異世界の魔法学園
2-1 魔法適性
一人で使うにしては異様に広い王城の一室で一晩明かして翌日。王立魔法学園への入学試験も兼ねて、俺とアキラはそれぞれの魔法適性を見極めるための試験を受けることになった。
異世界召喚ということなら、救世主的なポジションの主人公たるものは
――
そんなことを夢想したのもつかの間のこと。昨日の夜、魔法が使えるのかとワクワクしていたり、王城の一室が広すぎて落ち着かなかず、その上自分の身体がいつもと違うせいでなかなか寝付けなかった。なのに、
今日の試験の最初にこの学園で教員をしているシルベスター先生の説明を受けた。その説明では、火・水・土・風・光・闇という基本の6属性のうち、こっちの世界の人ははじめから3属性使えるのが一般的らしい。そこから訓練することで、火・水・土・風についてなら、実用的かはおいておいても、誰でも基礎的なレベルのものは使えるようになるらしい。それにプラスして光と闇は必ずどちらかの適性が備わっているという。
なので、例えばコルネイディアさんの場合は、エレメンタリースクールクラス(こちらの世界の小学校のようなもの)で水・土・光の3属性をはじめから使えたらしく、今は訓練を経て火・水・土・風・光の5属性の基礎的な魔法を習得しているらしい。闇属性に関しては代々王族の家系ではあまり適性のある人間はいないのだとか。
俺がこれから編入するハイスクールクラス(4年制で中学3年生と高校の3年間が合わさったようなもの)ともなれば、一般生徒でも火・水・土・風のうち3,4属性の基礎、それにプラスして光か闇のいずれかを適性によって扱える。基本的にハイスクール生は4属性くらいを一般の生徒でも
そこへきて、俺に使えるのは水と光の2属性だけ。出鼻をくじかれた。本当にそれだけならまだよかったのだが、隣にいるイケメン、アキラの結果が正直ヤバかった。
「シヅク、そんなに落ち込まないで。はじめてなんだからいい結果がでなくたって大丈夫。これから習得していけばいいって王女様(コルネイディア姫)も言ってたし。私と一緒にいっぱい練習しよう、ね?」
「ふん……」
そんな安い
どうやら主人公適性はアキラに持っていかれたらしい。
「私はずっと、魔法が使えたらなって思ってたからね。でも、君はそうじゃない。それでも使えたことは本当にすごいと思っているよ」
「それってどういう……?」
「シヅクさん、ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
「あ、はい。今行きます」
試験を見守っていたコルネイディア姫が俺を呼んでいた。
「行っちゃった。がんば、シヅク」
――
念のためとコルネイディア姫がもう一度試験をやり直してくれたのに、結果は変わらず2属性。魔法適性の試験が終わり、シルベスター先生から学園への転入手続き書類が手渡された。その書類の中には特殊な材質でできているものもあり、手をかざすと使用可能な属性の模様が浮き出てくるちょっと変わったものもあった。すごい魔法っぽい。条件的に発動する魔法なんて
「アキラのはやっぱり全属性の模様が出るんだ。やっぱチートだよなー。不公平だよそれ」
「ほらシヅク、そんなこと言わないで、シヅクもやってみたら
「そんなわけないじゃん。さっきの二度目の試験、アキラも見てたよね?水と光属性の魔法以外はまったく使えなかったじゃん」
「私が使えたってことは、別の世界の人でも使えるってことだし、シヅクにだってこれから使えるようになるはず」
「期待してまたどん
「そっか。それはごめん」
「謝られても余計にえぐられるんですけど……」
「あ、ほら、なんか浮き出てきたよ?でも……なんか模様が
「もういいです……このまま出します。もしもやり直せって言われたら、大したことでもないからすぐにやり直せるし。別にこれっぽっちも期待してなかったし、悲しくないし……」
「せっかくメイクしてあげた顔で泣きそうになっているのをみると、私まで悲しくなってくるよ」
「いや、なんで!?」
「感情移入かな?なんか女の子じゃない私自身の顔見ても、まだあんまり感情が入ってこないけど、シヅクにはなんでか感情移入できちゃうんだよね」
「ああ、それわか……う~ん、いや。イケメンに感情移入とか、やっぱ俺には無理っぽい」
「シヅク、それ自分で言ってて悲しくならないの?」
