第39話 挫けてはならない

「エクラカ殿にこれを見て欲しい」


 と、古びた……アルバムか? もう端が朽ちており、開けるのかも謎である。


「これを元に戻せないでしょうか? 魔力が必要ならいくらでも使ってくれて構いません。当主様に成り代わりお願い致します」


「いいですよ」


 オレも中を見てみたい。これは、転生してからのものらしいからな。修復の魔法でアルバムを元の状態に戻した。


 綺麗な布の上に置かれたアルバムをつかみ、中を開いてみた。


「プリントアウトされた写真か」


 四年分の報酬で買ったのだろうか? 一年しか生きられなかったオレですら二万四千匹を駆除できた。四年も生きていたのなら十万匹を駆除していても不思議ではない。


 駆除報酬がいくらかわからんが、かなりのものになっているんじゃなかろうか? 群雄割拠な時代を生きたってだけでかなりの資金がなければ生き抜けなかっただろうよ。


「これが田中さんか」


 ケンタウロスに転生したので日本人感はない。ただ、瞳の色は黒だ。神の御子はやはり黒目で生まれるんだな。


「田中さんが群雄割拠の時代を生き抜いた理由が銃とはね」


 デザートイーグルだっけ? よくアクション映画に出て来る威力が高いだけで実戦向きではないイロモノ銃だったはず。


 まあ、ケンタウロスの体格なら難なく操れるか? てか、魔法を使ってたんじゃないんかい! よく魔力を受け継げられたな!


 銃は確かに有効だと思うが、ネットスーパーで買えるものなんだ。よくクソ女が許したよな。技術革新起きるだろう、銃なんて残したら。


 いや、あの世界では銃なんて役に立たんか。アサルトライフルで死ぬような魔物よりロケットランチャーを使わんと倒せない魔物のほうが多かったしな。


 オレが最後に戦ったゴブリンでさえデザートイーグルで倒せるとは思えない。レベル17でさえ相討ちがやっとだったんだからな。


 他のも見て行くと、子供を優しく撫でている写真があった。


 子孫がいるのだからやることやってんのは理解できたが、上手くケンタウロスとして生きているのがよくわかった。


「……田中さん、新しい生を受け入れたんだな……」


 オレはこうして人間から人間へと生まれ変わったから田中さんの思いはわからない。写真には写らない苦労をして来たんだろう。それでも田中さんは笑っていた。笑って子供を優しく撫でていた。


「羨ましい限りだ」 


 辛くなってアルバムを閉じた。今のオレには田中さんの人生が眩しすぎるよ……。


「アルバムに状態維持の魔法をかけました。魔力を持つ者が触れたら魔法が維持するようにもしておきました。大切に受け継いでください。そして、また見せてください」


 アルバムを置いて立ち上がり、一礼して部屋を出て行かせてもらった。ちょっと感情が爆発しそうだったので。


 外に出たらルーがやって来て、オレを抱き締めた。異変に気づいたようだ。


「大丈夫?」


 ルーの問いには答えず、溢れて来る感情を抑えるのに集中した。この世界を憎まないようルーの温もりを感じた。


 ………………。


 …………。


 ……。


「うん。落ち着いた。顔を洗うから放して」


 ルーに解放してもらい、井戸に行って水を汲んで頭から被った。ふー。


 タオルで拭いてもらい、風の魔法で衣服を乾かした。まあ、そのままでも乾燥したところだからすぐ乾くんだけどね。


「……エクラカ、大丈夫かい……?」


 アカリがおずおずと話しかけて来た。


「大丈夫だよ。ちょっと田中さんの生き様に感化されただけだから」


 こんなところで挫けてはいられない。悲観的になっていたら残して来た者たちに申し訳ない。オレは悲しませるために死んだわけじゃないんだからな。


「そうか。まあ、初代様は凄かったって話だからな。どこまで本当か怪しいところだ」


「いや、本当のことばかりだと思うよ。ぼくなんかより遥かに強くて、頭の回る人だからね」


「エクラカより強いとかバケモノだろう」


「バケモノだよ。そんなバケモノでも四年しか生きられなかったところなんだよ、ぼくたちが生きた世界は」


 四年生きたとか本当に凄い。マジ、尊敬するわ。銃とネットスーパーでどうやって生きたか教えて欲しいわ。


「ほんと、田中さんを見習わないとな~。今度こそ家族を守ってみせるさ」


 群雄割拠な世界を生き抜く自信はないが、平和な時代なら生き抜ける自信はある。要は人と人との付き合いであり、利益を求めるのが人間だ。それは、ケンタウロスも同じ。利を生み出して行けばあとは交渉だ。交渉でオレの暮らしを豊かにして家族を守ってやるさ。


「無理しないでよ。わたしたちもエクラカを家族だと思っているんだから。守られるだけの女じゃないからね、忘れないで」


 ルーの頼りになる言葉ににっこり笑ってみせた。


「うん。忘れないよ。皆で力を合わせて幸せになろうね」


 月影館はぼくたちの家。皆で守ってこその皆の居場所である。こんなところで挫けているわけにはいかない。


「ぼくたちの居場所を守るために、田中一族とは仲良くしないとね」


 後ろ盾はいくらあっても構わない。オレに力がないのなら持っているヤツらを味方にしたらいいだけだ。


「さて。戻るか。ラウルさんに押しつけたら悪いからね」


 気合いを入れ直して建物に戻った。

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