第29話 魔力訓練

「アカリさん。よろしくね」


 復活したアカリさんと握手。仲なおり♥️


「……わかったよ……」


「じゃあ、背中に乗せてね」


 厚みのあるマットをかけてもらい、ルーに持ち上げてもらって跨がった。


「イチノスケさん。またね~」


 数日後にはマルテスク王国に戻るようだが、それまでにはまた会えるでしょっ。町中で仕入れしているみたいだしね。


「はい。また」


「アカリさん。まずは露店通りにお願い。マチエさん。食材買って行こうか」


 マチエさんも今日から来るっていうので食材を買ってって、お嬢たちに食べさせてあげるとしよう。


「灰竜族の厨房はわたしが入れますか?」


「あ、そっか。人間サイズだから無理か~」


 灰竜族も八十人くらいいるから厨房もかなり広い。とは言え、ケンタウロスの体で動き回るには狭い。入ったとして他の料理人に煙たがれるだろうよ。うちの料理人を入れてもらうのにもいろいろあったしな。


「よし。いっそのこと台所を作っちゃうか」


 ないのなら作ってしまえばいい。そう本格的な厨房はいらないのだ。敷地内に簡易の厨房を作らせてもらいましょう。


「マチエさん。とりあえず必要な食材を買ってよ。ルー、お金を渡して」


「肉とかどうしますか? あまりたくさん買っても腐らせるだけですが」


「じゃあ、二十人分は買ってよ。ぼくのほうで保管するから」


 ボックスには冷蔵庫も拡張してある。この日のためにコツコツとがんばってきたのだ、三十人分でも余裕だぜ。


「わ、わかりました」


 露店通りに向かい、マーブや鶏、食用に育てたギュロの肉を買えるだけ買った。


「買った肉、どこに消えてんだ?」


「神の御子だけが見える箱にだよ。ぼくだけしか出せないのが難点だけどね」


 他にも野菜やら果物、香辛料なんかをたくさん買った。


「お、なんかいい箱があるじゃん」


 オレが入れそうな箱で、冷蔵庫にするにちょうどよさそうだ。


「店主。そこの箱、三つ買う売ってくれるかい。売ってくれるなら灰竜族の館まで運んで欲しいんだけど。駄賃は出すからさ」


 交渉はマチエさんにお願いする。食料の買い出しもしているから露店通りの者たちに顔を知られているっていうからね。


「なんだい、マチエさん。灰竜族で働くのかい?」


「ええ。しばらく料理人をするんだよ。野菜を売りに来てくれたら買い取るよ」


 ちなみにこの露店、野菜を売っているところです。


「それは嬉しいね。お得意さんがまた一つ増えるよ」


 灰竜族はどうやって食材を買ってんだ? 人数を考えたらご用商人がいても不思議じゃないのに?


 食材は勝手に使っていいとしか言われてなかったからそこまで気にしなかったよ。


「タナカ一族の家も運んでもらってるの?」


「人数が人数ですから。基本的なものは運んでもらっていますよ。ただ、ルガルの町は毎日いろんなものが運ばれて来ますのでこうして露店巡りをする必要があるんです」


 へー。そうなんだ。毎日来ないと手に入らないものがあるってことか。買い物も楽しそうだな。


 買えるものを買ったら灰竜族の館に帰った。


「ラウルさん。敷地内に厨房を作っていい?」


「そう言うだろうと思って朝から作らせているよ。館の北側だ」


 さすがラウル。仕事が早い男だよ。


 言われた場所に向かうと、煉瓦を組み立てているところだった。


「田中一族の人?」


「いえ、おそらくバンディーガ一族でしょう。ルガルの町で土木仕事をしている一族です」


 ここに住みつくケンタウロスもいるんだ。住民票とかないんだろうか?


「マチエさんの動きやすいようにしてもらってよ。その駄賃は灰竜族とは別に出すからさ」


 金の力で黙らせるとしましょう。


「わたしの好きにしていいのですか?」


「構わないよ。追加しても減らしてもいいから。あ、あの箱は冷蔵と冷凍に使うから配置を考えてね」


「わかりました。お任せください」


 俄然、やる気を見せるマチエさん。好みにできるのがそんなに嬉しいのか?


「アカリさん。魔力を増やすなら協力するよ」


「魔力を増やすとなんか得になるのか?」


「こんなこともできるよ」


 懐に入り、下半身に掌底を食らわすと、ガクンと四肢の膝が折れて地面に崩れた。


「……な、なんだ、今の……」


「魔力の波動を流したんだよ。魔法が使えなくても魔力を使うことで生き物を殺すこともできるってことさ」


 これは人を相手にした技だな。町の中にも害獣はいるんでな。必要に駆られて編み出したものだ。


 ……これで人を殺したのもいい思い出……でもないな。悪夢でしかないよ……。


「魔力を纏うことができたら今の技は防げるよ。魔力の膜をイメージする感じだね」


「……ク、クソ……」


「無理に動こうとしても動かないよ。深呼吸をして。体内で乱れている魔力を呼吸で取り戻すんだ」


 オレの言葉に悔しそうにしながらも深呼吸をして魔力の乱れを落ち着かせていく。ほー。やるじゃん。


 完全ではないものの、なんとか立ち上がったところにもう一発。


「クハッ!」


 と言って横に倒れてしまった。


「ルー。コーヒー淹れて来て。お茶にしようか」


「いいの?」


「立てるまで時間がかかりそうだしね。コーヒーでも飲みながら待つとしよう」


 イチノスケさんに鍛えてくれと言われた以上、それなりに強くしてやらないと申し訳ない。少し厳しく行くよ。お嬢ちゃん。

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