第15話 月影一家

 ここに来て半年が過ぎた。オレの中のカレンダーでは、だけど。


 娼婦となる女性陣も毎日の勉強と運動でさらに見違えるようになった。


「最終確認。ぼくと一緒にいるか別の仕事を探すか、どっちを選ぶ?」


 半年も過ぎて生活が安定すれば考えも変わるもの。オレは強制はしない。自由に生きたければこから飛び出せばいい。娼婦になる予定の女性陣はオレの所有としてもらった。望むならそれを叶えてあげるさ。無理矢理は趣味じゃないんでな。


「エクラカについて行くわ」


 ルーが真っ先に答え、残り六人もオレと一緒になることを選んだ。


「じゃあ、皆にこれを渡すよ」


 七人に腕輪を渡した。


「今からぼくたちは家族であり仲間であり同僚である。もし、新たな道に進みたいときはその腕輪を外してぼくに返してくれたらいい。去る者追わず。これを最初の掟とする」


 オレも腕輪をする。その掟はオレにも適用されるものだからだ。


「わたしたちに名前はないの?」


「名前?」


 思ってもなかった問いにきょとんとなってしまった。


「家族なら名前が必要でしょう。店をやるにしても名前がないと困るのじゃない?」


 確かに。まったく考えてなかったわ。


「名前~。じゃあ、月影一家にしようか。店の名前は月影亭だ」


「ツキカゲ? なにか意味があるの?」


「ぼくの家名だよ。月の影。月影って名前だったんだ」


 この世界でも通じるものだ。これと言って思い浮かばなかったから月影で構わんやろう。日本語ではなくここの発音になっている。神の御子や関係者が気づくことはないはずだ。


「今から皆は月影一家。これでぼくらは家族だ」


 家族に体を売らせんのかい! って突っ込みを受けそうだが、女が一人で生きるには辛い時代だ。


 オレもこの歳で女七人を食わせ続ける力はない。それぞれに働いてもらわなくちゃ生きてはいけんのだ。


「娼館を目指すけど、月影一家は体を安売りはしない。金を持っているヤツからたんまりといただく。でも、それに見合うサービス──持て成しはする。それは料理だったりお酒だったり。もちろん、快楽もね。金持ちを虜にして皆で幸せになろうじゃないか」


 娼館は娼館でも高級娼館。貧乏人に用はないよ! だ。


「そろそろ動こうと思う。まずは娼館になりそうなところを確保しようか」


「確保って、そう簡単にできるものなの?」


 娼婦の中でリーダー格のマリカンが疑問を口にした。


「そのために灰竜族に後ろ盾になってもらったんだよ。世の中、金ではどうにでもできないことはあるものさ」


 金が物言うには金でなんでもできる世界でなければいけない。じゃあ、この世界で金でなんでも買えると言えるか? いや、言えないと断言できる。この時代遅れな世界で金はまだまだ弱い。金の上にいるのはオレの創造魔法なんだよ。


「エクラカ。建物の目処がついたぞ」


 タイミングよくラウルがやって来た。


「儲けられた?」


「まーな。レーメンが高く買ってくれた。コンロカ地区にあった屋敷を譲ってくれたよ」


 レーメンとはハーマラン教で上から三番目(この地位が一番多いらしいよ)の地位で、ルガルの町の教会のすべてを仕切ったいる存在だ。そいつを抱き込めばルガルの町でデカい顔ができるってわけだ。権力サイコー!


「そこは遠いの?」


「歩いてすぐだ」


 まあ、ルガルの町もそう広い町ではない。歩けば三十分もしないで突っ切れるくらい。一キロもないんじゃない? ただ、周りに隊商を生業にしている一族が多いから広く感じるみたいだ。


「すぐ住めるの?」


「いや、十年くらい放置されていたから改修に半年くらいはかかるんじゃなかろうか?」


 半年か。神の御子がかなり昔からいるせいか一年は十二月。太陽暦をこの世界に合わせたみたいだ。ありがたいものだ。あとは時計とか作ってくれてたら助かるんだけどな。


「水場や井戸はあるの?」


「ここで水がないとやってられない。使える井戸は三ヶ所。水場は一ヶ所だ」


 灰竜族の館にある井戸は五つ。ここよりは小さいんだ。まあ、ここは広いし、井土が三つもあれば問題ないか。


「お金は足りる?」


 権力者は味方にしても改修やらで金は必要になるはず。サイフに金は入っている?


「回復薬が売れている。問題はない。それと、そろそろ娼婦を買わないと不審がられるぞ。どうする?」


「買えるほどいるものなの?」


「掃いて捨てるほどいるさ」


 ハァー。クソったれなところだよ。


「皆に休暇を与えたいからね、十人くらい買ってきてよ」


「回復薬は足りるのか?」


「よく食べてよく休めばなんとかなるよ」


 寝てばかりだが、子供では碌な仕事はできない。勉強は創造魔法で記憶力上昇させれば問題ナッシング。この地域の文字は覚えました。


「楽な商売だ」


「人生の半分を寝て暮らすのがお望みなら叶えてあげようか?」


 寝てばかりの人生が最高と言うなら永遠に眠らせてあげることも可能だよ。


「いや、遠慮しておこう。適度に働いて適度に眠れる人生にしたいからな」


「ぼくもだよ。せっかく生まれたんだ、最高なものにしたいよ」


 辛いだけの人生などゴメンこうむる。人並みの人生を送って満足して死にたいものだ。


「そうなるよう努力しよう」


「幸せになる努力ならいくらでもがんばれるよ」


 それでこそ生きる価値があるってものだ。

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