第34話 教都
射手座の戦士ばかりに構っているわけにはいかない。オレの本業は月影館の運営だ。ちゃんと商売できるようにしないといけないのだ。
お嬢が体を売る。
前世の記憶があるから罪悪感は残るが、この世界で女性が生き抜くには男に頼るしかない。女一人で生きるには過酷すぎるのだ。
どこぞのお目覚めさんが発狂しそうだが、この世界で目覚めても物理的に排除されるまで。逆にどう生きているか教えて欲しいものだ。
「税って安いんだね」
「その分、自分たちのことは自分でやれってところさ」
ルガルの町は貿易都市。商人が集まってできた町なので、道の整備やハーマラン教国へ献上する金を集めるくらい。テメーの命はテメーで守れ、ってことらしい。
「よくそれで治安が守られているよね」
「お互いを見張っているからね。それに、治安が悪くなったら商売にも影響が出てくる。商売の邪魔になる者は自然淘汰されるそうだ」
自然淘汰じゃなく物理淘汰だろう、って突っ込みは飲み込んでおく。
「税は安いのはいいけど、すべてこちらでやらないのは面倒だよね。道はしっかり造って欲しいよ」
「そうなのかい?」
「道がよくないと金持ちは馬車で来てくれないでしょう? 見られたくない金持ちもいるだろうからね」
開店したらレーメン(司教的な人)は来てくれる約束はしてある。快楽に溺れさせてたくさん金を落としてもらうとしよう。
まあ、落とさなくともこちらのお願いを聞いてくれたらそれでよし。宗教国家では後ろ盾が大切だからな。
「お客、来ますかね?」
「大々的に来られても困るかな。知る人ぞ知る、くらいでいいと思う。レーメンから少しずつウワサが流れ、金持ちが流れて来るようになって欲しいかな。小金はエキゾチックダンスで稼げばいいしね」
そのうち酒場もやれば飲食でも稼げる。荒くれ者を抑える用心棒が用意できてないのでまだ先だけどね。
「家具もあまり集まってないね?」
「さすがに家具類や布製品は教都から取り寄せないといけないからね」
「ここは物が右から左に流れる場所でしかないか」
職人もルガルの町中から集めているから他の仕事はできてないみたいだ。文句が出ないのは仕事がないってことだ。
今、ルガルの町は職人バブル。一番金を持っているんじゃなかろうか? それだけ回復薬が売れているってことだろう。そろそろ出所を探すヤツが出ても不思議じゃないな。
「兄からの話なんですけど、他の商人たちが利用したいって話も出てます」
「ラウルさんに匹敵する商人ってこと?」
「ええ。エキゾチックダンスも見に来てるよ」
来てたんかい!
「それくらいの人なら愛人の一人や二人いるんじゃないの? わざわざ買う必要もないんじゃない?」
「エクラカはわかってませんね。うちのお嬢たちのような美しい女性は滅多にいないよ。肌艶、髪質、体型と、あそこまで美しく極めた女性はルガルの町にはいないさ」
美の基準が前世の基準だ。オレから見ればまだまだだが、ここでは天元突破した美しさってことなんだ。
「奥方はなんも言わないの?」
「外で子供を作るならまだしも遊ぶくらいなら文句は言わないと思いと思うよ」
そんなものなの? この時代の性事情、どうなってんのよ?
「それだけ娯楽がないってことなのかな?」
「そうかもしれないね。将棋やチェスなんかは神の御子が広めたみたいだけど、そこまで暇を持て余した者はいないからね。嗜みとして知っているって感じで、好きだって者はそういないと思うよ」
そんなものなんだ。まあ、オレもやり方は知っているけど、好んでやったりはしないな。そんなのに頭使うの疲れるだけだし。
「それで女に走るってことか」
たんにハッスルしたいだけじゃね?
「じゃあ、お嬢たちと話をしてみようか。何部屋使えそう?」
「二部屋かな? まだ排水ができてないから」
排水か。やってみるとなかなか難しいんだよ。上下水道があるわけじゃないからね。下手に流すと地下に染み込んで飲み水に混ざってしまうのだ。
「まあ、二部屋ならなんとかなるか」
「お嬢たちが引き受けてくれるといいんだけど」
「そこは報酬次第でしょ。いくらにする?」
安売りはしないとは言え、商人が尻込むような値段でも困る。
「一晩、一イージグーでいいんじゃないかな? そのくらいなら出すと思うよ」
一晩、十万円って感じか。半分を館の維持費にして三割をお嬢に支払う。二割は灰竜族と月影一家で折半、かな?
「お嬢を気に入ったら報酬とは別に出したりするかな?」
「んー。どうだろう? 気前がいい人はお嬢の懐に入れてくれるんじゃないかな?」
「そこはお嬢の腕次第ってことか。なるべく恨まれるような金額はもらわないように言っておいたほうがいいね」
「それなら物のほうがいいんじゃない? 装飾品ならお嬢も身につけられるし、お客も喜ぶと思うよ」
なかなか男心を知ったハルガくん。ホストかになったらナンバーワンになりそうだな……。
「まずはお嬢のやる気を見てだね」
「そうだね」
お嬢たちを強制することはない。やる気次第でこちらが動く。うちはお嬢第一主義なのである。
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