2-2 寮と制服
アキラと二人で寮へと向かう。隣を歩くアキラをふと見ると目が合った。アキラは先程から上機嫌だ。
よく考えたら、アキラってこれだけ背も高いし、足も長いのだから、普通に歩いたらもっと早いんじゃないか?なのに、こっちの世界にきて一度たりとも置いて行かれた記憶はない。これってもしかして、何も言わずに
魔法の適性がしょぼかったことで落ち込んでいたけど、アキラがそうしてくれてることに気がつくと、気持ちが少し穏やかになった気がした。目が合ったアキラの視線が少し気恥ずかしくて、無理やり前を向いた。今の顔、ちょっと変だったかな?口角が勝手に上がってしまってなっきゃいいんだけど。
――
寮長のコルネイディア姫の付き添いで居合わせた寮生達に挨拶をしつつ、寮内の共用の場所を巡った。コルネイディア姫は寮内でも知名度が高く、一緒にいるだけで寮生たちは快く挨拶を返してくれた。一通り寮内を見て回り、最後に寮で自分たちにあてがわれた部屋へと案内された。
「お二人には今日からこちらのお部屋を使っていただきます。一応、隣にしたいと伺っておりますけれど、このお部屋はわたくしの家系の双子が使っていた隣同士の部屋ですの。普段は誰にも使わせていないお部屋ですが、救世の御子様方には普通の部屋よりは過ごしやすいかと思いますわ。ただし、双子の要望で間の壁が少しだけ薄いのはお気をつけくださいね」
「「ありがとうございます」」
コルネイディア姫に二人でハモってお礼を言うと、クスりと上品に笑われて「大丈夫そうですわね」と言われてしまった。しかし、あいにくコルネイディア姫はこれから城に戻るようで、部屋の前で別れると玄関の方へ行ってしまった。お姫様は多忙を極めているなぁ。寮長なんていうのも、きっと雑務ばかりだろうに……
部屋の中に初めて踏み入ると、そこには支給された荷物が山のように置かれていた。
「これはすごい。大量だね」
「アキラ、なんでこっちに来たの?自分のが部屋にあったよね?」
アキラは一旦自分にあてがわれた方の部屋に入って行ったのに、すぐに俺の部屋の方にやって来たのだった。
「つれないなぁ。せっかくなんだから何があるのか一緒に見るくらい良いじゃない。それに、さっき『何でもする』って言った人に、さっそくその何でもをやってもらおうと思ってね?」
「その後ろに持ってるもの、何?」
アキラが後ろ手に持っていたのは、アキラ自身がもう着ることのできない女子制服だった。嫌な、予感……
「じゃーん、今からシヅクにはこれを着てもらいまーす。それから、シヅクの制服もあるでしょ?それ、私が着てみたいから貸してね?」
「え……やだよ。だってそれ、アキラの制服でしょ?女子校の。そんなの着たら女子校生のコスプレみたいじゃん」
「そうだよ。そういう女子校生姿のシヅクを見てみたいんだからお願いしてるんじゃない。こんなの着られるの、今だけじゃない?大人になったら着られない貴重な体験だと思わない?」
「んなことして誰が嬉しいのさ?俺の制服を着てみたいなら、はいこれ。貸してあげるけど、もうそれでチャラってことでいい?」
「ダメだよ、私とシヅクの両方が着ることに意味があるんです!絶対着て、今すぐ着て、でないと私、今日ここから1歩も動きませんからね?」
「え〜……?なんか急に面倒なこと言い出したんですけど。残念じゃないイケメン目指すって言ってたのは誰なんだよ……」
アキラは無言の圧で手にした制服を俺の方に差し出し続ける。ちょっと頬を膨らますのとか、なんかイケメンらしからぬことしてて、やっぱり中身はアキラなのかとか思ってしまう。そう思うと若干可愛く見えなくも……ないかもしれなくもない。
「かー、しゃーねー!何でもするって言ったのは俺だし?着るだけな?写真とか撮るのはNGだからな?」
根負けしてアキラの手から女子校の制服を受け取ってしまう。まあ、写真とかを撮れるようなカメラやスマホは持っていないから、撮れるはずもないんだけど、気持ちの表明というか念の為だ。
「ふふ、やった。じゃあ、私隣でこれ着てくるね?」
「はぁ、着れたらこっちの壁コンコンするから、誰かに見られる前にサッと入ってこいよな」
「OK」
――
着替えてしまった。部屋にあった鏡で自分を見ているのに落ち着かない気持ちになる。そこにはアキラの学校制服を着た自分がいた。
ここに来た最初にズボンとか脱げてしまったが、あの時と似たように脚がスースーする。下は履いているのにスースー感はあまり軽減されていない。さっきまでは動きやすいハーフパンツを履いていたからそれほどだったが、スカートになると女物ってなんでこんなに薄くて心もとないんだろうと思う。
そんなことを考えていると、
ほどなくして俺の部屋の前でアキラの声がした。
「シヅク、入っていいの?って、あれ?開いてる……」
あ、ヤバイ。鍵、閉めてなかった……
「もしかしてシヅク、鍵閉めずに着替えてたの!?
