第37話 久しぶり
完全回復で目を覚ました。
「あ、おはよう。すっきりした顔だね」
起きたらすぐにルーが濡れタオルで顔を拭いてくれた。
さっぱりしたらうがいをガラガラペッ。白湯を飲んで体内も目覚めさせた。
「田中さんところに行く用意はできてる?」
「できているわ。お土産を積んだ馬車も庭に来ているわ」
「お土産?」
「ラウル様が前々から用意していたジ帝国産の布だって。マルステク王国では人気らしいわよ」
ケンタウロスは服を着るのかな? いや、着てはいるけど、上半身だけ着ている。そんなに必死なんか?
「灰竜族って、そんなに田中一族と繋がりたいのか?」
「そうなんじゃない? マルステク王国でも一、二を争う一族だしね。繋がりは大事にしたいんでしょうよ」
ルーもそういうことがわかってきたようで、普通に口から出てきているよ。人の成長は凄いものだ。
「食事をしたら使いを出して。昼過ぎに行くってね」
昨日のうちに使いは出してくれただろうが、電話のない時代。小まめに連絡を向かわせたほうがあちらとしても助かるだろうよ。
「わかったわ」
ラジオ体操をして完全に目覚めさせたら食事をする。
昼過ぎまでゆっくりしていると、ラウルがやって来た。
「戻ってたんだ」
「そろそろやって来るだろうと思っていたからな。隊は任せた」
任せられるヤツがいるんだ。人材育成にも卒がない男だよ。
「田中一族となにか取引したいの?」
「ああ。マルステク王国産の調味料を仕入れたい。ルガルの当主たちが欲しがっているんでな。おれが任された」
「うちで出してる料理、そんなに気に入られているんだ」
「まーな。本当なら料理人が欲しいところだが、マチエさんほどの料理人は田中一族にしかいないようだ。せめて調味料だけは手に入れたいのだろう」
確かにマチエさんの腕はプロレベル。オレの舌すら唸らせる。あの人は誰にも渡さんぞ。うちの料理人に伝授してくれるまではな。
「まあ、交渉はがんばってよ。ぼくが口を出すと田中一族も断れないだろうからね」
あまり負担をかけるのも申し訳ない。商売としてお互いの儲けになるようがんばってくださいな。
午後になったらラウルたちと田中一族の所有地に向かった。もちろん、アカリの背に乗ってね。
ここに来るのは何ヶ月振りだろうか? 四、いや、五ヶ月になるか? なんか建物が増えてないか? いや、所有地が広くなってない? 前、こんなに広くなかったよね?
「どうゆうこと?」
「隣を買ったみたいだよ」
「そんなことできるの?」
よく覚えてないけど、隣もそれなりに大きいところじゃなかったっけ?
「田中一族の声は強いからね。お願いしたら大抵の者は聞いてくれるよ。同じマルステク王国のヤツだからね」
オレが考えるより田中一族はヤベーみたいだ。田中さん、あなたはどんな人生を送ったのよ? ネットスーパー系の能力だよね? なんか違うのか?
「本格的にぼくと誼を結ぼうてしてんだね」
まあ、田中一族としては仕方がないことだろう。田中一族にとって神の御子の子孫ってアイデンティティーは大切なことだろうからな。
まあ、こちらとしても田中一族とは仲良くしておきたい。田中料理を食べ続けるには田中一族がいてくれないと困るんだからな。
「エクラカ殿、お久しぶりです」
建物の前でイチノスケさんたちが迎えてくれた。
「うん。お久しぶり。魔力が凄い上昇したね。35って凄すぎるよ。三年くらい修業したみたいだ」
オレがつきっきりで教えるならまだしも数ヶ月で30も上げるとか凄まじすぎんだろう。
「いや、田中さんの血を濃く受け継いだみたいだね」
直系みたいだし、血を濃く受け継いでいても不思議じゃない。オレがきっかけを与えたことで開花したのかもしれんな。
「35、ですか」
残念そうな顔をするイチノスケさん。
「いや、本当に凄いことだからね。ぼくが直接教えたアカリさんでさえ50をやっと突破したところ。それを数ヶ月で35にするなんてまずあり得ないからね」
努力はしだろうが、これはもう才能だろう。そうでなければ説明がつかんわ。
「そうなのですか?」
「そうだよ──」
50くらいの魔力をイチノスケさんにぶつけてやった。
「押し負けないで。弾き返す思いで魔力を出して。全力で」
差は15だけど、握力で考えたらわかるはずだ。15の差は大きいってね。
右手で輪を作り、イチノスケさんの魔力を測った。
最後の1で魔力をぶつけるのを停止させると、四肢の力が抜けて地面に下半身の腹をつけてしまった。
「たぶん、回復したら37くらいにはなっていると思う。ゆっくり休むといいよ」
てか、ケンタウロスを運ぶときってどうすんの? 抱えられんの?
と考えてたら担架を持ってきてイチノスケさんを持ち上げて担架を入れた。んで、どうすんの?
あ、三人で運ぶんだ。結構大変なんだな。
「申し訳ありません」
「ぼくが勝手にやったこと。ゆっくり休んでよ。もう一人身分の高そうな人がいるみたいだしね」
見た目、完全に戦闘タイプのおじいさんに目を向けた。レベル10でも厳しそうだ……。
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