第41話 分相応

「初代様の銃を復活していただき、誠にありがとうございます」


 一通りデザートイーグルを撃ち、満足したようでお礼を言われた。


「お礼はもういいですよ。少し休憩しますか」


 モンザエモンさんが連れて来た者たちは、デザートイーグルより訓練場のほうが気になるようで、射手座の戦士たちにあれけれ聞いていた。


 田中一族の料理人が持って来てくれた弁当を広げてもらった。


「料理人が何人もいるっていいよね」


 作り置きがあり、すぐに弁当として包んでくれた。


「初代様が食は生活の基本という方でしたからな。今も食を疎かにしてはいけない意識が根づいております」


「田中さんは凄いよ。大きくなったら田中さんの墓参りをさせてくだいと、当主さんに伝えてください」


 こんな美味しい料理を受け継いでくれたのだ、墓前で感謝させてもらわないと申し訳が立たないぜ。


「はい。当主に伝えておきます」


 手紙を書けるように文字を覚えないとな。当主さんにお礼の手紙を送りたいしさ。


「エクラカ様は、ここに根を張るおつもりですか?」


「まーね。自分一人だったらもっと環境のいいところにでも移っていただろうけど、ここには家族がいるからね。ここで暮らして行くよ」


 魂の故郷にはもう帰れない。なら、生まれた地で暮らすのもいいだろう。ここの環境に慣れた体になっているだろうからな、他に移っても環境に慣れるかわからないしよ。


「住めば都っていうしね。住み難いところがあるなら住みやすく変えたらいいだけさ」


 水は豊富にあり、食材も周辺から集まって来る。日本食を求める気持ちはあるが、田中さんのように食を追求できる意志もない。ほどよい努力で食べられるならがんばるってくらいの意志しかないオレである。


「ここもその一環ですか?」


「そうだよ。射手座の戦士たちも活躍の場がなければ栄誉も名誉もあったものじゃない。結果を出してこそ人から誉め称えられるものだからね」


 誰も彼も己の強さに向き合えるものじゃない。外に強さを見せたいと思ってしまう者のほうが多いだろうよ。


「脚の速さを競う。剣の腕を競う。力の強さを競う。射手座の戦士たちには名誉とお金を。ぼくはその場を提供していくばくかのお金をいただく。モンザエモンさんには不快だろうけど、モンザエモンさんみたいなのは希だ。大抵の人は競う場がなければ腐って行くだけだよ」


 別にモンザエモンさんを責めているわけじゃない。モンザエモンさんのように己の道を極めれる者は希なだけ、ってことさ。


「平和なときには平和な争いをするしかない。武を絶やさず未来に残す。いずれ来るだろう争いに備えるためにね」


「争いが起こるのですか?」


「永遠の平和なんてないよ。人は必ず争い出すものさ」


 戦争を知らない世代だったが、前の世界で弱肉強食って意味を教えられた。生き物は滅亡するまで殺し合う存在なんだってな。


「ましてやこの世界には神の御子が生まれ落ちる。誰も彼も平和に暮らしたいと思うわけじゃない。変な力を持って生まれるからこそ自由に、思うがままに生きたいと願う者がいても不思議じゃない。そのとき、踏みつけられないためにも対抗手段は持っておくべきだよ」


 前の世界で二、三年も生き抜いたならそれなりな能力になるはず。一年しか生きられなかったオレですらモンザエモンさんに勝てるだけの力があり、四年も生きた田中さんは何百年と続く一族を創り上げたのだ。他がやれないなんてことがあるはずもないだろう。


「射手座の戦士の名を周辺地域に轟かせる。それだけでぼくに手を出そうというヤツは減るだろうよ」


 個人で穏やかに暮らすのは限界がある。人は集まり、強固な組織とならなければいけない。ただ、オレにはそこまで大きな組織を維持させる才はない。いいところ町を裏から牛耳るくらいが精一杯だろうよ。


 でも、それで構わない。分相応ってものなんだからな。


「まずは射手座の戦士のはや疾駆けかな? 月に一回勝負をして誰が速いかを賭ける。勝った者には名誉よと金を。賭けに勝った者にも金を。ぼくはそのお溢れをいただく」


 欲をかかなければそれなりの儲けとなるはず。


「もし、田中一族に金儲けに興味がある者がいたら紹介してください。成功したならマルステク王国でもやれると思うので」


 本当になんで競技がないのか不思議でしかない。思想か? よく誰もやろうとしなかったよな。 


「ちなみにモンザエモンさんは、剣と槍、どちらが得意なんです?」


 剣は下半身につけてはいるようだが。


「強いて言うなら槍ですな」


 槍か。きっと恐ろしく強いんだろうな~。


「では、少し手合わせしませんか? 魔法の戦い方がどんなものか、その身で受けてみるのもよいかと思いますよ」


 モンザエモンさんのような人には力で示したほうが早いだろうし、この世界での最強クラスがどんなものか知っておきたい。万が一のときを考えてな。


「……それはありがたいです。神の御子の実力を知るために参ったので」


「その用心深さ、嫌いじゃないよ。一族には必要な存在ですからね」


 月影一家にもこんな人材が欲しいものだ。

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2025年1月11日 12:20

リリーフ・オブ・ザ・ライフ タカハシあん @antakahasi

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