アキラが入ってきて鍵を閉めるなり、
「次からは絶対気をつけます……やべー……ガチでやべー」
俺の顔が真っ青になったからか、アキラの
「うん、そうしな。よし、ちゃんと着てるね、偉い偉い。しかも、割とその制服似合ってるじゃない。私の方はどう見える?」
「ああ、そう?まあ、そっちはけっこう袖とかアレンジ効かせていい感じに見える。流石は顔が良いだけあって、俺が着てたらそうはならなかっただろうなって感じ」
「それって
「ほ、褒めてんだよ。いい感じって言ってるじゃんか」
「女の子は、もっとド直球で褒めてほしいものなんだよ?語彙力があるならいろんな表現で褒めてもらってもいいかな。って、今は私が男なんだったね。それで、シヅク。ここをギュッと掴んで」
「な、なんか近いんだけど、何すんの?」
「いいからほら掴んでよ」
「その顔だと圧が怖いんだってば、わかったから……こう?」
「そう、掴んでて」
「お、おい。なんで腕回して、ってうえ!?どうした!?なんで抱きしめてんだよ!?何!?なんなの!?」
「シヅク、目つぶって。うん。そしたら何が聞こえる?」
「は?な、何ってそりゃ、心臓の音だよ。つか、お前の心臓バクバクじゃねえか」
「うん。すごくドキドキしてるの、わかるでしょ?あの時のシヅクもそうだったよ」
「あの時って……おい、まさかこの体勢って、それがしたくて制服着させたのかよ……?」
「そうだよ?あの時ね?シヅクが私のこと守ろうとしてくれて、すごく嬉しかったんだ。だからシヅク、あの時はありがとう。これを伝えたくて、それだけなんだけどね」
そう言うとアキラはパッと腕を開いて俺を解放してくれた。そんなこと、口で言えばそれで良かったじゃん、とか言いかけたけど、やめた。アキラはこういう風に伝えたいって思ってくれたってことなんだよな?なんかちょっと、こそばゆいな、気持ちの入ったありがとうってあんまり言われ慣れてないし、耐性がなくて照れてしまう。俺が今朝手間をかけたことに対する礼がしたかったはずなのに、お礼を言われたのはこっちの方だった。
「アキラ」
「なーに、シヅク?」
笑顔で問い返してくるアキラ。キラキラ度合いが5割増ししてないか?眩しすぎて直視できないつの。
「あのさ、これだと俺が礼をするって話と違うっていうか。そのさ、もっとちゃんと俺からアキラへのお礼がしたいから、何か考えておいてくれないか?それか、俺がなんかいいのを思いつけば言うからさ」
「まだ私に何かしてくれるんだ?嬉しいな。何がいいかな?あ!」
「お?早速なにか思いついたのか?」
「この制服、交換してもいい?どの道そっちのは着れないし、部屋に女物を置いてて誰かに見られたらって考えたら……交換しちゃえば見られてもある程度平気でしょ?」
「ああー、そっか、そうだよなー。たしかに。じゃあ、お互いに持っておくってことで、でもそれはお礼とは別な?」
「え?他にもいいの?やたー」
「いいけど、そんなに喜ぶことか?そんな腕とか擦れてるボロいの。まぁいいや。荷物どんなのがあるか見てみようぜ?」
「うん、見る見る!」
上機嫌のアキラは荷物の内容を二人で開けてみている時も終始楽しそうだった。こんな関係なら、この先も問題なくやって行けるかもしれないと、何となくだが俺も前向きに思うことができた。
ニコニコしてるアキラは、イケメンなのにちょっと可愛いな、とか思ってしまったのはあいつに言わなかった。だって言ったら調子に乗りそうだし、なんかやけに懐かれてるような気はするけど、あいつにとってはきっと、バイト先の同僚から女友達みたいなのに切り替わったってだけなんだろうなって思う。
よく考えたら、俺はあいつのことほとんど知らないし、元の世界の女友達といるとこなんかも知る由もない。たぶんだけど、今みたいに友達の前では普通に笑うんだろうな。バイト先で見かけたちょっとニヤニヤするような感じじゃなくて、こんな風に……
「あ」「お?」
アキラの顔を見ていたら同じものに手を伸ばしていたらしく、手が触れてしまった。アキラの手、そういえぱ城でも手繋いだっけ。今更ながらちょっと恥ずかしくなってきた。
あの時は通りすがりのイケメンだと思ってたんだよな。
お互いに顔を見合せて手を引っ込めた。
「ごめん、そっちのだからお先にどうぞ」
「いや、いいって。アキラも見てみたいってわかってるから気にせずどうぞ」
「いいの?」
「全然いいよ、むしろそっちの感想がほしいかな。服ともかも勝手がわからないし」
「じゃあ、後で私の方もシヅクにみてもらっちゃおうかな。私も男の子の服はまだよく分からないし」
「男の服はこんなに種類もないから、わりと単純だよ?」
他愛のない話をしながら荷物をあけて整理していった。
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