第38話 モンザエモン
「某、姓ラグラルン。名はモンザエモン。田中家の武門を司っております」
「ぼくはエクラカ。月影の姓を名乗っております。どうぞよしなに」
おひかえなすってにおひかえなすってを返して挨拶をした。
「武門、ですか。田中さんが生きてた頃に争いがあったんですか?」
「はい。たくさんの豪族がいて、纏め上げたのが初代様です。某らラグラルンは初代様の槍としてお仕えしておりました」
「田中さん、とんでもないところに生まれたんだね」
本当にどうやって生き抜いたんだ? ネットスーパー系の他になんか違う能力を与えられたのか? それとも転移してもネットスーパーが使えたってことだろうか?
「そうですな。わたしも祖父から聞いた話でしかありませんが、群雄割拠な時代だったそうです」
「本当によく生き残れたものだよね。田中さん、何年生きたんだ?」
クソ女の言い方では駆除員は数年で死んでしまうってことだった。二、三年はいきたんだろうか? そうでないと群雄割拠な時代を生き抜けんだろう。
「四年しか生きられなかったそうです」
「四年!? そんなに生き抜けたの?!」
マジかよ! あんなクソったれな世界で四年とか凄すぎんだろう! これと言った特徴のないヤツを送っているとクソ女が言ってたんだぞ。
「……田中さん、どんだけだよ……」
あの世界で眠れる才能が開花したのか? ネットスーパー系の能力を上手く使ったのか? どちらにしても驚嘆すべきことだ。オレが刺し違えたゴブリンなんかを相手して生き残ったってことだ。レベル30くらいないと無理だろう……。
「モンザエモン様。お客様をいつまで立たせておくのですか? 中に招いてください」
横にいたサムライガールみたいな女性がモンザエモンさんを注意した。
……この人もレベル10でも相手するのが難しそうだわ……。
「これは失礼致しました。中へどうぞ」
「ありがとうございます。ラウルさん。お邪魔させてもらいましょう」
オレの後ろ盾であるラウルを立てて、建物の中にお邪魔させてもらった。
前に案内された部屋へと通され、コーヒーを出してもらった。
「やっぱ、ここで出されるコーヒーが美味しいよね」
淹れてくれるルーには申し訳ないけど、やはりまだまだのようで、微妙に味が狂うんだよね。
「そう言っていただけると、淹れた者も喜ぶでしょう」
「お礼を言っておいてください。ここに来る楽しみが増えたと」
ほんと、美味いコーヒーをありがとうだよ。
一息ついたらラウルが挨拶を述べ、手土産の一部をを渡した。
「マチエさんより聞きました。婚礼衣装が不足しているとか。伝手を頼り、婚礼に適した布をジ帝国で仕入れました。お受け取りください」
婚礼衣装ね~。マルステク王国は、結婚式を派手にやるのか? どんなもん着るんだろうな?
「感謝します。灰竜族とはよき関係を結びたいものです」
「こちらもタナカ一族とよき関係を結べたいです」
武門の出でもこれくらいの対応はできるんだな。田中一族、オレが考えるより大きな一族なのかもしれんな。
「エクラカ殿。この度は、我が一族をお救いいただきありがとうございます。現当主、田中ロクサより丁重に感謝を述べるよう言付かっております」
当主は田中の姓を名乗れるんだ。
「いえいえ。こちらも理由があって協力したこと。今後、お礼は不要です。お互い、協力できる関係を築いて行きましょう」
「ありがとうございます。こちらとしてもエクラカ殿に頼みたいことがあったのでありがたい申し出です」
「それはよかった。この世界で魔力を持つ者は貴重ですからね。田中一族の方々に分けていただけると助かります。ぼくの魔力だけでは限界がありますので」
魔力が、ってより肉体が未熟すぎレベル10くらいしか出せてない。ほんと、なんの制限をかけられてんだよって話だ。クソが。
「某にも魔力はあるのでしょうか?」
輪を作ってサーチ。はぁ? 163? はぁ?!
とんでもない数字に輪を解いて目を擦り、またサーチしてみる。
「……モンザエモンさん、163あるよ……」
「そ、そんなにですか!?」
モンザエモンさんもそこまであるとは思ってなかったのだろう。目を大きくして驚いているよ。
「ちょっと待ってくださいね。他の人も図ってみますから」
間違いって可能性がないわけでもなくはない。念のためね、念のため。
「5、8、4、4。うん、狂ってないな。モンザエモンさんは……うん。やっぱり163あるわ~」
逆になんでそんなにあるか教えて欲しい。飛び抜けすぎんだよ!
「前の世界なら魔法使いと名乗ってもいいくらいだね。小さい頃から訓練してたら400は越えてたんじゃないかな?」
この世界なら余裕でバケモノと呼ばれていただろう。それともこの世界にはそれ以上のバケモノがいるっていうのか? 勘弁して欲しいぜ。オレはもう命を賭けるとかしたくないんだよ!
「それは残念です。某はもっと強くなれたのですな……」
「魔力を持つ者は長寿なるから鍛えればそれだけ若さを保てるし、強くもなれるよ。ケンタウロス種の寿命はわからないけど、人間なら六十くらいの見た目で百五十歳ってのがいたよ」
オレに魔法を教えてくれた人がそうだったよ。
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