「ここでイケメンに感情移入できますって言い切ってしまうと、俺の人生の大部分だった男の時の俺が全力で拒否反応を示して帰ってこなくなる気がするんだ。だから後悔はしていないし悲しくもならない。イケメンじゃなかった人生も、べつにそれほど悪くなかったからね」
「……」
「いや、ちょっとはそりゃあね?男であるって部分だけは共感持ってるから!だからそんなに見つめないでくれ!」
「……別に……ってそれほど……かったわけでもなくない?」
「ん?なんだって?」
「な、何でもない。そうそう、それより寮の部屋ってどんなだろうね?」
「そういえば。アキラ、部屋のこと、一応サンキューな」
「その方がシヅクも私も何かと便利かなって思っただけ、感謝されるようなことは何も」
「うん。結果的に認めてもらえたし、その方が俺も何かと助かるかも。今朝も結構
今朝は準備に手間取って、結局アキラにいろいろなことをしてもらったのだった。特にメイクとか着替えとか、正直自分一人じゃどうにもできないくらい未知だらけだった。どれとどれをどの順番に、とかそんなこと言われても工程が多すぎて把握すらままならない。そんなこともあって、先ほどシルベスター先生から寮の部屋の話が上がった際……
――
15 分ほど前。シルベスター先生がこれからの俺たちの学園生活について教えてくれていた。
「今日からは学園内の寮で生活してもらうことになります。問題を起こしにくくするには男女それぞれ別々の寮とした方がいいのですけれど」
「私とシヅクの部屋を隣同士にしてはもらえないでしょうか?」
アキラがシルベスター先生へ若干食い気味に申し出た。
「あなたたちは家族か何かなのですか?それとも……」
「いえ、でもお互いにただならぬ関係ではあります。ですので、これは
「ただならぬ、関係ですか……?まあ、
「それで大丈夫です!」
「でしたら、一旦は私から管理人と寮長にも伝えておきましょう。もしかすると部屋が空いていないかもしれませんからね。その時は隣同士に空きが出るまで待つようにお願いしますね?」
「はい、わかりました、ありがとうございます!」
俺はアキラに耳打ちで聞いてみた。
「ちょっとアキラ、どうして隣?コルネイディア姫の監視のこともあるから、どのみち寮は同じって話だったんじゃ?」
「君にはいろいろ聞きたいこともあるし、きっと私に聞きたいこともたくさんあるはずだよね?」
「そうだけど、でも……」
「嫌……?」
「え?嫌とかではないよ?」
「じゃあ決まりね」
俺とアキラがこそこそと話している姿を若干呆れ気味に眺めるシルベスター先生。
「本当に仲がよろしいことで。二人の荷物は帰るころまでに部屋に運んでもらうようにしておりますから、帰ったらよく確認しておいてくださいね?」
はて?荷物なんてあったかな?こっちの世界に飛ばされてから、身につけていた服以外は特に荷物と呼べるようなものはなかったような。制服も大きすぎてもう着られないし、アキラのは逆に小さすぎて着られたものじゃなかったはず。今更あの制服が戻ってきても何の意味もない。
「荷物、ですか?先生、私たちには特に持ち物はなかったはずなんですけど」
「この学園で使用する用具や教材、制服やローブなどが届くようですよ。あなたたちは国の
「ガチ!?」「すご!!」
「ちなみに、私は国の賓客といえども、特別な扱いはしないつもりですので、そのつもりでしっかりと学んで実力をつけてくださいね?」
「はい、わかりました。よろしくお願いします!シルベスター先生」
「私も、これからよろしくお願いします。シルベスター先生」
「はい、ええ。どうか問題など起こさないように、生徒の問題の後始末なんてしたくはないですからね」
――
そうだ。寮に戻ったら荷物があるんだった。どんなものがあるのか、ちょっと楽しみだったんだよな。
「……かもしれない……」
「お、何だ?なんで笑ってるの?」
「シヅク。なんでもって言ったからね?」
「お、男に二言はない。と言いたいけど、今は女なわけで、そうでなくても無理な要求は断らせてもらうからな?」
「無理なく簡単にできることだから大丈夫大丈夫」
「ほ、ほんとだろうな?」
「ふふ、ふふふふ」
「いや、ガチ目に怖いってそれ……うっすら寒気してきたんですけど」
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