第19話 ケンタウロス
今日はお休みだ。
別に休む日は決めてないが、働いてばかりじゃ息が詰まる。もう命の危機がないのだから休みたいときに休んだっていいじゃないか、だ。
「はい、お小遣い。町で買い物してきな。あ、灰竜族の一族も出ているからなにかあったら助けを求めてね」
月影一家の大切な存在。なにかあったら困るからラウルにお願いして下っぱ連中に出てもらったのだ。エキゾチックダンスの半割り券をお礼にね。
「ばーちゃん、買い物に行こう」
今日を休みにしたのはばーちゃんに合わせたのもある。
この時代なら休みなんてないかと思ってたが、リアー(メイド)には一月に四回から五回は休みを与えられるそうだ。
結構休みをもらえんだな、と思ってラウルに尋ねたら、そうしないと家庭を持つことができないからそうだ。
一族としても人を増やさなくては一族は存続しない。他から引っ張ってきてばかりでは一族の繋がりが薄くなるそうで、若い者には休みを与えて所帯を持たせるようにしているんだとさ。
ただ、所帯を持てるのは稼いでいる男だけ。女も稼いでいる男を狙うから溢れたりして思うようにいかないそうだ。
そりゃそうだろう。下まで金が行き渡っていないのだから。ただ、所帯を持つ者が増えても困るそうだ。その所帯を食わせるためには仕事を増やさなくてはならない。
隊商を組む一族は他にもあるので数を増やすこともできない。需要と供給が所帯持ちを阻んでいるようだ。
……富める者がいれば富めない者もいる。社会とは難しいものだよ……。
「ええ。楽しみね」
すっかりマリアーラ(侍女統括)の頃に戻ったようで、口調や立ち振舞いが上品だ。体も四十代……には見えなくなったな。三十代前半くらいだ。
「ルージュリンも一緒でいいの? 休みなんでしょう?」
「ルーはまだここの言葉を覚えてないからね。ぼくと行動したいんだってさ」
すっかりオレのお守り役が気に入ったようで、どこにでもついて来るんだよな。休みくらいゆっくりしてていのにな。
「そう。なら一緒に行きましょうか」
ってことで町にレッツゴー! と言っても十分も歩けば町の中心部。ルガルで一番栄えているところだ。
貿易都市なだけに三階建てがいくつかあり、アラビアンナイトの世界かと思う雰囲気があちらこちらにあった。
……魔法のランプとかあったりしてな……?
過酷な世界とは言え、異国情緒が漂っているのはおもしろい。てか、ここにもケンタウロスがいるんだな。
ケンタウロス。昔は違う名で呼ばれていたみたいだが、神の御子が変えてしまったらしい。ケンタウロスも神の御子が言ったことなので受け入れているそうだ。
「よく種族が違うのに仲良くやっているよね」
前の世界は種族差別があったのに。
「ケンタウロスに生まれた神の御子もいるからだよ」
そうなの!? そんなヤツもいたんかい! 転生させられたヤツ気の毒すぎんだろう! オレ、人間に生まれてよかった! 時代や地域も考慮してくれたらさらによかったんだがな!
「人間とケンタウロスは上手くやれてるの?」
「表面的にはね。ケンタウロスは強いから」
あの体型でどう生活しているか謎だが、確かに強そうではある。サシでの勝負では人間は勝てないだろうよ。
「まずどこに行こうか?」
「小物類が欲しいね。奥様にお下がりをいただいたけど、いろいろ足りないのよね」
アリリアー(メイド頭)になったので、館に一人部屋をもらえたそうだ。
まあ、六畳もない狭い部屋だけど、一人部屋をもらえる者は少ないようで、奥様はばーちゃんを高く買っているようだ。
「リアーたちとは上手くやれているの?」
「よくしてもらっているよ。エクラカからの差し入れも喜んでいるわ」
ばーちゃんがいじめられないようクッキーを焼いて差し入れしているんだよ。
ここも甘いものは少なく、砂糖を使ったクッキーはリアーたちに好評だ。オレもお子様味覚になったからクッキーが美味くて仕方がないよ。
主に利用できるのは露店っぽく、店を構えるのは数えるほどしかなく、一般人が利用することはないそうだ。
一族の奥様とかは御用聞きみたいなものがあるようで、商会の者が館にやって来るそうだ。
「結構いろんなものがあるんだね」
露店は隙間がないくらい並んでおり、いろんなものが売られている。
「へー。香辛料まで売ってんだ」
かなりの数の香辛料が並んでいる。これを駆使したらカレーが作れそうだ。まあ、オレには創造魔法があるからルーを創っちゃうけどね。
「鏡とかあるんだ」
オレが考えるより技術は発展はしているのかもしれんな。神の御子たちが技術発展させてんのかな?
個人のもの個人に買うようにしてあるので、オレも自分用のものを買い揃える。もちろん、ルーにも買わせた。
「本も売ってんのか」
てか、これ日本語で書かれたものじゃんか。製本の具合からして能力で出したものだろう。漫画を出す能力ってなんだ? ネットショップ系か?
「おじさん。これ全部売ってくれる?」
読んだことも作者名も知らないが、故郷のものならなんでもいい。あるだけで日本のことを思い出されるよ。
「神の国の書物だ、高いぞ」
「大丈夫。灰竜族に御世話になっているから」
一イージグー(十万円)を出して五冊買えた。一冊二万円かよ! たっけーな!
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