第4章

第31話 ○期生制度

 この世界で前世の記憶を取り戻して約一年が過ぎたと思う。てか、どこかにカレンダー売ってねーのかよ。あと、西暦とか聖でも星でもいいから何年か教えてくれや。


「現代人のダメなところだな」


 暦に囚われ、時間に囚われる。過酷な受験戦争もなければバブルが弾けたわけでもない。こな世界の流れで生きて行こうや。


 と言いつつ時間でしか物事を図れないのだか救いようなないぜ。


「屋敷、月影館もできてきたな~」


 職人たちのがんばりで改築もあと少し。金とエロの力は偉大である。


 エキゾチックダンスも好評であり、灰竜族だけではなく職人たちもよく見に来てくれている。夜にやっていたけど、好評すぎて二部公演となってまったよ。


「エクラカさん。これじゃ三部公演にしないといけませんね」


 ハルガが嬉しそうに話しかけて来た。


 隊商として率いる力はないが、商売には才能を開花させ、毎日公演を成功させるためにがんばっているよ。


「好評になるのはいいけど、好評すぎるのも問題だね」


「そうですね。そろそろ二期生にも舞台に立たせてはどうでしょう? 一部は新人枠として安くするとかどうでしょう?」


 二期生とは第二陣でやって来たお嬢たちのこと。区別するために一期生、二期生と分けたのだ。


「踊りの練習度合いはどうなの? 見せてもいい感じ?」


「まだ拙いですが、新人お披露目とすれば文句も上がらないでしょうよ」 


「それならやろうか。一度、ぼくが確認するよ」


 経営は任せててもシメるところはシメないとね。オレが館長なんだからな。


 一期生のお嬢で時間がある者にも参加してもらい、二期生の踊りを見てもらった。どやろ?


「いいんじゃない。安くすれば今までこれない人も観に来れるからね」


「そうだね。わたしらも二期生がやってくれたら助かるし」


「たまに一部、二部と任せてもいいんじゃない? わたしら、他にも練習しなくちゃならいことあるんだしさ」


 一期生は概ね賛成だ。


「いずれエキゾチックダンスは二期生に任せるんだし、徐々に一部二部は任せていってもいいかもね」


 ってことで、三部公演にすることを決め、時間調整や踊り方はハルガとリーダー格のマリカンに任せることにする。


「ルー。家具の発注はどうなってる?」


「四部屋分は発注はしたわ。一月もあれば運び込めるそうよ」


 オレは今も魔力回復やアカリの修業に付き合っているからルーに各所回りをお願いしているのだ。


「それはよかった。二ヶ月後くらいには開業できそうだね」


 もう開業しているようなものだけど、娼館としてはまだ開業してない。快楽を売る館としてはお嬢たちが仕事をして開業って言えるだろうよ。


 改築中の月影館を一回り。職人たちに差し入れを配った。


 バイトしてたとき、気のいい上司さんがいつも缶コーヒーをおごってくれたものだ。


 ちょっとしたことだが、それがありがたいものだった。いつかオレもそんな大人になろうと思ったものだ。今は子供に戻ってやってんだけど。


「いつもありがとう。怪我しないようにね」


「ありがとうございます、坊っちゃん」


 なんか知らんが職人たちから坊っちゃんと呼ばれるようになっていた。


 まあ、灰竜族のラウルと話しているところを見て、なんか高貴なところの出の坊っちゃんと思ってんだろう。ばーちゃんが宮殿で働いていたってウワサはあちらこちらで流れているみたいだからな。


「改築が終わったらエキゾチックダンスを無料で招待するよ。怪我しないでよ」


「はい、楽しみにしております」


 家庭持ちもいるだろうにエキゾチックダンスを楽しみにしている。大丈夫か? 刃傷沙汰はごめんだよ。


「アカリさん、帰ろっか」


 槍を振っていたアカリに乗せてもらい、灰竜族の館に帰った。


「アカリさん。タナカ一族で護衛を募集したいんだけど、ちょっと聞いてみてくんない?」


 灰竜族からと思ったんだが、あまり人を割ける余裕がなかったんだよね。町で募るのも時間がかかりそうだし、手短なところから勧誘してみよう。


「何人だ?」


「うーん。まずは十人くらいかな?」


 いずれはお嬢が外出するときの護衛もお願いしたいな~。


「それならすぐに集まる。輸送より力仕事がしたいってヤツが多いからね」


「田中一族で護衛団とか傭兵団とかないの?」


「昔はあったらしいが、マルステク王国が統治されてからは廃れて行ってなくなったね。ケンタウロス族の隊商を襲おうとする馬盗賊もいないしさ」


「平和ってこと?」


「そうだね。飽きてしまうほどに」


「…………」


 それに危険と感じてしまうのは気のせいだろうか? 恒久的な平和なんてないのだからな。


「なにか不安なことでもあるのか?」


「漠然とした不安があるかな。なにが、って理由は思いつかないんだけどさ」


 ただ、漠然的にこの平和を信じられないオレがいるのだ。


「アカリさん。ぼくの道楽に付き合ってくれる?」


「道楽にもよる」


「傭兵団サジタリウスを組織しようと思う」


 道楽で終わるならそれでいい。だが、なにかあったときのために武装集団を組織しておこうと思う。


「いいだろう。その道楽に付き合おうじゃないか」


 アカリなら乗ってくれると思ったよ。

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