第18話 ワンクッション

 エキゾチックダンスは大盛況。灰竜族の紳士たちは大興奮。お前らどんだけ女に飢えてんだよ? 男余りなのか、ルガルの町は?


 まだ町を歩いたことは少ないので女性がどれだけいるか気にもしなかったが、次はよく見て回るとしよう。


「……まさかこれほどとはな……」


 ラウルも呆れている。


「よく暴動になってないね。どうやって発散してたの?」


「金に余裕があるなら娼館に行くか路地買いするかだな」


「路地買い?」


 なんやそれ? 


「金を稼ぎたい奥方が路地でやっているもの。女が稼ぐ手段は少ないからな」


 そんなことやってんのかい! 女性が生きるには厳しい世だな! 教国はなにやってんだ? 神に祈る前に自分の国で生きている者に目を向けろや! クソすぎんだろう!


「……大変だね……」


 クソと思うのは簡単だが、それを口にするなら行動してから言え、だ。なにもしてないオレがどうこう言う資格はないさ。奥方も稼いでいられるんだからな……。


「お前にはそう見えるんだな」


「こればかりは生きてきた世界と時代が違うからね」


 まだゴブリンが溢れていた世界でクソな体験をしたから心が砕けないでいられるが、なんの力も持たず、前世の記憶を持ってこの世界に生まれたら絶望しかないわ。生き残れる自信など欠片もねーよ!


「一族の者は性病とかかかってない? 変な病気を広められても困るよ」


 この世界特有の病気とか、オレじゃわからんぞ。いや、普通の病気もよー知らんけどさ。


「かかっている者はいるだろうな。それで死ぬ者も多いから」


 治せよ、って言葉を飲み込んだ。治せるなら最初から治しているだろうし、治せる方法があったとして治す価値はそれほどないってことだろうからな。


「潔癖症だったら狂い死にしているな」


 ワンクッションあったことに感謝するべきか悩ましいところだよ。


「薬とかないの? 毒殺が流行っているならありそうなものなんだけど」


「あるにはあるが、二イージグーは取られるな」


 えーと。イージグーは銀貨みたいなもので十万円くらいだったっけか? 二イージグーなら二十万円か。下っぱじゃ一年の稼ぎくらいだったか? それじゃ買おうって気にもならんだろうよ。オレだって一年の稼ぎを丸々使おうなんて気にならんわ。


「それだとエキゾチックダンスの観覧は一ミーシーが精々か~」


「一ミーシーなら酒場で豪遊できるぞ」


 ミーシーって銅貨くらいで千円ほどだ。それで豪遊なんてできんの? よほど粗悪な酒か安い食材を使った料理だろう。


「路地買いの相場は?」


「五マニーグだとは聞いたことがある」


 えーとえーと。マニーグは小銅貨で百円。五百円が相場ってことかよ! 頭が混乱してくんな! 


「もしかして、灰竜族ってかなり上場一族?」


「じょうじょうがなんなのか知らんが、うちはかなり優遇された一族だ。所帯を持つヤツも他よりは多いぞ」


 そ、そうなんだ。ってことは、所帯持ちも観てたってことか? 大丈夫? 夫婦ケンカとか起きたりしない?


「そっかー。相場が難しいね~」


「まあ、別に一ミーシーでいいだろう。それだけの価値を持たせたら」


「じゃあそうするか」


 今回集まった下っぱは四、五十人くらいはいた。それなら四、五万円。半分は灰竜族に渡しても二万五千円くらい。お嬢たちに小遣い程度には渡せるな。


 その日は解散。朝になったら新しく来た者たちと会うことにする。


 連れて来たのは八人なので別の部屋を用意してもらったが、八人ではかなり狭く六畳くらいしかない。それでも落ち着いた様子ではあった。


「初めまして。聞いてはいるだろうけど、君たちを買ったのはぼく。エクラカです。よろしくね」


 ぼくが五歳でも神の御子の存在は知っていたみたい。オレにそう驚いている感じはなかった。ルルージ、タレンジが上手く説明してくれたのかな?


「さて。ルルージ、タレンジから聞いていると思うけど、最終確認だ。月影一家の一員になる? それとも別の仕事を探す?」


「つ、月影一家に入れてください。なんでもします!」


 一人が声を上げると残りも必死に声を上げてきた。


「やる気があるなら受け入れるよ。ただ、第一陣組より待遇が落ちるのは許してね。第一陣組はかなりの手間隙をかけて育てたからさ、どうしても差が出ちゃうんだよ。でも、やる気があるなら稼がせてあげる。まずは先輩の世話役として働いてもらうから」


 相性もあるから固定はさせない。まずは身の回りの世話から始めるとしよう。


「ルルージがリーダーとなって面倒を見てもやって。踊りや歌の練習のときはマリカンがやってね」


 役目もいろいろ決めないといかんな~。てか、オレを代わりになる者も育てなくちゃいかんな~。ハァー。やることいっぱいで頭が痛くなってきたよ。


「あ、料理経験がある人いる? 料理を任せられる人が欲しいんだよね。体を売るのが嫌なら料理人になるのもいいよ」


 ここの料理にも慣れたけど、やっぱりこの口は日本食を求めている。今から育てることにしよう。


「や、やりたいです!」


「わたしも!」


 二人が手を挙げた。お、二人もいるなんて幸先いいじゃないか。


「じゃあ、二人は料理人を目指してもらうよ。美味しいのをたくさん作ってもらうから」


 まずは玉子焼きから覚えてもらうとしよう。甘い玉子焼き、食いてー!

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