第30話 田中料理

 アカリに訓練を施すこと三日。厨房が完成した。


 マチエとアカリは今のところ通いでやって来ている。ケンタウロスの脚なら十分もかからない距離だからな。ここに住むほどでもないんだよ。


「魔力が41になったね」


 三日で26もアップするとかスゲーよな。田中さんの血を濃く受け継いでんのかね?


「大丈夫?」


 上半身から下半身から凄い汗をかきている。ちょっと無理しすぎたかな?


「はい、水よ」


 ルーが水が入った桶を出すと、凄い勢いで飲み干した。胃って上半身にあんのかな? それとも下半身にあるんだろうか? 謎だ。


 まあ、だからって腹を裂きたいとは思わない。散々見てきたとは言え、可能なら血や臓物なんて見たくない。獣の解体も仲間たちにお願いしてたし。


 ……綺麗に解体された肉なら問題はないんだけどね……。


「こ、殺す気か」


「殺さない程度にやっているから大丈夫だよ」


 オレもケンタウロス、アカリの強度を確かめながらやっている。人様から預かった大切なお嬢さん。壊すわけにはいかんでしょっ。


「殺しにかかってるようにしか思えない攻撃されてるんだけど」


 もちろん、ケンタウロスの急所を探っているからな。


 イチノスケさんはオレと友好関係を結びたがっているが、すべてのケンタウロスと友好になれるわけじゃない。敵対するところもあるはず。そのときのためにケンタウロスを知っておかんといかんでしょうよ。


「気のせい気のせい。じゃあ、休憩ね」


 やっと完成した厨房。田中さんが受け継いでくれた田中料理。やっと堪能できるぜ。


「これ、もしかしてちまき?」


「はい。あちらで作ってきたものです。もち米で作ってあります」


「もち米、あるの?」 


 てか、米があるの?


「はい。少量ですが。次の輸送で米も持って来るそうです」


「この近辺で米は採れないってこと?」


「採れませんね。東方から運ばれて来ます。そこにも神の御子がいたそうですよ」


 それは羨ましい。あのクソ女、なんでこんなアラビアンナイト的なところに産み落としてくれてんだよ! 米があるところに産み落としやがれ!


「懐かしい匂いだ」


 ちまきなんてそんなに食ったわけじゃないのに、この匂いが懐かしくて堪らない。益々米が食いたくなるじゃんかよ!


「もう食べられるの?」


「冷えてて構わないのならどうぞ」


 全然構いませんとも。温める時間も我慢できないよ。


「美味しい~」


 この味を覚えている。完全にもち米。元の世界の味だ。ウメー!


「イチノスケさんにたくさん持って来てくれるようお願いしないと」


「わたしのほうから言っておきましたよ」


 さすがマチエさん。人間だったら惚れているところだよ。ケモナー属性がないので惚れることはないけど。


「さすがに米だけだと商売にならないからアイテムバッグでもプレゼントするか」


 今のオレならやれる。この喜びを魔力に変換できる。さあ、やりますか!


 と、アイテムブレスレットを魔法で創り出した。


「ルー。これをイチノスケさんに──」


 ………………。


 …………。


 ……。


 目が覚めたらたくさんの顔に囲まれていた。な、なによ!?


「やっぱ、無理しちゃいけないね」


 失敗失敗。


「やっと起きたか。心配させるな」


 オレを見下ろす一人、ラウルが呆れたようにため息をついた。


「……何日眠ってた?」


「一日だけだ。今は昼を過ぎたくらいだ」


 それで七割ほど回復か。かなり限界まで消費してしまったようだな……。


「大丈夫なのか?」


「ほどよくね。まだ体に魔力が追いついてないみたいだ」


 無理したってのは黙っておこう。心配かけるからな。


「お腹空いた。すぐに食べれるものお願い」


 ちまき一つ食べたあとに倒れちゃったからな。もう腹の中になにも入ってないよ。


 すぐに用意してくれ、懐かしい料理がちらほらと。マチエさん、グッジョブ!


「うちでもタナカ料理を取り入れるか」


「いいんじゃない。月影館でも取り入れるからね」


「食事も提供するのか?」


「快楽を売るのが月影館。色に食に健康を売って行かせてもらいます」


「健康ってなんだ?」


「お風呂だよ。大浴場を造る」


 一大娯楽施設。オレが目指すところはそれだ。


「皆も食べなよ」


 食べたそうにしていたのでお嬢たちに勧めた。料理はたくさんあるしね。


「やっぱマチエさんが作る唐揚げは美味しいな~」


 早くビールが飲める年齢になりたいものだ。


 腹が膨れたらまた眠るとする。百パーセント魔力を回復して生活をよくするために使わないとな。


 次に目覚めたら元気百パーセント。魔力も百パーセント。快調快調!


「アカリさん。修業を中断しちゃってごめんね」


「構わないよ。こっちもゆっくり休めたからね。あと、伯父貴が腕輪をありがとうってさ。この礼は次回のときにってさ」


 あ、そうだった。アイテムブレスレット、ちゃんとイチノスケさんに渡ったんだな。ルー、サンキュー。


「なにか伝言頼まれた?」


「なにも。ただ、ありがとうございます。大事にしますって言ってたね」


 ちゃんと伝わったってことだな。それはなによりだ。


「イチノスケさん、いつ頃戻って来そう?」


「三ヶ月から四ヶ月ってところじゃないか? 大体その周期で運んでいるからね」


「荷物は毎日やって来るんだよね?」


「小隊はね。大隊となると三ヶ月から四ヶ月周期になるんだよ」


 つまり、イチノスケさんは大隊となるのか。


「そっか。次に会えるのが楽しみだ」


 明日が待ち遠しいなんて最高だね。

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