第35話 月影館、開店

 とりあえず二部屋を完璧に揃えるように動いた。


 あ、ヤベ。魔力が切れそうだわ。


 クラっとしてルーに支えられた。


「はい、水」


 ルーも慣れたものですぐに水を飲ませてくれ、クッキーを出して食べさせてくれた。


 最近、魔力回復には甘いものがいいってわかったんだよね。糖尿にならないか心配だよ。まあ、回復薬で治しちゃうんだけど。


「あー、魔力が欲しいよ」


 足りねー。まったく足りねー。射手座の戦士たちの魔力もいただいてるけど、それでも足りねーんだよ。どこかに魔力タンクねーかなー? ないか。ハァー。


「エクラカ、また力尽きたの?」


 浄化槽の横で休んでいたらレイルスがやって来た。


「まーね。レイルスはなにしてたの?」


「歌の練習だよ」


 一期生の中でも大人しいレイルスは、歌が得意なお嬢である。いずれ歌姫として売り出す予定だ。


「一曲歌ってよ」


 神の御子が残した歌は結構あり、オレの知っているものも結構あった。昭和歌謡曲か童謡だったけど。


 ただ、日本語だからこちらの言葉に変えてはいるし、ない言葉もあるので、所々変わってたりするんだよね。


 オレはあまり音楽は聴かなかったので教えてやることはできない。ただ、言葉の意味は教えてやれるので、レイルスに作詞、らしきものを教えたよ。


「バリュール置いて来ちゃったわ」


 ギターみたいなヤツね。歌ほど上手くはないようだ。


「アカペラでいいよ」


 横に座って歌ってくれた。


 確か、吉田さんの夏休みだったかな? メロディーは残っているが、歌詞はまったく違うものになっている。どうして別れの歌になってしまったんだろうな?


 歌を聴いてたら眠ってしまい、起きたらベッドの上だった。


 横ではルーが眠っており、薄明かりの中辺りを見ると、食事が用意してあった。 


「七割か」


 やはり眠る前に食べないと魔力回復がいまいちだな。常に食べてないといかんかもな~。


 食事をしたらまた眠りにつく。次に起きたら魔力は全快していた。


 そんな生活を続けること三日。やっと二部屋が完成した。


「ハルガ、マリカン、あとはお願い」


 二人に託して眠りについた。もう限界です。


 ………………。


 …………。


 ……。


 起きたら初のお客は帰っていた。


 まあ、別にその様子を見たかったわけじゃない。結果報告だけで充分だ。


「喜んで帰ったよ。しかも、一ラクレカを置いて行ったよ」


 ラクレカ? って百万円か? どこの金持ちがやって来たのよ?


「マルズレイン家と茜狼族の当主さ」


「確か、ルガルで五指に入る商家だっけ?」


 だったはず。よく覚えてないけど。


「そうだよ。また来たいから使ってくれだってさ。相当気に入ったみたいだったよ」


「ラウルさんは?」


「館に戻って挨拶状やら紹介状やら書いていると思うよ。二家がいろいろ教えたいから書いて欲しいってさ」


「あまり人気になっても困るな~。二部屋しかないんだからさ」


「一日二人限定にしたよ。お嬢も交代でやるようにスケジュールを組んだから安心して。ただ、もっと人が必要かも。二期生だけでは追いつかないところが多々あったからね」


「そっか~。あんなに用意しても足りないことは出て来るものなんだね」


「仕方がないさ。お嬢たちにも聞き取りするからエクラカは体調を万全にしておいてよ。いろいろ変えたいところがあるからね」


 完全に館改築担当だが、オレしか創造魔法が使えないんだから諦めるしかない。館のことは任せて魔力回復に専念することにする。


「お嬢たちはどう? 無理しているお嬢はいる?」


 起きたらルーにお嬢たちのことを尋ねた。 


「張り切っているわよ。金持ちから金を巻き上げられるってね」


 嫌な思い出はオレの魔法で和らげたが、それでも体を売ることに抵抗がないわけじゃない。好きでもない男に体を許すんだからな。


「よく見ててね。嫌な客が来たら必ずぼくに伝えてよ。しっかり対応するから」


 魔法的に去勢してやる。二度と利用させないようにしてやるさ。


「任せて。エクラカはゆっくり休んで」


 食事をしたら眠りにつく。


 そして、回復したらお嬢たちと面談する。すべてをルーに任せてられないからな。


「嫌なことはされてない? やりたくないのなら別の方法を考えるから遠慮なく言ってね」


「大丈夫よ。金払いのいい客は品もあるからね。まあ、趣味趣向はあるけど」


 それは仕方がない。オレにも趣味趣向はあるからな。秘密だけど、メガネ好きなんです、オレ。テヘ♥️


「変態野郎が来たら遠慮なく潰していいからね。相手が誰であろうと許さないから」


 うちのお嬢を泣かせるヤツはたとえ皇帝でもゴールデンボールを握り潰してやる。二度と立てないようにしてやるよ。


「ふふ。頼もしいこと。そのときはそうするわ。皆、いいわね?」


 お嬢たちがにっこり笑って頷いた。なんか、笑顔が怖いんですけど。すっごく冷徹な気配がするんですけど……。


「ここは、ぼくたちの家だ。必ず守るよ」


 もうさ迷う暮らしなどしたくない。快適な家で暮らしたい。まあ、落ち着いたら旅行に行ってみたいけどね。


「ええ。わたしたちも同じ。ここを必ず守るわ」


 また笑顔で頷くお嬢たち。頼もしい家族を持ててオレは幸せ者だよ。

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