第13話 ビバノンノン

 ハルガに全面に立ってもらい、職人たちに風呂を作ってもらう。


 まずは二人は入れる風呂だ。さすが大きいのを作って失敗ってのも困るし、風呂に入るのはオレくらいだろうからな。


 職人を十人も集めてくれたので、五日もしないで完成。屋根と壁が布を張っただけなのが不満だが、まあ、最初はこんなもんやろう。贅沢は言ってらんない。


「久しぶりの水汲みだな」


 灰竜族の敷地は広いが、自由に使える場所は限られている。無駄と思われている風呂なので、牧草地のほうに作られた。なので水場からはかなり離れているのだ。ただ、景色はいいぜ。


「だがご安心めされよ。我には水を運ぶ手があるのですよ」


「誰に言っているの?」


「独り言です」


 なぜかオレの側から離れないルーさん。いや、オレのお守り(秘書)だけど、今は自由時間。好きにしてなさいよ。


 面倒なのですぐに水場に向かった。


 灰竜族の敷地内には井戸が数個あるが、地下水を汲む場所がある。


 なんのためにあるのかと思ったら、井戸に毒を入れられたとき用のものならしい。どんだけ毒殺が流行ってんだよ、ここ!


 地下水なので流れがあり、どこか上流から流したとしてもそれを飲むリスクは低いそうだ。


 ジャジャーン。大容量水筒~!


 前の世界で作った水筒だが、リスタートアイテムとしてボックスに入っていた。


 大容量と言っても口が狭いので大量に入れようとしたら時間がかかる。そんな呑気に水を入れてらんないので十分くらいで終了。湯船をいっぱいにするくらいには入ったやろ。


「それも魔法なの?」


「そうだよ。飲める水ってなかなか手に入らないから創ったんだ」


 現代社会を生きた人間が異世界の川の水を飲むとか自殺行為でしかない。泉があったら当分の水を確保してたんだよ。


 口が狭いから出すのも時間がかかる。なにか考えないといかんな。


 なんとか足りたので釜に薪を放り込んでライターで火を点けた。


 一度は焼いて漏れがないのを確認しているので問題ナッシング。三十分くらいで湯が沸いた。


「うん。いい湯だ」


 この温度、いつぶりだろう? 懐かしくて涙が溢れそうだ……。


「よし。入るか」


 ここに来ていい服を着るようになったが、気温は二十五度以上あり乾燥しているので服は簡素だ。パンツもないのでズボンは直穿き。オレのボーイがフリーダム。次はパンツを作らないとな。


「桶を用意するの忘れたな」


 まあ、今日は試し入り。湯加減をみるものだ。そのまま入ってしちゃいましょう。


「ふー。これだよこれ。この湯を求めていたんだよ。あービバノンノン」


 てか、ビバノンノンってなんだろう? 小さい頃、父親が風呂に入るといつも言ってたんだよな。


「ちょっと熱いな」


 子供の体からか、ちょっと熱く感じる。水を足すか。うん。いい感じ~。


「わたしも入っていい?」


「ん? いいよ。入りな」


 サクランボな坊やでもない。あそこはチェリーみたいだけどな──なんて下品なことは言わないでおくれよ。いつか立派な……いや、止めておこう。上品に行こうぜ、ブラザー。


 オレが子供なのでルーも気にしない。さっさと服を脱いで湯に入ってきた。


「湯に入るなんて初めて」


 だろうね。あんなことになるところにいたんだから。あの臭さでよく事を至れたものだ。この世界の男にドン引きだよ。


「無理しなくていいからね。熱くなったらすぐ出ること。慣れないと茹でちゃうからね」


 オレもまだ長く入ってられない。十分で茹でタコだよ。


 湯から上がり縁に座って風を浴びる。気持ちいいな〜。


「…………」


 なんかやっと新たな世界に生まれた実感が湧いて来た気がするよ。


「気持ちいい」


 ルーも湯から上がってオレの横で涼み出した。


「いろいろ欲しいな」


 湯上がりに涼む用の椅子に冷たい飲み物、桶にタオルに石鹸と、欲しいもので溢れている。


 最初から集めるのは面倒だが、エクラカの人生は始まったばかり。ゼロから生活を築いて行くのもいいだろう。それも人生よ。


 乾いたので服を着て湯を抜く。排水処理もしないといけないな。


「──エクラカ。いる?」


 湯船を掃除してたらばーちゃんがやって来た。


「いるよ。今掃除してる」


 布が捲らればーちゃんと奥様がいた。様子見か?


「本当にお風呂を作ったのね」


「はい。今入って問題ありませんでした。奥様も入りますか? 気持ちいいですよ」


 身分が高いと香水をつけるようで匂いが濃いんだよね。オレ、ちょっと苦手……。

 

「そうね。入ってみようかしら。貴族はよく入るとサリサラから聞いたわ」


 そうなの? 貴族、いい暮らししてんな。


「貴族のような豪華なものではありませんが、試しに入るならこれで充分だと思いますよ。すぐに用意しますね」


 大容量水筒の残りを入れ、焚いてもらうのはルーに任せ、ばーちゃんに必要なものを持って来てもらった。


 三十分くらいでお風呂完了。奥様に入ってもらった。


「……これがお風呂なのね……」


「本当は体を洗ってから入るといいんですけどね。化粧したままだと湯が汚れちゃいますからね」


 ちなみにオレは布の外にいます。ルーのように体を見せるのに慣れてないだろうからな。


「ばーちゃん。縁に座ってもらって髪を洗ってあげて。液体の石鹸があるから」


 シャンプーは創りました。髪も絶対洗ってなさそうだ。油で固めているしな。


 奥様が上がるまで冷やしたマーブの乳を飲みながら待つとする。これ、ウメーな。アイスとか作れそうだ。

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