第28話 アカリ
夜になにかあることもなく朝を迎えた。
「おはよう」
一緒に寝たルー。体温が高いから汗をかいてしまった。
「シャワーが欲しい」
また水を溜めるのも面倒なので濡れタオルで体を拭いてもらった。
「ルーはあまり汗かかないよね」
この環境に適応しているのか、汗をあまりかかない。だからって代謝が鈍いってわけでもない。不思議なものだよね。
「確かにあまり汗はかかないわね。昔から暑いのには強かったからかな?」
「ルー帝国って暑いところだったの?」
「ううん。寒い地だったわ。寒くてなにもできないから売られたの」
寒さには弱いんだ。なにかの体質なのかな?
「おはようございます」
着替えていたらマチエさんがやって来た。
「おはよう。一晩お世話になりました」
これから長い付き合いになると思うが、一晩のお礼は言っておこう。
ケンタウロスの朝も早い。定期的にマルテスク王国に運ぶので毎日忙しいそうだ。
「エクラカ様。おはようございます」
「おはよう、イチノスケさん。昨日はお世話になりました」
「世話になったのはこちらのほうです。いろいろ学ぶことができました」
「それはこちらも同じですよ。世界を少し学べました」
この世界が地球と同じかはわからないが、同等の広さと考えたら世界の一割知ったかどうか。それでも知らないよりは知っていたほうがいい情報だろうよ。
「じゃあ、帰りますね」
朝食もと言われたが、朝は忙しいようで九時くらいに朝食となり、夕食は五時くらいになるんだってさ。
一日二食だけど、休憩のときに食べているから問題ないそうだ。
「エクラカ様。ロクブレンの娘をもらってください」
「はい?」
なにを言ってんの、この人?
「移動用に使っていただければよろしいかと」
つまり、ケンタウロスに跨がれと?
「それ、いいの? ケンタウロス族的に? 種族差別とか種族軽視とか言われたりしない?」
馬扱いするってことだよ。
「神の御子は同じことを言うのですね。大丈夫です。初代様が我らの誇りを守るために働いてくれましたから。ケンタウロスを奴隷にする者はおりません」
田中さん、相当暴れたようだな。ネットスーパー系の能力でよくできたものだ。ゴブリンを倒しての買い物か、それともリスタートアイテムが充実していたのか?
「エクラカ様はまだ小さい。移動も大変でしょう。大きくなるまで使ってください。護衛にもなりますので」
「……なにか危険なことでも……?」
「神の御子はいつでも危険な身にいます」
うん、そりゃそうだ。この世界に名を残している元駆除員はたくさんいるっぽい。オレより能力を使いこなすヤツがいても不思議じゃない。組織を創り上げている者もいるだろう。力を受け継いだ者も、な。
「ありがとう。油断してたつもりはなかったけど、改めてこの世界が危険だと理解したよ」
ナメたつもりはない。でも、もっと考えたほうがいいってのは理解した。
「見た目に黙れそうになりますが、エクラカ様は戦士なのですね」
「ぼくは戦闘が苦手だよ。勝負感ってのもないしね。その結果がこれさ」
後悔することは多くある。反省すべきことも多くある。前の世界で取り返すことはできないが、この世界では失敗を活かそうとしよう。まだオレはなにも失っていないんだからな……。
「
と、若い子がやって来た。
上半身は少女って感じだ。見た目は十八、九。珍しく銀髪をポニーテールにしていた。下半身の尻尾も銀色だ。
「姪のアカリです」
そこはギンコとかでしょう。
「初めましてギンコさん。ぼくはエクラカ。こっちはルージュリンだよ」
「アカリです」
ぶっきらぼうに頭を下げた。
「よく鍛えているみたいだね」
戦闘力はわからんけど、体つきから鍛えているかどうかくらいはわかる。この子、かなり強いんじゃないかな?
「魔力はありますか?」
親指と人差し指で輪を作り、サーチしてみる。
「うん。15はあるかね。体を鍛えている間に魔力も鍛えられた感じかな? 体と魔力は切っても切れないからね」
魔力を作り出しているのが体なんだから魔力が増えたって不思議じゃないさ。
「15もあるのですか?」
「共鳴訓練させたら25は行くんじゃない? 魔力適正あると思うよ」
見習い魔法使いくらいはあるんじゃないか? それで冒険者やってたのにはびっくりしたけど。魔弾の五発でも撃ったら魔力切れになんじゃね? って思ったのを記憶してるよ。
「鍛えていただけませんか?」
「伯父貴、なに言ってんだ?」
ってことら昨日はいなかったのか。まあ、部屋もそんなに広くないしね。親族すべてを入れるわけにもいかんか。
「神の御子、エクラカ様だ?」
「こいつが?」
「口を慎め! エクラカ様、申し訳ありません」
「構わないよ。若い子っぽいしね。井の中の蛙、っての若者の特権だよ」
種族は違えど若いのはどこも同じだね~。なんて思うオレがオジサンになったからだろうか? オジサンくさ~いとか言われたら死ねるな……。
「神の御子だか知らねーが、ナメてんのか?」
魔力を全開にぶつけてやった。
「────」
声にならない悲鳴を上げ、前脚から力が抜けて両膝を地面につけてしまった。
「魔力があるってことは魔力をより感じれるってことでもある。無防備のまま強い魔力をぶつけられたらそうなるわけよ」
魔力は強みにもなれば弱みにもなる。奥が深いよね~。
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