第20話 魔道具

 意外と本があちらこちらで売っていた。ただ、巻が抜けているのが地味にイラつく。売るなら全巻セットで売って欲しいものだ。


 漫画はこのくらいにしてちょっと一休みする。


 カフェテリアみたいなお洒落なものはなく、飲食スペースらしき小さな広場があるだけ。椅子とテーブルは金を出して借りるものだった。


「ばーちゃん、休んでいて。なにか飲めるものと食べるものを買って来るから」


 さっきミルクティーみたいなものを売っていた。あとはケバブみたいなものや色鮮やかな果物も結構な数が売っていた。とりあえず一通り買って来てみよう。食べてみないとどんなものかわからんからな。

 

 ルーを連れてあれこれ買っていると、揚げパンが売っていた。


「揚げたてだよ。買っていかんかい?」


「美味しそう。五つください」


「あいよ。ありがとね~」


「五マニーグだよ」


 一つ百円って感じか。そこそこするものだな。ここでの感覚なら千円くらいするのか?


 揚げたてをちょっと食べてみる。美味いじゃん。


「いい油を使っているんだな」


 安い油かと思ったらいい香りがする油で、日本で食べるのと遜色のない揚げパンだった。


 ……変なところで質ものがあるよな……。


「おばちゃん! もう五つ追加で!」


 夜、お腹空いたときに食べるとしよう。まあ、滅多に夜中に目覚めるときはないんだけど。ボックスに入れておけば問題ナッシング~。


 さすがにここではボックスに入れられないのでばーちゃんのところに戻った。


「たくさん買って来たね」


「とりあえず食べられそうなものを中心に買って来たよ。ばーちゃん、知っているのを教えてよ」


 ここで生きて行くのなら市場調査はしておかないとね。


「アーカラスと大して変わらない感じ?」


「そうだね。見たことがあるものばかりだよ。揚げパンはジ帝国のものだね。よくアーラたちが隠れて食べていたものだわ」


 アーラとは侍女のようで、よく買っていたそうだ。


 侍女ともなれば貴族出なのに、庶民的なものを食ってんだな。揚げパンがずば抜けて美味いのか?


「今度、館でも作ろうか」


 まだ館の料理人の下で修業させてもらっているが、パンを焼ける窯がある。そこでパンを焼いて揚げればたくさん作れるだろうよ。


「エクラカ。このルチャ甘くて美味しいよ」


 ルチャとはミルクティーのことだ。かなり甘く、食後に飲むようなものじゃないが、オレの口にはジャストミート。これ、ええやん!


「ばーちゃん、これ、館で飲んでた?」


「ルチャは飲んでないね。紅茶はよく飲んでたよ」


 ルチャと紅茶は別物なのか? 味は似てるけど?


「ジ帝国産は紅茶で教国産はルチャと呼ばれているね」


 なるほどね~。オレの口はルチャが合ってんな。教国産を手に入れるとしよう。


「ばーちゃん、小物類は揃った?」


「そうだね。水差しや顔を洗う盥が欲しいかしら? 部屋で顔や体を拭きたいときもあるからね」


 風呂に入れるようになったとは言え、毎日入れるわけじゃない。薪代もバカにならないからだ。オレらはヒートソードを使って沸かしているので、消費されるのはオレの魔力。お陰で毎日ぐっすり眠れてますわ~。


「ルー。どこで売ってたかわかる?」


 結構記憶力がいいルーに尋ねた。


「陶器製のならあっちで売っていたよ」


 あーあったな。なかなかカラフルな壺や皿が売ってたっけ。オレたちの部屋にも水差しや水瓶を置いておくか。わざわざ井戸に向かうのも面倒だしな。


 テーブルのものを片付けたら売っているところに向かった。


「結構あるね」 


 よくよく見たら陶器市かってくらい売っていた。誰が買うんだ、こんなに?


「ケンタウロスの商人が買ってるね」


 ルーに突っ突かれ、頭を動かされた。あ、大量に買ってるわ。


 まあ、あの体格では作るのも大変だし、窯に出し入れすることも困難だろう。きっと買ったほうが安上がりなんだろうな。


「近くで見ると大きいな」


 五歳の体だからか、近くで見るとかなりデカく見える。下手に近づいたら蹴られそうだな。


 なるべく近づかないよう陶器類を見て回ることにした。


「ガラス製のもあるんだ。ん? これ……」


 手に取った水差しからなかなか強い魔力を感じた。


 ……もしかして、魔道具か……?


 前の世界でも魔道具はあり、大体の者はクソ女に力を得た駆除員が創ったものだった。付与魔法とか魔道具作成とかだったな。これはどっちだ?


「おじちゃん。これいくら?」


「そこにあるのはすべて一ミーシーだよ」


 千円均一セールか? なかなかするな。まあ、ガラス製品で既製品でもない。すべて手作りなんだから安くはならないか。まだ使えるものだしな。


 どんな効果があるかわからんが、この魔力ならかなり性能がいいものだろうよ。とりあえず買っておくとしよう。


 他にもないかと探したが、強い魔力を放つものは水差しだけ。さすがに掘り出し物はそうはないか……。


「それ、なにかあるの?」


「わかんないけど、きっと掘り出し物だよ。どんなのか楽しみ」


 今後も見つかるかもしれないから鑑定魔法を創っておくか。魔力を感じられるなら魔力センサーのほうがいいかな? 


「すまない」


 ウキウキしてたらケンタウロスの男性に声をかけられた。

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