙があふれてしまいそうなので、アキラの目尻にたまった涙をハンカチに吸わせる。
そんな様子を隣で見ていたコルネから声がかかった。
「……シヅクはああいう羽の生えたカサカサ動く素早い虫は平気ですの?」
「ええ、一応。ぜんぜん好きではありませんが、この通り、アキラに比べたら平気な方です……あ、え?コルネ?どうして私の腕を?」
「あ、ええ。ちょっと足元がぐらつきまして……ひぅっ!?」
コルネは虫の羽音が耳元をかすめた拍子に私の腕をぎゅっと握りしめた。先ほどから暗い顔をしているなと思ったら……二人とも虫が苦手なんですね。
先に行ってしまったレオスとナーミアさんはまったく平気そうだった。さすが森の湖畔の村出身のレオスと、辺境伯令嬢のナーミアさん。二人はきっと虫なんて見慣れていたんだろう。
それに比べて、都会育ちのイケメンとお姫様は……
「二人とも……苦手なら私の手は好きにしていいですけれど、このままでは歩きにくくて、みんなから置いていかれますよ?」
「そんなこと言っても……ほんとに無理なんだってば……」
「も、申し訳ございませんわ。わたくしも、ああいう手合いは少し慣れておりませんので……」
アキラは拭いたそばから涙があふれているし、顔面蒼白に近いようなコルネも相当きている。
うん。気持ちはわかるよ。耐性がない人はしょうがない。
だって暗がりから突然来るもんね?言葉も通じないもんね?手足とか触覚とか人より数が多いもんね?
まあ、Gとかゲジゲジとかよりはまだギリギリマシな感じだけれどね?
二人にとっては大差ないんだろうな。
スカラベみたいな感じの甲虫で、見た目は私にとってはそれほどキツくはない。
遺跡ってやっぱり人が頻繁に来る場所じゃないから、こういう虫が住処にしているのかもしれない。
虫にばかり気をやっているからいけないのかも。少し話題を逸らしてみますか。
「それにしても、さすが考古学の授業ですね。初回から遺跡の中で授業だなんてすごいと思います」
「できれば安全な教室で授業をしてくれないかな……僕は授業に身が入らなさそうだっよ(ビクッ)」
「ええ、アキラさんに完全に同意いたしますわ。ですが、この授業を受け持っている先生は変わっておりまして……もう数年、学園に戻っておらず、ずっと各地の遺跡を点々としているそうひぅっ!?(ビクッ)」
話題を逸らすのも、そこらじゅうでカサカサ居られてはダメらしい。二人の顔色は優れないままだ。
早く虫がいないところに行けたらいいんですけど……
「それはかなり知識がありそうですね。授業の方も期待が持てそうです。それに、そんな感じなら派閥とかには興味も無さそうですし」
「たしかに……派閥どころか、この国にもあまり興味はないと思いますわ……だってンドルンドンゴ先生は人間ではございませんもの」
「へぇ」
思わず生返事してしまったけれど、人間じゃないってそんな先生いるわけないし、なにかの例えかな?
人間離れしているとかそういう?
こんなところにずっと居着いて死なないんだから、たしかに人間離れはしていそう。
どうやって生活をしているのだろう?
たしか人里からものすごく離れているから、こうして合言葉みたいな魔法でワープして来てるわけだし……
それなのに学園へは戻ってないってことは、どうにかして食料とかを調達してるんだよね?
というか先生の名前なんて言ってたの?
「ほら、あそこにいらっしゃるのがンドルンドンゴ先生ですわ」
「……え?あれが……?」
遺跡だし、昔の人が作った像とかもあるよねって思っていた。
視界に入っていたその像をコルネが指し示す。
よく見たら動いているし、なにかしきりに壁面をまさぐっている。
「コノアタリニアリソウナンダガ、ドコニアルカワカルヤツハイルカ?」
「先生、何を探してるんですか?」
「/>\……ソチラノゲンゴデイウト、カクシトビラトイウモノダ。カクシトビラデツウジテルカハフメイダガ、ンドンドハアタラシイトビラヲホッシテイル」
ものすごく聞き取りにくい機械音のような、動物の鳴き声の合成のような、そんな音で辛うじて話しているように言葉として聞こえている。
明らかに人間ではない見た目をしているし、口がどこについているのかもよくわからないけれど、ンドルンドンゴ先生は話ができるようだ。
いや、喋れなきゃどやって授業をするのか……そもそも授業とかまともしてくれるのだろうか?
「コノイセキノソザイカラスイテイスルト、イマカラ 5000 ネンホドマエノモノダトワカル。ナノニツキヒガスギテモジョウタイガイイ。オマエタチノイウマホウトヤラデコーティングサレテイタ。コーティングスルクライダカラ、ナニカモクテキガアッタハズダ。ンドンドハソノモクテキヲシルヒツヨウガアル」
5000 年かぁ。はるか昔の遺跡なんだなぁ。
「先生、コーティングって封印魔法のことでしょうか?」
「ソウダ。イヤ、ゲンミツニハチガウ。ココノコーティングハ 100 ソウホドノタジュウコーティングガサレテイタ。ナミノコーティングデハナカッタ」
なるほど。
先生は授業とかそういうのは特に気にしている様子ではないけれど、生徒の質問には答えている。
「つまり複雑な封印だったということなんですね?その封印はどうなったんですか?」
「ンドンドガハカイシタ」
ンドルンドンゴ先生の発言に生徒たちはどよめいた。
「ねえコルネ、それってやっていいことなんでしょうか?」
「この『ヘカテ・グレゴリー遺跡』の管轄権はこの国にありますけれど、ンドルンドンゴ先生はたとえ誰かがその封印の破壊を静止したとしても、そうしていたと思いますわ。先生を止められる人なんて、王国にはそれほど多く居ませんから……」
「半ば放任ってことですか?」
「ええ……その通りですわ。でないと無駄に怪我人や死人が出るかもしれませんもの……」
「一体何者なんですか、あの先生は?」
「それが……誰もその素性を知らないのですけれど、あの通りの声音ですが、まあ話せないこともなく、遺跡がどうなっているのか調べられればいいと主張して居座っておりますの……あの方への攻撃魔法はほとんど意味がなく、見た目通りの強固な体ですから、ほとんどの攻撃手段は先生には有効打を与えられないことはわかっておりますわ」
「過去にそうしたことがあるってことなんですね……」
「ええ。王国の腕利きの魔法兵十数名が戦場戦術級の魔法を浴びせたのですけれど、かすり傷を付けられたくらいだったと聞いておりますわ……」
それって相当ヤバいんじゃないの?
戦場戦術級の魔法がどれほどの規模のものかはわからないけれど、少なくとも一人に対して集中的に放つような威力ではないはず。
それをかすり傷で済ますことのできるンドルンドンゴ先生は、まさに化け物なのでは?
それなら、あの先生が黒い影に対処してくれれば、あるいは……
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